いちごチョコだぞ
ムラムラする。
テスト期間も残り1日。高橋匠は、ペンを教科書に投げ捨て、本棚の美少女フィギュアを見上げた。白のワンピースはもちろんのこと、メイド、チャイナ、バニー、和装、水着。高橋匠を満たしてきた数々。けれど。
「違うんだよな」
チャイナドレスの嫁を手に取った高橋匠は、スカートの中をのぞいて溜め息をこぼす。
「足りない。なんかオシイ」
コレでは、ムラムラの解放までいたれない。テスト期間中だから余計になのか。いたしたいのに、いたれない。
健康な高校男子としては、大問題である。
ならばより2次元へ。高橋匠は、スマホのお宝を漁る。しかし。
「オシイ。コレじゃない」
ならばより原始へ。高橋匠はクローゼットのお宝を漁り出した。
そのとき。
「うっさいんじゃボケ」
ノックもなく扉が乱暴に開かれた。
まひろである。
普段は、家でも完璧な妹まひろだが、月に数日だけ、その仮面をどこかへやってしまうのだ。今日がその日らしい。夕飯どきは、完璧妹まひろだったのに、わずか数時間でここまで変わるのだから女とは怖い。ボサボサの髪もあいまって鬼婆のようだ。
「なにゴソゴソしとんねん。テスト期間中ちゃうんか。あ?」
と、まひろは、クローゼットの前で小さくなる兄へ言葉を投げ捨てた。
「ま、まひろさん。体調悪いのならお休みになっていただいて」
「寝てたらお前がゴソゴソうっさいから、こうして来たんじゃろが。ボケ」
「それは失礼しました。静かにしますんで、何卒おひきとりを」
ばつの悪そうな兄をよそ目に、まひろは、ズカズカと部屋に入り、机の上のチャイナフィギュアを持ち上げた。
「ほんで、なにしてたん?」
「とくにはなにも」
「ほーん」
「…………」
気まずい!
普段なら「そうなの?では、お勉強頑張ってくださいね」と、にこやかに去ってくれるまひろだが、いまは激辛妹。手段がわからない。
はやくいたしたいのに!
そうだ!
高橋匠は、机の引き出しから非常食を取り出した。
「まひろさん。チョコレートはいかがだろう」
チョコレート持って、さっさと自室へ戻ってくれ。
「いらん」
「でもほら、まひろの好きないちごチョコだぞ」
「いらん言うてるやろ。いまチョコなんぞ食べたら悪化するわ」
そんなことより。と、まひろは、開かれたクローゼットへ脚をすすめて、中を覗き込んだ。
ガサガサと物色する。
匠お兄ちゃんの顔は、真っ青である。
やめてくれ!
しかし、思いも虚しく、それは簡単に暴かれた。
「しょうもな」
と、まひろは、兄のお宝を床に投げ捨てる。
おわった!
兄、高橋匠は、羞恥でのたうちまわる。
それはさ、トップシークレットじゃん?いくら妹でも見て見ぬふりするところじゃん?
兄半泣きである。
その姿をみたまひろは、
「しゃあないな。少し待っとれ」と、自室から1冊の雑誌を持ってきた。「これ使え」
それは、下着カタログだった。
「え?あ、ん?」
状況についていけない兄へ、まひろは、
「静かにヤレ!次はない」
と、無関心に扉を閉めて自室へと戻っていった。
残ったのは、下着カタログと、尊厳を失った兄。
いたせたか否かは、想像にまかせたい。
つづく




