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『祈現の碧』Prevalent Providence Paradigm  作者: 宇喜杉ともこ
第2章 虚月─ウロツキ
26/61

#1 第4節

4/

 

 

 浅田菜乃花の一件から四日が経過した十三日の月曜日のこと、僕ら文化研究部はいつも通りの活動を行なっていた。

 今日訪れたのはとある商店街だった。

 見渡す限りを埋め尽くす大量の人々。この中で怪異との戦いを起こすのは怪異を知らない一般人に混乱をもたらしてしまう。

 そこで僕は八敷先生から貰った呪符を地面に貼り付けた。

 こういう市街地での戦闘では『認識阻害』と『人避け』の効果を持った魔術を発動させる必要がある。

 八敷先生がいれば、呪符を用いずとも指先一つでできてしまうが、僕らではそうはいかない。今日のような活動では先生が来ることは滅多にないので、各自数枚所持するよう先生から渡されているのだった。

 『精力晶石(オドプリズム)』に群がる下級の怪異がこちらに気付く。頭数は八体といったところか。この程度の数であれば手こずることはないだろう。

 まず美佳が遠距離から魔術で牽制する。それにより分断された怪異を僕と荒志郎の二人で対処を行なった。

 菜乃花に憑いた怪異を退治して以降、荒志郎の戦闘スタイルは少し変わった。以前は手刀による近接攻撃を主体としていたが、こっちの方が脳にかかる負担が少ないからという理由で、『再構築』の能力によって錬成された武器を使って戦う事が主となった。

 錬成する武器の中でも、もっとも使用する機会が多いのは一本のサバイバルナイフだった。

 最初は刀を錬成していたが、以前の戦闘スタイルと大きく乖離してしまい、上手く馴染む事がなかったのでナイフを左手に装備するカタチに収まった。

 もともと従来の戦闘方法では左手がお留守だったし、いざというときに右手の能力を発動できるという観点からもサバイバルナイフは荒志郎にぴったりの武器だった。

 荒志郎が華麗なナイフ捌きで怪異を切り刻んでいく。

 その勢いに僕も負けじと奮闘する。

 腕に纏った『碧水』とともに拳を突き出す。戦いを経て、だんだんと力のコントロールにも慣れてきた。

 『碧水』は拳から離れず循環する。

 消費されるエネルギーを、循環によって抑える。なるべく最小限の消耗で戦闘をこなしていく事が今後の課題だ。

 数秒の攻防ののち、怪異を掃討に成功する。

 

「よっしゃ! ウチらにかかれば朝飯前だよ!」

 

 美佳が僕ら二人のもとへ駆け寄り、手に持った札で『精力晶石(オドプリズム)』を浄化する。

 

「これで今日の分は終わりだし、近くのカフェで休憩しよう」

 

「いいねいいねー! 最近暑くなってきたし」

 

「ワタシも賛成です」

 

 僕の提案に両者は頷いてくれた。

 店員が示した窓側にあるテーブルに僕らは座る。

 

「じゃあウチこれ、フルーツ山盛りパフェ!」

 

 率先して注文する品を選択する美佳。それに続けて僕ら男子組もメニューとにらめっこする。

 

「ふむ…………ワタシは、無難にフレンチトーストとブレンドコーヒーにしておきましょうかね。あなたはどうします?」

 

 荒志郎がメニューをこちらに向けて尋ねてきた。カタカナだらけの文字の羅列の中で、ピンと目に留まったものは今季の限定メニュー・甘夏みかんのフレッシュタルトだった。

 

「じゃあ僕はこの季節のタルトで。コーヒーはつけなくていいよ」

 

 それぞれの注文が決まったところで店員を呼び出した。

 三人で会話をしながら、商品を待つ。

 

「さて、そろそろ中間テストですが。みなさんはどうです?」

 

「ぶ————」

 

 思わず口に含んだ冷水を吹き出しそうになる。そんな、ここに来て一番初めの話題がソレだなんて…………

 

「ま、まあテス勉はしてるけど……正直二年になって最初のテストだから、結構緊張するよ」

 

 驚きを取り繕いながら、口の中の水を喉に通して僕は話した。

 僕の学力はお世辞にも高くはない。せいぜい中の上がいいところだ。ただそれは国語は他の教科よりも多少はマシだからという理由で、他の教科は上がつくほどよくはない。

 そんな僕の心境とは逆に、美佳の様子は余裕で満ちていた。

 

