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『祈現の碧』Prevalent Providence Paradigm  作者: 宇喜杉ともこ
第3章 華隷彌─カレイド
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#5 第3節

 

 四人は一堂に会した。集合場所は江峰東高校の体育館裏、ちょうど人はいなかった。

 

「それで、どうやってその美那萌って人を捜すんですか?」

 

 織本薫が、横たわった美佳と荒志郎を覗き込みながら八敷先生に尋ねた。

 

「それならば私に任せてくれ」

 

 八敷先生の手にはビーカーのような容器があった。

 その容器を倒れた二人に近づけると、容器の中は桃色の気体で満たされていく。

 

「彼女の魔力の残滓を辿って追跡する。こいつに付いていくといい」

 

 八敷先生が指差す先には黒い犬がいた。容器に満たした気体を犬の鼻に当てると、その犬はこちらに目配せしながら走り始めた。

 

「私の影を媒介として現れる使い魔だ。こいつに魔力の匂いを覚えさせた。準備はいいか? ——では、行くぞ」

 

 そうして四人は先生の使い魔を追って夜を駆けていった。

 すると突然、犬が脚を止める。

 

「なんだっ⁈」

 

「やっぱり、そう簡単には行かせねぇか」

 

 現れたのは四人——否、五人の成人男性だった。

 その立ち振る舞いに精気はなく、さながらゾンビ映画のような雰囲気を醸し出す。

 

「すまないが、なるべく手短に、且つあまり傷付けないように対処を頼む」

 

「というわけだから、薫。ここは君に任せたよ」

 

 八敷先生の注文に対し、トリープは薫が適任だと考えた。それに、これは彼自身に能力の扱いに慣れてもらうためにはちょうど良い機会だった。

 

「わ、わかった。やってみる」

 

 薫は手に取った札を己の顎で噛みちぎった。

 

「来い、オリガミ……!」

 

 大気を震わす旋風、長嘶の如くにして織本の怪異——オリガミが現れた。

 

 向かいの男たちは怖気付く素振りも見せず、無心に薫の方へと走り始めた。

 

「風よ……奮え!」

 

 烈風が男たちを包み込む。力加減は絶妙、打撲以下の傷で済むようにして相手を横たわらせた。

 

「よくやった。あとはオレがやる」

 

 梁山浄が『牙』の刀身をなぞると、刃の先から毒液が滴り落ちた。

 

「こいつらに掛かった魅了(チャーム)の魔術を解くのはオレの得意分野だ」

 

 男たちは正気に戻り、怪訝そうな顔をしながらもそれぞれの行くべきところへ歩いていった。


「おそらくこの先も同様に操られた人間を嗾けて来ると思われる。…………慎重に進むぞ」

 

 その後も四人は協力して立ちはだかる男たちを鎮静化させて進んだ。

 

 

 そうして、走った先は江峰市の商店街だった。

 

「むっ、何か来る——ッ」

 

 八敷先生の言葉が皆に届くより先に風が彼らの頬を掠めた。

 

 撃鉄が落ちるような轟音が響き渡る。

 それは梁山浄の手にした鉈が何かを弾いた音だった。

 

「おっと、これは予想外。ここで二人ほどは落とすつもりだったのだが」

 

 上空から声がした。薫たちが声のもとへ視線を動かすと、そこには白髪の青年がいた。

 

「今のは……魔弾(ガンド)撃ちか」

 

 浄の武器の先には黒い泥のような呪いがこびりついていた。

 

「フフ、御名答。流石は荒谷家の当主といったところか」

 

 低く、響くような笑い声を上げながら白髪の男は八敷先生を挑発する。

 

「ふん、埋め合わせで手に入れた当主なぞ意味はない——それで、おまえは何者だ? こちらも急いでいるのでね、用があれば手短に頼むが」

 

「用事? まあそう言われれば聞こえは良いが、私のやっていることは戯れに過ぎない。ちょっとした偵察を兼ねてのね」

 

「ここ最近、妙に私を妨害する使い魔が居たが……それはおまえの仕業だったか」

 

「ええ、しかしそのおかげで良い収穫が得れた……まさか、かの存在がこのような形で現世に現れているとは」

 

 その男の視線は幸斗の身体——トリープに向けられる。

 濃紺に染まった男の双眸の中には、まるで宇宙が閉じ込められているかのようだった。

 

「その眼を私の生徒に向けないでもらおうか————彼は私の教え子だ。おまえの研究材料として渡すつもりはないよ」

 

「おや、こちらの意図まで見抜かれていたとは——であれば手段は一つ。私も初めから、力尽くで奪いに行くのみ」

 

 男の手が銃の形を模して狙いを定める。

 

「君たちは先に行け、私はこいつの相手をしなければならん」

 

 八敷先生が薫たちにそう告げた。使い魔の犬が先導して男の横を通り抜ける。

 それの後を追うトリープたちを見て、男は攻撃を繰り出すも八敷先生が割って入って動きを止めた。

 

「私も後から合流する。二人のこと、頼んだぞ」

 

 その言葉が届くと、薫たちは商店街の照明の影へと消えていった。

 

 ——対峙する男と女。北欧由来の魔術を使う正体不明の魔術師に対して八敷先生が問う。

 

「一体なんの目的で私に覗き見していた?」

 

「それについては順序が違うな」

 

「なに?」

 

「私が貴殿を観察する必要があったのではない。私が観察しているものが貴殿の監視下にあったから貴殿を知る必要があったのだ」

 

「……幸斗のことか」

 

「正しくはその中にいる怪物(モンストル)だがね。アレは実に興味深い。貴殿もそのために飼っているのだろう? なら私と争う必要はないはずだが」

 

「いいや、私は彼の安全のために保護しているだけだ。あの怪異の正体は突き止めたいが、それは彼に危害がないかを確かめるためで、断じて貴様の望みと同じではない」

 

 その言葉を聞くと男は瞳に影を落とし、呟くように言葉を紡ぎ始めた。

 

「そうか……やはり交渉は望めない。ならば決闘しかあるまいな…………」

 

 そして男は声高らかに天上を仰ぎ見て叫んだ。

 

「我が名はシャルディーン・アヌ・フィロアステリ! ————フィロアステリ家の名の下に、貴殿を温情なく葬ろう!」

 

 その言葉とともに男の右手が翳される。

 その瞬間、八敷先生の視界は惨禍が如き炎に包まれた。

 

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