5年前から優しい雑炊です
玉ねぎをみじん切りにし、大根、白菜、小松菜、しめじを5ミリ幅に、鶏胸肉を1センチ角に切り、水をはった鍋へ投入。具材に火がとおるまで煮立たせたら、鶏がらスープの素と塩胡椒で味をつける。
「おはよう」
と、まひろがリビングに顔をみせたタイミングで、解凍しておいた白米を鍋へ投入。生姜のみじん切りと砕いた鷹の爪を少量加え、溶き卵で仕上げる。
これは、高橋匠が唯一作れる料理で、5年前に妹ができてから、月に1度、必ず作る朝ごはん。
鬼妹を完璧妹へ戻すごはん。
「おいひい」
まだ目の開き切らないまひろは、トロリとこぼす。「お兄ちゃんの雑炊すき」
「そいつはよかった」
「茹でたご飯に生卵が混ざっていた頃が懐かしいです。それはそれで優しいが詰まっていてすきでしたよ」
「そんなにひどかったか?」
「お兄ちゃんの雑炊はひどくないです」
いつだって優しい。と、まひろは、雑炊をゆっくりと食べ終え、食器を片付ける。「5年前から優しい雑炊です」
「料理上手のまひろに言われるとは、嬉しいかぎりだ」
「こちらこそ。———そういえば忘れていました」
まひろは、蛇口を止めて、テレビ横の引き出しを開けた。「瑞穂さんとお父さんから別々に、お兄ちゃん宛に特別お小遣いを預かっていました」
「小遣い?なんで」
「お兄ちゃんが、友達と!海に!1泊!すると、まひろが伝えたからです。瑞穂さんは、目頭をおさえながら息子の成長を噛み締めていました。お父さんは、それなら軍資金が必要だなと、嬉しそうに財布を開いていました」
と、まひろは、2つの封筒を匠へ渡した。
受け取り、中身を確認した高橋匠は、たくさんのツッコミどころを放り投げて、
「なんで別々?」
と、首をかしげた。
「お2人は冷戦中なのです。知りませんでした?結婚記念日をお父さんが仕事ですっぽかしたようで」
「母さんがキレてるのか?」
「はい。散々愚痴を聞かされました。労ってください」
「それは、お疲れ様。雅史さんにも申し訳ないな。仕事が忙しいのは、仕方ないじゃないか」
「まあ、女心ですよ。おかげでお小遣い2倍ですから、お兄ちゃん的には、結果オーライでしょ」
まあ、そうか。そういうことにしよう。
「まひろには、毎回世話をかけているな。今夜まわる寿司でも行くか?」
「お兄ちゃんの奢りなら」
「まかせろ」




