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『祈現の碧』Prevalent Providence Paradigm  作者: 宇喜杉ともこ
第4章 痾裡栖─アリス
58/59

#1 第2節

2/

 

 櫛見幸斗、真風屋美佳、織本薫の三人はシャルディーンの手がかりを得るために市街地を探索していた。

 

「……とは言っても、なんの情報もなしに歩いても埒開かないわよねー」

 

 退屈そうな、気だるげな声で美佳は呟いた。

 学校を出て数分、特にあてもなく街にいたのだが、やはり明確な目標、方法がなければ半日を徒労で終わらせると早々に勘付いた。

 

「それなら、()に考えがある」

 

 幸斗の瞳に深い緑の光が射す。

 

「幸斗⁈ いや、アンタは……‼︎」

 

「面と向かって話すのは初めてだったよね? トリープと呼んでくれればいい。それで、あの魔術師を探る方法なんだけど……」

 

 彼は建物の壁に手を当てて、何かを読み取るかのようにその表面をなぞった。

 

「八敷意が出逢ったと言った彼の使い魔——その魔力を辿ってアジトを探す、というのはどうかな?」

 

「その使い魔がどんなのだったとかって話はないの?」

 

「あ、それについては僕が聞いてる。確か『天使の名を冠した宝石のゴーレム』的なことを言っていたような」

 

「……なるほどね。その特徴なら、全部で十体いるって感じかな?」

 

 薫から明かされた情報を基に、美佳はその存在がセフィロト由来であることを察知した。

 

「…………あとは先生がどれくらい倒したのかってところだけど、薫はそこについての話も聞いてる?」

 

「実は結構倒してるって言ってたよ。遭遇したのは七体、全部破壊済みだって」

 

「ならもう残りは少ないじゃん。どうせなら全部潰してやりましょ?」


 美佳の提案に二人は賛同して、ゴーレム退治計画が始まった。

 

 

 橋の下、せせらぎ心地良い小川のほとり。そこに一体目のゴーレムを発見した。

 水流によって角を削られた小さな丸石が敷き詰められているその地面から、生えてくるようにして現れたのは光沢を持った黄色——トパーズでできた人の腕だ。

 

「ってことは……対応するのはミカエルね」

 

 光輪、翼、剣、天秤、その姿は正しく天使と呼ばれる存在の特徴に合致している。しかしその肉体を構成するのは人のような血肉にあらず、黄玉で満たされている。


「対象 リスト該当者 ト 判明。当機ハ 只今ヨリ 戦闘モード ニ 移行シマス」

 

 天秤を天高く翳し、そこから魔力が励起するのを感じた。

 

 ————血溜まりのような赤黒い泥が湧き出で、零れ落ちる。

 

 双方の皿から小石の隙間に注がれるようにして地中を蠢くものの正体は——、

 

「蛇……⁈ いや違う、これは!」

 

 赤き竜、あるいは悪魔か。ヨハネの黙示録において、竜の姿であるサタンを打ち滅ぼし地上へ追放したというミカエルの逸話を基にしたものであった。

 天秤から滴る流動体の正体は竜の首。それが地中から七つ、姿を露わにする。


「七つの首に、十の王冠。……倒した相手を味方にしてるのってズルくない⁈」

 

 美佳の言っている内容は伝承の話に明るくない幸斗や薫にはよくわかっていなかったが、対峙する十角の赤竜が脅威であるというのは空気を震わすような殺気が放たれるのを以て理解していた。

 

「まずは、あの首を切り落とそう」

 

 三人がそれぞれ力を込めて、攻撃を開始した。

 

空想基盤仮設(オーム・マーヤー)()火の型(アグニ)ッ!」

 

 美佳の火炎魔術を合図に戦闘が始まった。

 対する赤竜は火球を吐いた。降り注ぐは隕石の如く、或いは火山噴火の噴石か。

 衝突の轟音、炎が岩石を溶かす。

 

「よし、こっちの方が温度は高いっ!」

 

 爛れるように地面に落ちた溶岩を見ながら美佳はこちらの優勢を確信した。

 

「対象 ノ 出力 ヲ 確認。 召喚式『セリオン』 ノ 出力調整 ヲ 行イマス」

 

 竜の口腔が熱を帯びる。

 

「嘘、まだ本気じゃなかったの……⁈」

 

 驚愕する文研部たちなどお構いなしに竜はその炉心にエネルギーを集め、火球を放つ——だが、

 

「今度は最初っから溶けてるし!」

 

 慌てふためく美佳、しかし警戒すべきものはまだ他にもある。

 

「美佳ッ、後ろだ!」

 

 前方には火球、後方には剣。黄玉のゴーレムが迫ってきていた。

 しかし既にそれをカバーする用意はできていた。

 

「防げ、オリガミ!」

 

 白き式神が姿を現す。薫が律している怪異の腕が山吹色の剣を受け止めた。

 その間に横から幸斗が碧水を放射し、火球を鎮火する。

 

「助かったわ……‼︎」

 

「礼はあと、今はとにかく早めに赤いのを倒さないと」

 

「……そのことだけど——二人とも、そっちのキラキラゴーレムをお願い。コイツはウチが片付けるから」

 

 美佳は不敵に笑った。彼女がこのように笑うときは、いつだって自然と周りに勇気を与えてくれる。

 

「任せた!」

「……はい!」

 

 その応答に合わせて、彼女の笑顔が二人へ伝播した。

 

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