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Prevalent Providence Paradigm  作者: 宇喜杉ともこ
第2章 虚月─ウロツキ
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#5 第2節


 荒志郎は廃ビルの三階を歩いていた。

 

 彼の右手にはモノを『分解』させ、『再構築』できる能力がある。————だが、それは彼の能力の本質ではない。

 彼のような超能力者が持つチカラは理屈や道理を軽視されやすいが、人が()()()()()ものである以上、そこには理念があり、目的がある。

 和泉家が代々追い求めてきたモノ……それは『地球の解読』だ。

 彼が触れたモノを『分解』し、『再構築』できるのは、物体を『解析』したことによる副産物的現象————。触れたモノを瞬時に解析する能力、それこそが彼の右腕の本質————その力を荒志郎の先祖は『叡智闢く遡源の手(アカシック・リーダー)』と呼んだ。

 

 荒志郎が壁に右手を当てる。荒志郎が触れた地点から周囲を『解析』し、建物内にある異物を探す。

「ふむ、この階には菜乃花さんはいないようですねぇ……おや?」

 荒志郎は小さな違和感を感じ取った。どうやらこの空間に何者かがいるようだった。しかし廊下を注視しても特に異常は見当たらない。気のせいだということにして、荒志郎は次の階へ向かうことにした。

 先を急ごうと階段の方へ振り返る。

 

 その時————背後から鋭い殺気が荒志郎を襲った。

 

「まったく……そのままでいればワタシも見逃したのですが……」


 振り向き様に右手を振り払う。

 忍び寄る影は荒志郎の手刀によって胸部を切り裂かれ、倒れ込んだ。

 崩れ落ちた敵は粉微塵になって消失する。

 姿こそはっきりと捉えることはできなかったが、触れた手が奴の存在を『解析』していた。建設時より住まう残留思念の集合体、つまりはゴースト。

 幽霊というものは大きく二つに分けることができる。一つはある人間の魂が肉体という器を失うことで彷徨うことになったタイプ。このタイプは低級のものがほとんどだが、生前に持ち合わせた技量や、怨嗟のエネルギーで強大な力を得る可能性がある。

 対してもう一つは人々の精神が大気中の魔力に転写されて像を映し出すタイプだ。これは人々の魂ほど高度なエネルギーを核としていないからか、強力なものにはならない。

 そして、今回出逢った相手は後者のタイプであった。このタイプは理性がなく、単調な動きのため荒志郎が手こずることはそうそう無い。

 この階では大した収穫はなかった。荒志郎は次の階へ向かい、先程と同じように解析を行った。


「……む」


 やはり、ここにもゴーストがいるようだった。

 だが、さっきより数が多い。数にして八体ほどだろうか。

 荒志郎の手は強力だが、多くを相手するのはあまり得意ではなかった。

 幽霊は浮遊する性質上、機動力がそこそこある。とりわけ厄介なのはそのスピードよりも機敏な軌道修正力だ。一体を相手する上でも十分厄介だが、群れると多方から撹乱してくるのでより一層厄介になる。

 そういった相手には広範囲に及ぶ攻撃が得策だが、荒志郎はそのようなものを持ち合わせていない。以前やったような地面を壁に再構築させ、ショットガンのように破裂させる攻撃も奥行きのあるこの廊下では上手く機能しないだろう。


「少し、困ったことになりましたねぇ……」


 各個撃破なんて日が暮れてしまう。この細長い空間でできるだけ建物を傷つけることなく、あの敵を一掃する方法はないだろうか。

 八体いる幽霊のうちの三体がこちらへ向かう。一体は頭上を通り抜け、左右からも一体ずつ向かってくる。


「取り囲んできますかっ!」


 荒志郎は振り向きながらバックステップし、先の幽霊三体と距離を置く。後ろにはまだ四体の幽霊がいるがまだ襲ってくる気配はない。

 各個撃破が時間をかけるとしても、全員を相手にするのはそれ以上に悪手だということを荒志郎は理解していた。

 故にこの三体————同時に相手をする数を小分けにし、短期決着で次にくる四体を相手にする。この方法が荒志郎ができるせめてもの勝ち筋だった。

 床に右手をあて、つながった壁を『分解』し『再構築』を行う。荒志郎の背後には壁が築かれ、自ら退路を塞いだ。

 これで3対1のデスマッチが完成した。幽霊たちはさっきと同じように三方向からの攻めを展開してくる。

 上の幽霊が先行し、視界を逸らしてくる。荒志郎は上の幽霊に気を配りつつ、左右からくる攻撃にも備えなければならない。

 左右の幽霊が動き出す。今度は躱されないように左右からの動きをクロスさせ、正面もカバーしていた。

 咄嗟に防御の姿勢をとる荒志郎。だがその隙を上の幽霊は見逃さなかった。

 荒志郎の首を目掛けて背後から襲いかかる幽霊。しまった、と気付くももう遅い。三方向からの挟撃は荒志郎の右脇腹と左脚、そして首を掠めて切り裂いた。


「か、はっ……」


 崩れ落ちる自身の体に力を込め、体勢を整えようと試みる荒志郎。それを察知したのか、幽霊どもは追撃してこない。おそらくはじっくりと傷をつけていくことで追い詰めるという算段なんだろう。

 鏡写しのように、先程と同じ構図を位置だけ入れ替えて展開されていく。

 次はどこを狙ってくるだろうか。まともに首で受けるのはまずい。であれば上の幽霊を第一に警戒すべきか? だがそれでは左右の二体の行動次第ではそれが致命的なミスになり得る。

 左右の幽霊は一度目にはクロスしなかったことで攻撃に穴ができていた。そのため二度目の攻撃は逃げ場を塞ぐように対策した。

 あの敵がどれほど戦闘に慣れているかはわからないが、幽霊にあるまじき高い知能だった。


「ですがっ……!」


 こちらも対策をすればいいだけのこと。ここまでの失策はこちらが受け身になって後手に回ったことが原因だ。

 しかし下手に突っ込んだところで、躱され続けてこちらの体力が減るだけなのは見えている。

 その点で言えば相手から攻めてくれる方が好都合だと思った。相手から近づいてくれる以上必ず一撃を与える機会はある。ただ問題はその隙に他の二体が攻めてくるということだ。

 この陣形を、相手が()()()()()()タイミングで崩す。決して自ら近()()()()崩してはならない。そしてその行動は一度しか使えない。なぜなら手を見せれば警戒されてしまうからだ。

 故にこの次の一手で勝敗が決まることを荒志郎は確信した。

 

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