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Prevalent Providence Paradigm  作者: 宇喜杉ともこ
第2章 虚月─ウロツキ
18/29

#1 第3節

3/

 

 

 夕方にあった出来事のことを、幸斗たちは家に帰ったあとにスマホのチャットで八敷先生に共有した。


 『つまり、彼女は昨夜夢の中であの廃ビルから飛び降りたということか』


 八敷先生のコメントが幸斗たちに届く。

 荒志郎が先刻の幽霊との戦闘で得た情報は以下の通りだった。

 

 一つ目はあの廃ビルにはさまざまな少年少女の残留思念が残っていたということ。

 

 二つ目はその残留思念の中には浅田菜乃花の精神が混ざっていたということ。

 

 そして三つ目はその精神の記録を彼女本人は持ち合わせていなかったということ。

 

 表面上はただの夢遊病に見えるこの現象だが、これらの状況を鑑みれば怪異による事件だということは明白だった。

 

『その通りですが、その犯人の正体までは掴めませんでした』

 

 スマホの左下に荒志郎のコメントが映る。

 この事件の犯人……荒志郎が対峙した幽霊は菜乃花たちの精神を元に形を成していたが、通常そこまで脅威的な幽霊になることはないはずだ。

 であれば、あの幽霊は別の怪異による影響を受けていた可能性が高い。

 ここまでが夕方、八敷先生と共有した情報だった。

 

『一応推測に過ぎませんが、彼女たちは[月]に対して何か恐怖心を持っていました。ですのでおそらくはそれに関連した怪異なのではないかと』

 

 荒志郎のコメントがさらに下に表示される。

 月に関連した怪異というとどのようなものがあるのだろうか、と幸斗は考えを巡らした。 月を見て姿を変えるとされる狼男や、月に住むという兎……考えるだけ出してみたけれどあまり関係があるようには思えなかった。

 

『月、か……確かに彼女は精神的に追い込まれているというような様子だったと聞いたが、月の性質を持った怪異が犯人だというのなら彼女に狂気を植え付けることも出来得るかもしれん』

 

 八敷先生が考察を進めていく中、美佳が今後の話について切り出した。

 

『それで』

『明日からどうする?』

『その犯人の怪異を探す方法はあるの?』

 

 美佳の質問に対して八敷先生が一分と経たずに返信した。

 

『そのことに関しては既に手段を施しておいた。一つは菜乃花の家に設置した監視用の呪符。これで彼女に何かあった時に早急に対処できる』

 

 相変わらずプライバシーとかを全く考えていない先生の立ち回りに、三人は別の家にいながら全く同じ表情で口をあんぐり開けていた。

 そんな彼らのことなぞ全く知る由もない八敷先生は続けて返信をした。

 

『そしてもう一つ、あの廃ビルを調べてみてわかったことだが、あの建物の内部には異界が存在している』

 

『ウソ⁈』

 

『そんな! ワタシだって解析をしましたが、そんなものはありませんでしたよ!』

 

 文章からでも荒志郎と美佳の動揺が感じ取れるようだった。

 

『いや、君では無理だったんだ。君の手は触れたものを解析する力だからな。そもそも触れられない物にはどうあっても気付くことはできなかったろう。——あれは物質の裏側にあるんだ。一部の魔術師が使う[虚数ポケット]というものだ。まさかそれを怪異が扱うとは思いもしなかったがな』

 

 耳慣れない単語を聞いて幸斗は困惑していたが、美佳がわかりやすい補足を加えてくれた。

 

『簡単に言うと圧縮ファイルみたいなもの』

『解凍する手段がないとみれなくなってる』

『先生やウチは魔術ってコマンドで解凍できるけど荒志郎にはその手段がないからできなかった』

 

 美佳の解説でなんとなくはわかったが、ここで一つの疑問が浮かび上がった。

 

『でもさっき知らなかったみたいな反応してたよね?』

 

 くくく、美佳の焦る様子が目に見えるようだぞ。

 

 幸斗が邪悪な笑みを浮かべる。美佳はその笑顔を目にすることはできなかったが、それでもその光景は容易に想像できて思わず奥歯を噛み締めてしまう。

 

『今日は調子が悪かっただけよ!』

 

 そう強がる彼女だったが、実際のところは美佳には八敷先生ほどの技量がないため気付くことができなかっただけである。

 

『とにかく!』

『明日そこに潜入するってことでいいんだよね⁈』

 

 という美佳の確認に対して、八敷先生は否定的な答えをした。

 

『いや、そう簡単に行けるという話じゃないんだ。まるで内側から鍵が掛かってるような感じでな。現状入る方法がないんだ』

 

『じゃあ、これからどうするんですか?』

 

『しばらくは待機だな。後手になってしまうがそれしかない』

 

『そんな……!』

 

『もちろん最悪の事態に備えて警戒はしておくが……こうも不自由を強いられるのは癪に障るな……だが仕方あるまい、いつ動いてもいいように今は備える時だ。各自しっかりと英気を養うように』

 

 その言葉を最後に、幸斗たちの一日は終わりを迎えた。

 

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