3 好きなジャズについて3 【セロニアス・モンクについて】
ジャズを聴き始めて二年が経った頃、ジャズ喫茶に通って、小説を書いて、喫茶店のコーヒーは美味しいものだなどと思いながら、自分でも中古のCDを買うようになり、その音源をウォークマンに入れて、一日四時間から六時間くらいはジャズばかり聴いている、そうした生活の中で、僕は有名どころのジャズマンの演奏を次々と聴いていきました。
ジョン・コルトレーンとセロニアス・モンクが二大スターで、ふたりが共演している『セロニアス・モンク・ウィズ・ジョン・コルトレーン』というアルバムに出会うと、それが好きで、朝夕と聴いていました……。
昔通っていたジャズ喫茶は一通りの小説修行の後に行かなくなりました。自分の芸術性はもっと自由なものだろうと感じて……。それでもマスターの別れはつらかった。なにしろ、あれほど励ましてくれた人もいなかったから。
思い返すと、ジャズ喫茶で聴いた、雨の日のモンクはよかった。ピアノの音が雨に湿っているように寂しく聴こえた夜でした。ぼんやりと空を見ていると、空なんか見ているんじゃないよ、と叱られたけれど、昔亡くなったお祖父ちゃんが、つらい時には空を見るんだよ、と言っていたのをあの日まで覚えていたのでした。
そしてジャズ喫茶が無くなった時、昔のことがひどく懐かしく感じられて、マスターに作家になったよ、と伝えに戻ることができなくなったことを悔やみました。そして、もう六年余りも時が経ってしまった……。
昔、通っていたジャズ喫茶とはそういう形でお別れしてしまったのですが、最後に固く握手をしたのを覚えています。それから、方々のジャズ喫茶をめぐるようになり、十数店舗迷った挙句、自分の芸術性・文学性に見合うお店を見つけて、しっかり通っています。
ミステリ小説→仏教・歴史学→ジャズ喫茶とさまざまな趣味を深めてゆく人生。
エッセイのタイトルに反し、ジャズの名盤の話をひとつもしていないので、セロニアス・モンクの名盤のおすすめでもしたいと思います。
セロニアス・モンクのアルバムは、はっきりいって、どれもとても最高なのですが、わりと入門者向けだと感じているのが『マリガン・ミーツ・モンク』です。
僕はモンクのソロアルバム4枚を推したいところですが、それは後々、モンクファンになってから、たっぷり楽しんでいただければよいので、手始めということでいうと、このアルバムが良いように感じます。
理由は、大したものではなくて、マリガンのバリトンサックスの重量感も大変心地よいから、モンクのピアノ慣れしていなくても、普通のジャズとして、楽しめるのではないかと思ったのです。
かつてのジャズ本なんかを読むと、モンクのピアノは、だいぶアヴァンギャルドで風変わりなものと捉えられていたようです。今聴くと純粋に心地良く、味わい深く、モンク独創の世界観に満ち溢れたピアノという印象ですので、それほど難しくはないと思うのですが、長い間、そう思われていたらしい、彼にとっては常に自然な表現だったのでしょうけれど。
はじめに聴きやすいアルバムとしては『セロニアス・モンク・トリオ』があります。これはモンクの独創性の良さが、どういう訳か、それほどのモンクファンでない人にもすんなり通じる上手い具合になっているのです。
その理由は不明です。
ちなみに僕は『ソロモンク』の「ダイナ」から入りました。これは今でも大好き。
あとデューク・エリントンの曲を弾いているアルバムとか。このアルバムでは「キャラバン」が好きですね。
モンクの音源で一番古いものはおそらく『ミントンハウスのチャーリー・クリスチャン』です。しかし音質が悪いのでお勧めはしません。それに、これをわざわざモンクのピアノ目当てで聴く人は、すでに相当なモンクファンであると思うので、どのみち入門者向けとは言えますまい。
はっきり言ってモンクのピアノはどれも最高です。どれから聴いたって感動ものだし、人生になんらかの啓示を与えてくれるか、深い情緒に導いてくれるか、美しい幻想に迷い込ませてくれます。
僕が一番好きなジャズマンは、セロニアス・モンクです。