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『祈現の碧』Prevalent Providence Paradigm  作者: 宇喜杉ともこ
第3章 華隷彌─カレイド
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#6 第3節

  ◇

  

 

 シャルディーンの手袋にはある文字が刻まれていた。

 そこに魔力が流れると魔術が発動する仕組みだろうか、そこから炎が放たれた。

 

「ルーン魔術かっ……」

 

 咄嗟に身を翻して火の粉を一つすらも避け切った。そのまま呪符を手にしてこちらも魔術を発動させる。

 

「ほう、面白いものを持っているなっ!」

  

 呪符を貼り付けた地面から、棘状に変形されたコンクリートがシャルディーンに向かって伸びていく。

 しかしその攻撃は空を泳ぐようにして避けられた。

 

「ならば私も面白いものを見せてやろうっ!」

 

 男が手にしたのはゴルフボール程の大きさの球体だった。色は澄んだライトブルー。

 溢れる魔力とともにその球体が自身のところへ向かって来ることを直感した。

 

黄道(マーキュリー)(イン)六番(ヴァーゴ)()葡萄を摘む女(ヴィンデミアトリクス)

 

 しかし身体は遅かった。否——あの球体が速すぎた。

 

「なっ……んぐっ……!」

 

 吐血しながら私の身体は立膝をついた。

 気付いた頃には腹部に孔が空いていた————腹部を抜けた球体はブーメランのような軌道を描き、既にシャルディーンの手のもとへ戻っている。

 

「フフ、驚いてくれたかね? これはフィロアステリ家に伝わる至高の魔術工芸品(アーツクラフト)! 名を『照応(オルタ)天球(プラネッツ)』と呼ぶ…………今のはその内の一つ、『水星球』だ」

 

 男は不敵な笑みを浮かべ、上機嫌に言葉を躍らせる。

 見下ろした視線がこちらに注がれるが、屈辱感を味わったのはその視線よりも先手を取られたという事実によるものからだった。

 

「なるほど、それで処女宮(はら)を穿ったという訳か……。謂わば天体照応魔術——星に紐つけられた特性という縛りで魔術の威力を上げている……」

 

「その通り……物分かりが良くて助かるよ。水星に対応する黄道は二つ。しかしもう一つの双児宮(ジェミニ)が対応する性別は男性。そのズレがある分威力は減衰してしまう……最大限に威力を発揮するためにさまざまな縛りがあるというのは、魔術として道理だろう?」

 

 必要以上に自らの魔術道具の説明をするシャルディーン。だがおかげで対策は容易に想像できた。

 

「次はこれを使おうか……さあ、どう防ぐ?」

 

 彼の手に浮かび上がったのは紫色の球体——土星の象徴だ。であれば狙いは膝か……‼︎

 呪符を脚部に貼り付けて魔力の障壁を身に纏う。

 

黄道(サターン)(イン)一番(カプリコーン)()仔山羊の尻尾(デネブアルゲディ)

 

 紫球に魔力が滾る。眼球に巡った魔力が視力を強化し、今度こそ軌道を見逃さまいとした。だが——。

 

「違う、狙いはっ……⁈」

 

 予想が外れた。というよりも、彼の魔術に対して失念していたことがあるといったほうが正しいか。

 

「そう、地属性」

 

 土星が持つ地属性の性質を引き出すことで先程私が出したコンクリートを取り込み、巨大な塊にしていた。

 

 ————まともに喰らっては押し潰される。

 

 そう予期して身を退こうとするが、腹部の傷と脚部についた障壁が仇となった。それによるロスはコンマ秒単位。しかしその差は致命的だった。

 

「まずい……‼︎」

 

 即座に呪符を張り替えることで機動力を補い、直撃は免れた。しかし破砕された瓦礫が衣服や顔を掠め切るも、呼吸を置く間も無くシャルディーンは私の背後を取っていた。

 

「素晴らしい。——だが、おそい」

 

 扉を蹴破るような蹴りで私の背中を蹴飛ばし、この身はタイルの床に放り出された。

 

「読みを外しても機転を利かせて対処するその冷静さ、感服に値する。しかし悲しいかな、貴殿の傷では既に万全には戦えない。もう少し楽しみたかったが私もアレを追わなくてはならないのでね。ここらで終いとするとしよう——『星よ、廻れ』」

 

 瞬間、男の周囲を複数の球体が回り始め、それぞれの位置へついた。

 中空に浮かぶ照応天球は合計で十個——太陽から月を含めた海王星までの惑星たちだ。

 シャルディーンの胸の位置にある緑色の球体の上に九つの球体が規則的に浮かんでいる。

 

「これは……セフィロトか!」

 

 カバラ数秘術における無限のエネルギーを持つ大樹。それを惑星の位置で再現することで、圧倒的な破壊力を生み出すことがシャルディーンの狙いだ。

 

「天上より来たる裁きの光を受けるが良い——『生命樹の雫エン・ソフ・アツィルト』」

 

 地球と照応する緑の球体から、強力な魔力の波動が放出された————。

 

 商店街の端から端までを制圧するような殲滅の具現とも云うべき極太ビーム。

 無論、無限のエネルギーとは程遠いが現代の魔術師が扱える魔力量としては最上級のものだった。

 

 ——私は勝負において敗北することはあっても、それによって死ぬことはない。なぜなら外的要因で受ける致命傷は全て式神に肩代わりさせているからだ。

 しかしそれにはデメリットがある。例えば今のような状況、私が致命傷を受ければこの身体は式神に置換されてしまう。

 そして本体である私自身は誰にも教えていない秘密の場所で身体を再起動させるのだが、私が今いるこの場所から一時的にでもいなくなるということは、即ち奴がトリープ達を追ってしまうということだ。

 それだけは避けたい。

 

 

 故に——ここで私は切り札をだす。

 

「確かに、私は万全とは言えないな……だが魔術師が自らの手で戦わなければいけないという道理はない」

 

 私が手にしたそれは、木片で組み立てられた人形だった——。

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