「ウチはそこそこ進んでるよー。この調子だと、五教科400くらいはいけるかな」

 

「————」

 

 その一言はあまりにも軽々しく、僕の心を一瞬で炎に染める。

 あれは宣戦布告だと、僕は受け取った。そこそこで八割が取れるなら苦労はしない。

 彼女の発言は煽りでもマウントなどでもない素の発言なのだろうが、それがさらに僕のにとっては癪だった。

 

「くっ……いいよなそういう才能があってさ。僕はいつも真ん中止まりだってのに」

 

「まあまあ、そう僻むのはやめましょうよ。彼女だってそういうつもりじゃあないでしょうし」

 

 荒志郎がなだめる。彼の言ってることは間違いじゃないが、そういう話ではないのだ。

 

「わかっているんだけどさ、なんかこう……自分の力量を実感させられるじゃん? それがどうしようもなくってさ……!」

 

「それはそうですね……ワタシも、去年のテストでは得意な理数科目で負けて驚きでした。それにしても一体、どうしてそうも点数が取れるんでしょうね?」

 

 荒志郎の疑問は僕も気になっていた。彼女の性格はどうみても知的とは言い難い。もちろん見た目や性格で決めつけてしまうのは良くないことだが、普段の学校生活でも特別人より勉強量が多いわけでもないので、一体どのようなことをすれば楽に高得点を取れる思考になるのか是非ご教示願いたいところだった。

 

「別に、特別なことをしてるわけじゃないわ。ただの日々の積み重ね。勉強だって魔術だって、そういうモノでしょ?」

 

 なるほど、どうやら彼女の思考回路は常人とは別物らしい。日々の積み重ねというものを継続的に行える人間はそうそういない。特別なことをしていないと言っているがそれは言うは易しというやつだ。

 

「アンタたちがウチをどう見てるかは知らないけどね、魔術師ってのは精神力、忍耐力がモノを言うんだから——あくまで魔術師も人間、超人的なことを習得するにはそれなりの覚悟がいるの。それを簡単なこととは言わないけど、なにも特別なことじゃない。どんな事でも極めようとすれば自ずと求められることよ」

 

 確かに簡単ではないが言っていることは単純だ。まずは心構えから始めよということなのだろう。

 だがそれでは精神力を鍛えれば僕でも魔術が使えるということになってしまわないだろうか……

 

「あーいや、それはないんだけど。魔術は素質が九割を占めるから。簡単なものなら教えてあげれるけど……正直この現代だと代用が効くようなものばっかりよ。それもコスパでいえば現代機器(そっち)の方がいいし。

 荒志郎の能力だって同じでしょ? 継承できるのは身内だけ。神秘絡みのものは大抵相性があるから、波長が合う血縁のものでないと正しく引き継がれないのよ。

 ————だいぶ話が逸れちゃったけど、ウチが言いたかったのは継続は力なりってこと。毎日家で一分でも机に向かう。基本中の基本だけど、案外難しいのよこれ」

 

 素質が九割とは厳しい世界だな……いやまあその話は本題ではないので置いておくとして、実際継続ができるというのは一種の才能だと僕は思う。

 いつも直情的な美佳だが、実力に伴った精神を持ち合わせている。彼女は侮ると痛い目を見る人間だ。能ある鷹は爪を隠すというが、まさにその通りの人間——もしくは意図せずそう思わせるような性格なのかもしれない。

 

「ちなみに学校でそんなにやってないのはそれ以外にやること——やりたいことがあるから。できるときにやれることをやっておく。これがウチのモットーなのよ」

 

「なんというか、要領のいい生き方というか……メリハリがありますね。ワタシもそれくらい器用な生き方が出来れば良いのですが……」

 

 荒志郎と美佳の間で話に花が咲く。器用な美佳と対照的に、荒志郎は不器用で、人付き合いが不得意らしい。荒志郎が必死になって器用な生き方を教わろうする思いが伝わってきた。

 そんな光景を片隅に置き、僕は隣の窓から外を眺める。行き交う人々や車の中で少し違和感を感じて立ち上がった。

 

「すまない、少し外の空気を吸ってくる」

 

 僕はそう言ってカフェの外に出て、ある学生たちを追いかけた。

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