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『祈現の碧』Prevalent Providence Paradigm  作者: 宇喜杉ともこ
第2章 虚月─ウロツキ
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#3 第4節

 目を覚ませば、私は自室のベッドにいた。

 窓から差し込む光を見て、今が朝だということを知る。昨夜から一晩が過ぎて今回のことを振り返ると、とんだ茶番のように思う。

 たまたま怪異という事件となったから珍しいことのように思えるけど、畢竟——私の抱いていた不安感やそれに伴う周りの人とのすれ違いは、なんのことはないただの少女の悩みなのだ。

 だから——私の心に潜った怪異(アイツ)の退治が終わったところで、私の『問題(物語)』は終わっていない。

 

 ときに自由とは虚しいものだ。様々なものに手を伸ばす可能性を持たされているが故に、我々はその中から一つを選び取る苦行を強いられなくてはならない。

 何かを選ぶということは、何かを選ばないということ。選択肢は数あれど、たった一つの正解はなく、かといって考えなしに適当に選ぶことは許されない。

 ああ、そうか。私はずっと、その何かで自分が固定されてしまうのを恐れていたのかもしれない。

 部活に打ち続ける私だけが、私じゃない。私にだって遊ぶときもあれば、勉強するときだってあって——物思いに耽って立ち止まるときだってある。

 先ばかりを見据えて一つの道にばかり突き進んでいれば、いつしか自分を囲う周りが見えなくなってしまう。時には寄り道をして、視野を広げなくてはいけないのだから。

 だから私の『破滅願望』はその盲目さ故のものだった。ゴールデンウィークで部活のことばかり考えていた私。その中で今やっていることに先を見出そうとした私。

 私は今やっていることに明確な目標を見据えていない。私はただ楽しんでやっていればそれでよかった。でも何かをやっていると必ずと言っていいほどその行為には結果が求められる。

 走れば走るほど結果をとやかく言われ、実力より高い目標を示される。

 それを拒めばなんのためにやっているのかを諭され、今までの自分全てを否定される。

 だったらやめてしまうのも一つの手だが、それは嫌だったのだ。あくまで私はやる気があってやっている。だけどそれは目標だとか結果のためにやっているのではない。

 そのようなものに縛られず、ただありのままで——自由に駆けていたかった。

 

 先生は自分自身に向けられた声に耳を傾けろって言ったけど、それは何も他人の声だけじゃないのだ。

 自分の内に問いかけられる自分自身の声。私は誰の声を聞いても変わらないなんて言っていた。だがそれは私自身が変わろうとしていないからではないのか。変わってしまう自分を恐れて、だけど自分が一つの何かに固定さえてしまうのも嫌で、矛盾してるような心持ちが私の中で揺らいでいた。私はそんな自分の悩みを自分自身で塞いでしまっていた。

 でも——それも終わらせなくてはならない。

 答えがいつ出るかはわからないけど、私はその悩みに向き合い続けなきゃいけないと思うのだ。


 ゆっくりと窓を開けて、私は外を眺めた。

 高すぎでも、低すぎでもない景色。それが私が眺める目覚めの景色だった。

 このくらいの高さがちょうどいいんだと、ソラを飛んでみて改めて感じた。

 確かに人間は何もかもが縛られた不自由な世界を苦だと感じるかもしれないが、それと同じくらい自由すぎるというのも困ってしまうものなのだ。

 あのときはそれでもいいと思っていた。全てを委ねて、何も考えず、何も感じない——そんな自堕落な自由こそを私が望む本当の自由としていたのだから。

 でも——それは違う。辛いことも嬉しいこともこれからたくさん積み重なっていく。時には辛いことだらけで嫌になってしまう日が来るかもしれない。

 ——でも、そんなことを起こる前から考えたってしょうがないじゃないか。だったら今を一生懸命生きていくだけで十分だと、私は私に言い聞かせるしかない。

 だからといって先のことを思い馳せるなってワケじゃない。それはすぐ明日のことを考えるようなモノじゃなくて、遠い先のコト。

 でもそれは使命感のようなモノとも違う——とても曖昧で、こうあったらいいなっていう祈りのようなモノであるべきなんだ。

 人間は未来予知なんてできないし、先の運命なんてほんの気まぐれでどうにでもなってしまう。

 だからささやかな祈りを未来に捧げる——思ったよりも悪くないものになりますように、って。

 私は思いっきり深呼吸をして、私の一日を始めた。

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