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第二十二話 帰還

「イサミちゃん、チビを端っこで寝かせてあげて下さい」


「はい」


 うるさい人が休んでいるうちに、さっさと食事の準備を進めましょう。


「じゃあ、このまま、カツの肉をカツに…………」


 し、しまった……。

 私が顔を上げて子供達の顔を見ると、全員声は出しませんがイノシシと口がうごいています。

 そして、眉毛をつり上げて怒った顔のまま、口だけ笑顔になっています。

 こ、こわいいぃぃぃーー!


「じゃあ、このイノシシの肉をカツにしましょう」


 何事も無かったかのように言って、温めた油に衣を付けたお肉を入れます。

 とうぜんゴーレム調理器の天ぷらセットです。

 カツだけでは無く天ぷらもあげられますよ。

 チビなら「なんだーー、この箱はーー!!」って叫びそうですね。


「さあ、ご飯も炊けたみたいです。まずは、私達だけでいただきましょうか」


「はーーーーい!!!! いただきまーーす!!!!」


 満面の笑顔です。

 もう怒っていないみたいです。


「おいしーーい!!」


 私も含めて全員で言いました。


「レイカ姉の作ったとんかつソースがおいしいのよねえ」

「サクサクの衣が美味しいのよ」

「炊きたてのご飯がおいしい」

「ちがうちがう、両方一緒に口に入れると、ほっぺたが落ちそうにおいしいのよー」


「まちがいなーーい!!!!」


 イサミちゃん、チマちゃん、シノブちゃん、ヒジリちゃんが順番に言いました。最後は全員で大声の大合唱です。


「な、何だよう。もう食べているのかよう。俺の分は?」


 チビが目を覚まして、四つん這いで近づいて来ました。


「あるよ。それです」


「ひょーー!!」


 チビはソースをかけるとすぐに食べようとしました。


「コラ!! チビ!! 『いただきます』を言ってからよ!!」


 一番大人しくて歳下のヒジリちゃんが言いました。

 どうやらヒジリちゃんは、こういうことには一番厳しいようです。

 でもねヒジリちゃん。いただきますは、日本の風習だからチビは知らないはずです。


「ちぇっ! 面倒くせー! いただきますってなんだよ! まあいいか! いただきまーーす!! ぐわあぁぁぁーーーー!!!! 滅茶苦茶うめーー!!!! なあ、レイカ姉、すげえ特産品ばかりだ。とくにこの紫の短刀がすげーー!! さっきは馬鹿にして悪かったよ。ごめん!」


「チビ! 間違えないで! ヤマト村の特産品は短刀じゃないわ。このご飯ととんかつを揚げた油と、そこに持って来た葡萄酒とお酒です」


「おっ、お酒ーーーー!!!!」


 チビの家の外から声がしました。

 チビが家の戸を開けます。

 すると、親方のクマさんと、鍛冶場で働く人達が全員覗いていました。

 そりゃあ、これだけ大声で騒いでいれば気になりますよね。

 においもしているでしょうし。


「うふふ、イサミちゃんの樽と、シノブちゃんの樽はお酒を入れていました。重かったでしょ?」


「ははは、やだなあ、俺達はレイカ姉の訓練のおかげで、あの程度じゃあ重さを感じないよー」


 ――ええーーっ!! 


 樽の大きさから百キロ位はあると思うのですが、それを『あの程度じゃあ重さを感じない』ですってー。たしかに、私もあの子達が余りにも軽そうにしているから、今の今まで重いっていうのを忘れていました。


「ふぁああぁぁぁーー!!!! イサミちゃん、私はもう起きていられないようです。ここにあるものは全部食べてもらっていいですからね。残す必要はありません、後の事はお願いしますよ。私は少し眠ります」


「は、はい。わかりました」


 その後、ここで働く人の家族の方も参加して、外も使っての盛大な宴会が行われたそうです。

 葡萄酒もお酒……といっても出来の悪いどぶろくなのですが。

 どちらも好評だったようです。全部無くなっていました。

 まあ、ヤマト村の作物は出来が違いますからね。


 眠ったのが夕方だったので、今が真夜中でしょうか。

 まだ、全員眠っています。

 不思議ですね。沢山食べて眠ると魔力が戻ります。

 しかも、すっからかんにすると、いつもより沢山戻るのです。

 筋肉のように超回復するかのようです。

 でも、それは年齢を失うという諸刃の剣です。

 超回復させる魔力の量が多いほど年齢を持って行かれるようです。

 今回はどれくらい、若返ってしまったのでしょうか。


「レ、レイカ姉!!」


「あっ! ごめんなさい! 起こしてしまいましたか?」


 イサミちゃんが、私に気が付いたみたいです。


「そ、そんなことはいいんだ! そ、それより!! レイカ姉が縮んでいるーーーー!!!!」


「はぁぁーーっ、やっぱり」


 一目で小っちゃくなっちゃったのが分かるみたいです。


「ほーーら、たかいたかーーい」


 イサミちゃんが脇に手を入れて、たかいたかいをしてくれました。


「きゃっきゃっ!」


 はーーっ何てことでしょう。

 全然楽しくないのに、体がきゃっきゃっ言ってしまいます。

 あれは喜んでいませんよ。むしろ少し恐怖を感じます。

 私は目一杯恐い顔をして、イサミちゃんをにらみます。


「わーーかわいいーーー!!」


 どうにも通じないようです。

 スリスリが止まりません。


「レイカ姉ーー!! おはよう!! …………!!??」


 他の子供達も起きてきました。

 全員私が縮んだことに気が付いたようです。

 体がビクンとなりました。


「んんっ! レイカ姉……」


 チビも起きたようです。

 でも、眠そうです。


「チビ、お世話になりました。私達は行きます。この短刀はチビにあげます。私達だと思って大事にして下さい」


「うん、わかった。じゃあね。おやすみー」


 短刀を手に握ると、もう一度深い眠りに入りました。

 どうやら寝ぼけているようです。


 全員樽を背負って、チビの家を後にしました。

 湖で、赤と青のゴーレムと合流して、空になった酒樽にゴミ金属を集めました。

 ゴミ金属というのは可哀想なので、赤にオリハルコン、青にミスリルと命名しました。


「よし、これで、目的は完了です。村に帰りましょう」


「はい!!」


 全員が私の頭をなでなでしてきます。

 お、おい! おまいらー!! 完全に私を幼児だと思ってなめているだろー!!

 はあぁぁ……です。

最後までお読み頂きありがとうございます。


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