日替わりはカニクリームコロッケ
市川詩織は、ひとりだった。
中学二年の夏からいままで。
本当は、ひとりではいたくない、ひとりだった。
市川詩織がひとりになった理由は、他所から言わせればいろいろあるのかもしれない。けれど結局、あの日、あの夏の放課後、彼女たちが放った言葉に集結するようにおもう。
「いい気にならないで!あんたなんて、森山くんの幼馴染って以外に価値がないんだから」
そうして、市川詩織は、ひとりになった。
ひとりであり続けることしかできなかった。
この時まで。
「詩織!大丈夫か?」
森山健治は、あかりを押し退けて市川詩織のまえに跪いた。「ケガは?どこか痛いところは?」
「だ、大丈夫」と、市川詩織は応える。
いつもの市川詩織なら、幼馴染の問いを無視するか、関係ない。と、離れるのだが、あまりの出来事に反射で声がでてしまった。
「よかった」
森山健治は、胸を撫でおろす。「ケガがないこともだけれど、久しぶりに詩織の声がきけた。嫌われているからな……俺」
「そんな———」
そんなことない。
市川詩織は、言いかけてやめた。
本当は、わかっている。森山健治には、全く非がないことくらい。ただ、彼のそばにいると、また繰り返してしまう。
自分には、なにもないから。
森山健治のとなりには、ただの幼馴染が居ていい場所なんてない。
顔をそらしてうつむくと、市川詩織の黒い髪がサラリと顔をかくす。
気まずい雰囲気を醸しだす幼馴染二人。
一方で、惨事の当事者、若菜あかりは、
「でね、オーバルはさ、細いラインが良きで。もちろん太いのもアリだけれど。やっぱり細いほうがオーバルの良さをアピれるとおもうんだよね。だからメガネちゃんのオーバルは、ワタシ好みがすぎるってゆーか」
と、まだ、メガネのはなしをしている。
高橋匠も「言い訳をさせてほしい」と、あかりに並行する。
「まいったな」
森山健治は、頭を掻いて「あかりちゃん」と、場を遮った。
「あかりちゃんは、お転婆がすぎるよ。詩織がケガをしていたら、どうなっていたか」
「ごめん。そこまで考えていなかったわ。だってメガネ女子だよ?———あ、タコさんウインナー。もらうね」
あかりは、唯一弁当箱に残っていたタコさんウインナーを口の中へダイブさせた。
「あかりちゃん!」
森山健治の怒りがあらわになる。「反省してないよね。ちゃんと詩織にあやまって」
「ごめんて!お詫びに学食おごるし。許して」
学食という響きに市川詩織は、恐る恐るいう。
「い、いえ。大丈夫です」
「なんで?今日の日替わりは、カニクリームコロッケだよ。コロッケきらい?」
と、あかりは、市川詩織の顔をのぞいた。
個室トイレに三人。ギュウギュウである。
「い、いえ。あの……」
市川詩織がもごもごしていると、先程の轟音で生徒が集まってきた。
あかりは、散乱した弁当を手早く片付けて、市川詩織に手をさしのべる。
「ほら、いこ!」
続く