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Prevalent Providence Paradigm  作者: 宇喜杉ともこ
第2章 虚月─ウロツキ
20/29

#3 第3節

  

 

 文化研究部が浅田菜乃花と接触してから二日が経った五月九日。

 それももうすぐ終わるというような夜分に、僕はスマホから流れる耳を(つんざ)くような着信音によって目を覚ました。

 眠気覚めやまぬままスマホに手を伸ばす。

 

「幸斗! 起きてる? さっき八敷先生から連絡あったけど、今すぐあの廃ビルに来てって!」

 

 八敷先生からの連絡……? スマホを確認すると十分ほど前に確かにその連絡は来ていた。この時間には僕は大体眠ってしまっているので、気づかなかったのも無理はない。

 八敷先生からの連絡は以下の通りだった。

 

『浅田菜乃花に動きがあった。全員例の廃ビルに集まるように』

  

 その連絡を見て、僕は着替えを済ませて玄関を出た。

 玄関を出ると、そこには荒志郎と美佳が自転車を隣に置いて立っていた。

 

「二人とも……待たせちゃったかな」

 

 夜がそこまで強くない僕と比べて、二人は昼と同じようなキリッとした目でこちらに視線を向けていた。

 

「ま、仕方ないわよ。ウチは魔術師の家系だからこういうの慣れてるけど、幸斗はそうはいかないもの。さ、自転車を用意して。急ぐわよ」

 

 そう言って僕らは自転車を漕ぎ出した。


 

 僕らが例の廃ビルに着くと、そこには一人の女性を抱えた八敷先生が立っていた。

 

「八敷先生っ!」

 

 僕らは慌てて先生のもとへ駆け寄った。先生が担いでいる女性は浅田菜乃花だった。

 

「心配するな。彼女は気を失っているだけだ。しばらくすれば目を覚ますだろう」

 

 八敷先生は話しながら菜乃花の体を床に寝かせた。

 

「彼女が目を覚ます前に状況を説明しよう。まず彼女のことについてだが、おそらく『夢と現実の境界がわからなく』なっている。

 夢と間違えた彼女はこの廃ビルから飛び立とうとし、当然の如く落下した。そこを私がすんでのところで回収したというところだ」

 

 八敷先生が視線を菜乃花から僕らの方へ切り替える。その目は鋭く、琥珀色に輝いていた。

 

「そして本題はこの後だ。彼女の動きとともにこの廃ビルにも魔力の揺らぎがあった。今ならもしかすると『虚数ポケット』の中に入れるかもしれん」

 

 その言葉に僕らは微かな歓喜と緊張を抱いた。昨日は為す術もなくただ待つだけの日だったが、今宵その硬直が解かれる。この感情はそれによるものだ。

 

「私も早急に『内側』へ続く『門』を探ってみる。それまで君たちは待機を…………む?」

 

 その言葉が僕らの耳に届くや否や、僕の意識は束の間の断絶を迎えた。

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