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まひろの特製おいなりさんです

 出かけにのぞいたニュースで朝から絶望をもらい、太陽の元へ身体を投げいれた途端、絶望は現実のものとなる。

 記録的猛暑。

 紫外線が害をなしていると、脳天からジリジリわかる。

 仕事しすぎだろ。と、高橋匠は、右手で太陽を握った。

「お兄ちゃん、お弁当を忘れていますよ」

「あー、ありがとう。まひろ」

「今日は、まひろの特製おいなりさんです」

 外で見るまひろは、二つに結んだ長い黒髪が風に揺れ、かわいい妹の手本のようだ。

 風なんて吹いていないのに。

 外で逢うときは、いかなる場合でも揺れている気がする。

 妹は、扇風機を内臓しているのだろうと、適当に結論づけた高橋匠は、弁当を鞄に入れて、学校までの長い道のりを歩きはじめた。

 最寄り駅まで徒歩五分。ラッシュに揺られて十五分。校門まで徒歩五分。

 汗だくで席へと座り、ペットボトルのお茶を一気にのみほす。

 からの、あかりの視線。

 ここまでが高橋匠、朝のルーチンである。

 そう、ルーチン。

 ここまでは。

「今日は、黒に赤いリボン」

 声をかけてきたのは、クラス委員長のイケメン。森山健治だった。

 委員長なので最低限のやりとりは、したことがある。けれど、たわいもない———品もない言葉を投げられたのは、始めてだった。

「あかりちゃんは、今日もかわいいな。高橋もそう思うだろ?」

 同意をもとめられても困る。確かに顔は、かわいい。パンツもかわいい。けれど、高橋匠にとっての大事は、正直そこではない。おっぱいである。乳である。できることなら、清楚な純白のワンピースで揺れるそれがみたいのである。

「げ、元気そうでいい。かな……」

 昨日あかりの潤んだ瞳に、あれほど乱れた高橋匠だが、突然のイケメン襲来にかえって賢者だ。

「たしかに。あかりちゃんは、いつも元気だ」

 森山健治は、気持ちよく笑って「で、高橋は、元気?」と、会話を進める。

 表情も声色も、気さくなそれなのだが、いままで接点がないだけに高橋匠の警戒は、とけない。

「元気だよ。普通に。———あの、なにか用件?」

「用っていうか、相談ていうか……。高橋もいくだろ?あかりちゃんたちと海。その件でちょっと……」

 森山健治にしては煮え切らない物言いだが、海というワードで少し様子がみえてきた。

 女子三人組の言っていた、海に誘うもう一人の男、カンジくん。は、森山健治のことをさしていたのだ。白川結奈情報では、昨日のカラオケでも森山健治は、委員長の持ち前を発揮して、心配りの良い幹事だったらしい。

「森山も強引に誘われたのか?オレもいきたくはない。けれど、片手間にこなさないとオレの理論が瓦解しかねない。というわけで、一緒に断るという案にはのれないのだが———」

 淡々とつむがれる高橋匠の言葉を「ちょいまて」と、森山健治が遮った。

「断るとか考えてもいないし。むしろ嬉しいというか。そうじゃなくて。———高橋って本当にかわっているんだな。———いや、いいんだ。いまはそこじゃない。そうじゃなくて……」

 なにがいいたいのか、さっぱりわからない。

 高橋匠は、自分のこめかみを人差し指でトントントンと三回叩いて、

「ホームルームが始まる。詳しい話は昼休みでどうかな?」と、提案した。

 


続く


 


 

 


 

 

 

 

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