エビチリ辛くなくない?
昼休み。高橋匠は意を決して、白川結奈のまえにたった。
「白川さん。昼メシおごるんで、い、一緒に学食へいかないか?」
悩んだあげく、たどり着いた高橋匠のシンプルな誘い文句は、白川結奈にとって想定外でもなかったようだ。
「いいよ。いこか」
と、あっさりしている。
なぜだ。陽の人間にとっては、普通のことなのか。こっちは、胃がキリキリしているというのに。
白川結奈は、まるで高橋匠の意図をわかっているかのように、ついてこようとする若菜あかりを華麗にかわして教室をでた。
「結奈、エビチリがいい。エビチリ定食。ご飯少なめ」
祭り会場ですか?と、高橋が学食の雑踏に圧倒されるなかでも、白川結奈は通常運転だ。
「席は、結奈がとっておくからヨロ。高橋くんのお弁当、結奈がもっててあげる」
おおせのとおりに。
高橋匠は、行列へならび、エビチリ定食ののったおぼんを危なっかしくもって、あたりを見渡した。
白川結奈が窓際の席から手を振る。
ひとにぶつからないよう細心の注意をはらったので、白川結奈の向かいへ座ったころには、疲労困憊の高橋匠だった。
「おつー。あんがとね」
「はい。疲れました」
白川結奈は、きゃははとわらって「そんな高橋くんに結奈からカフェ・オ・レのプレゼンだよ」と、小さなパックを弁当と一緒にわたした。
「ねえねえ、食べていい?」
「どうぞ」
「やった。ごちになりまーす」
高橋匠も弁当のふたをあける。だし巻き卵にタコさんウインナー、野菜の肉巻きとほうれん草のごまあえ。今日もうまそうだ。
よし!
まひろの弁当に癒しと勇気をもらった高橋匠は、
「それで、夏休みにいく海水浴のことなんだが」
と、きりだした。
「あーね。あかりからきいてるよー。A組の市川さんでしょ。ケンジくんの幼馴染」
このエビチリあんまり辛くないな。と、食べながら白川結奈はいう。「まさかケンジくんまで好きな人がいたとか。結奈は、この夏どうしたらいいんよ」
なるほど、あかり経由で知っていたか。そして、やはり恋愛対象においていたか。危なかった。
「それより、結奈のエビチリ食べてみて。はい、あーん」
考えごとをしていた高橋匠は、反射でくちをあけてしまった。
恥ずかしい!
「ね?このエビチリ辛くなくない?」
無邪気にきゃははとわらう白川結奈。
たいして、高橋匠は、どうにかなりそうな表情筋をなんとかただして、カフェ・オ・レのパックがぱこんと音をたてるまでいっきに飲み干した。
まわりの視線が怖くて、味なんてわかるか。これだから陽キャは!
コホン。
高橋匠は、ひとつ大きな咳払いをして、本題にはいる。
長居は無用だ。
「話をもどすが、オレは、その幼馴染二人を仲直りさせたいと思っている。しかし、当人からすると迷惑なことなのだろうか」
「んーどうだろ」
と、白川結奈は、一考してくれた。
やはりオレの目にくるいはない。白川結奈は、ギャルの中では、常識人だ。その証拠に走りだすこともない。でも、もう、あーんは、やめてほしい。本当に。
席にすわったまま白川結奈はいう。
「ケンジくんは嬉しいんじゃない?市川さんのことは、結奈は、よく知らんからわかんない。でも高橋くんは、市川さんのこと知ってるんでしょ。だって———」
そして白川結奈は、驚くべきことを平然といった。
「だって、今朝、非常階段で土下座させてたってコマちゃんがいってたよ」
なぜ知っている。あの場にひとけはなかった。それにあれは、土下座は、させたんじゃなくて、勝手にされたことで。あと、コマちゃんてだれ?
焦る高橋匠にたいして、白川結奈は、きゃははとわらう。
「コマちゃんは、花小町遊さんだよ。ハナコマちゃん。コマちゃんがね、たぶん昼休みに高橋くんが話かけてくるっていってて。———そうだ。コレわたすようにいわれてたんだった」
白川結奈は、ポケットからポチ袋をとりだした。かるく手アイロンをしてから、高橋匠へ手渡す。
「中身なに?」
と、白川結奈。
情報が多すぎて混乱したまま袋をあけた高橋匠は、中身を確認するや否や、バチンと、手で、袋ごとテーブルに押し当てた。
は?は?はー?
コンドームじゃねえか!
続く




