#2 第2節
碧き水と、渦巻く風のコンビネーション。
威力は破壊には至らず、だが足止めには十分だった。
「オッケー。こっちも負けてられないわ! 地の型ッ!」
美佳は呪文とともに地面に手を当てた。
突き刺すように伸びるのは黄色の結晶だった。
「これ、なんだと思う?」
地属性の魔術は土の形成や硬化の意図で行われることが多いものだが、今回は土に含まれるある成分だけを抽出して結晶化させた————その物質とは、
「そう、硫黄よ!」
————周囲に生え伸びた硫黄に火が点いた。思わずむせ返ってしまうほどの刺激臭と、幻想的な蒼の炎が赤き竜を包み込んだ。
「『黄色の死は蒼炎にて葬る』……こういうの、アンタ苦手でしょ?」
伝承によれば、黙示録の獣——赤き竜の最期は硫黄の燃えている火の中に投げ込まれたとされている。
伝承による因果の結びつき——美佳の臨機応変な対応力は、魔術師としての経験や知識と合わさって強大な効果を発揮した。
弱点を的確に突いた会心の一撃が赤き竜を死へ誘う。
「やっぱり効いてるわね。でも、さらに温度を上げるわ!」
やるなら徹底的に、反撃の余地を与えず倒し切る。
竜の咆哮、それは苦悶の嘆きに他ならなかった。充満する有毒ガスと蒼炎の中で必死に踠く七つ首の竜。だがそれも長くは続かず、ぐったりと倒れ込んだ。
「よし、あとはそっちのキラキラだけ!」
まだ生きてはいるが、あの状態では長くは保たない。数分としない間に死に至るだろう。
踵を回して幸斗たちの方へ振り返った。
薫が前衛となってオリガミによる近接戦闘、それを補助する形で幸斗が碧水の援護射撃をしている。
「——っていうか! アンタのそれって近接戦できるタイプなの⁈」
「まあ、なんとなく。できそうだったからやってみたんだけど……」
オリガミはその名前通り、姿が紙のようなもので構成されているため物理干渉的な攻撃は向いていないと美佳は思っていた。
しかし薫はオリガミの腕に空気の層を生み出すことでそれを実現していたのだ。
ある意味で————一番センスがいいのはこの男なのかもしれない。力に目覚めてまだ数日と経っていないのにも関わらず、精密な操作に能力の応用まで自力で身につけることは長年努力をして力を付けてきた美佳が嫉妬してしまうほどであった。
「え、そんなノリでできるもんなんだ…………ともかく! アンタはそのまま前線を張ってて!」
振り向いて応える隙はないが確かにその声は届いていた。
薫の背後から現れるオリガミが斬撃を弾き反撃のタイミングを窺う。
その後ろで幸斗の碧水による面の攻撃で退路を塞ぎ、美佳の刺棘驟雨がゴーレムの集中を割く。
相性という点では幸斗と美佳はそのゴーレムには有利であった。火と水、互いに相反する性質が西洋の四元素理論では刻まれている。
一対一では相剋する関係でどちらにも有利不利は生まれていないが今回は勝手が違う。
ゴーレムの攻撃は薫が受け流しているのでこちらの攻撃だけが抜群に通っていた。
「このまま押し切るよ!」
——決着はすぐに着いた。オリガミの拳がゴーレムの胸部を打ち砕く。
「見えた! アタリよ薫、そこにコアがあるわ!」
剥き出しになった球体に向かって美佳が急速に接近し、最後のトドメを与えた。
「ゴーレム相手にはこういうべきかしら? ——強制終了‼︎」
シャットダウンのコールをしながらゴーレムのコアに手を当て信号を流す。
「外部カラ ノ 入力 ヲ 確認。 当機 ハ 同位体 ヲ 召集シ 緊急停止 シマス」
そのアナウンス通りにトパーズのゴーレムは動力を失い機能を停止した。
「ふう、これで一件落着ね」
「でも最後なんか怖いこと言ってなかった?」
「ああ多分、残りの二体を呼んだんじゃないかしら。これで探す手間が省けたわね」
「そんな気楽に言われても…………ッ!」
この場にいる全員が油断をしていた。その異変に気付いたのはたまたまそれを目視できる場所にいた幸斗だけだった。
幸斗の目に映るものは美佳が言っていた増援ではない。彼らはまだヤツが消滅することを確認していなかった。
主である召喚者を倒せばそれに付随するものも消えているだろうと思い込んできた。だが、実際に目の前には——美佳が瀕死まで追い込んだ七つ首の赤竜が迫ってきていた。
「避けろ!」
そう言うも間に合わないことはわかっていた。
火事場の馬鹿力というやつか、赤き竜は最後の力を振り絞って美佳に咬みつこうとしている。
枯れ切った咆哮とともに獣の牙が美佳に突き刺さる——その直前に、
——どんっ。
美佳の身体は押し除けられ、宙へ投げだされた。
これしか方法がない——そう思い幸斗は美佳を庇ってその牙をモロに喰らった。




