まひろのカレーが食べたい
脳からの糖分要請により、高橋匠は、市川詩織を従えて体育館わきの自動販売機にきた。
放課後の体育館まわりは運動部員であふれかえっていたので、ひとめを気にする市川詩織は、俯いている。
「無理してついてこなくてもよかったのに」
「いえ、まだ話の途中ですし」
話の途中ねえ……。
カフェ・オ・レを片手に、高橋匠はいう。
「若菜さんと森山の仲をとりもつということなら、オレはできない」
市川詩織に片恋をしている森山健治を応援すると、高橋匠は、決めていたのだ。
「なんでですか?もしかして高橋さん、自分にワンチャンあるとでも勘違いしてるんですか?あかりさんに好かれているとでも?バカですか。そんなことあるはずないじゃないですか。現実をみてからいってください」
失礼な女だ。
「逆にききたいが、市川さんは、森山のことを恋愛対象としてみていないのか?」
市川詩織は、すこし黙って、すねたようにいう。
「そりゃあ、初恋は、けんくんでしたよ。普通に。でも、けんくんは、どんどんかっこよくなって。わたしなんかが側にいるのは、もうダメなんです」
そして、市川詩織は苦々しくつづける。
「だいたい、けんくんのせいで女子にハブられたのに。けんくんは、その女子たちとキャッキャウフフして、たまにわたしへ声をかけてきたと思ったら、お前がなにかしたのか。って。まるでわたしが悪いみたいに。あー思い出したらイライラしてきた」
自動販売機に小銭をいれて、牛乳をチョイスする市川詩織。「それに比べて、あかりさんは、まっすぐにわたしをみてくれる。余計なことはなにもきかないで、接してくれる。———たまにいるんですよ、善人づらして、わたしに近づいて、けんくん目当てだけのクソ女が。———でも、あかりさんは、そんなこと全然なくて。真剣にわたしのメガネを選んでくれました」
なるほど。と、高橋匠は、相槌をうつ。
やっぱりメガネじゃねえか。
「けれど、いままでの話だと、若菜さんが、森山を恋愛的に好きだとは、到底思えないんだが」
「なにいってるんですか。けんくんを好きにならない女子が、いるわけないじゃないですか」
盲信も甚だしい。
「市川さんは、もう少しまわりをよくみたほうがいい」
「高橋さんには、いわれたくないです」
どうにも、市川詩織は、高橋匠を下にみたいらしかった。
三次元女子には、ロクなのがいないな。と、高橋匠は、空を見上げる。
……それにしてもだ。
森山健治の恋は、このままだとご破産してしまう。市川詩織の物言いだと、イケメン森山健治には、女神若菜あかりがお似合いであり、自分は不釣り合いだとしている。そのうえ、過去の森山健治の対応に憤りを感じているらしい。
なんかもう、面倒くさくなってきたな。
思えば昨日、ギャル三人組に絡まれてから、オレの人生、忙しすぎる。次々と現れる登場人物。他人の恋愛模様。どうでもいい女子たちの長話。
家にかえって、まひろのカレーが食べたい。夏野菜のたくさんはいった豚さんカレーで腹を満たし、エアコンのきいた自室で文字の海へと大航海。
あゝ二次元最高。
「それで、高橋さんは、どうしたら協力してくれるんですか」
「だから、しないって。協力」
「では、カフェ・オ・レ一年分は、どうでしょう?こう見えてわたし、貯金は多いほうなんです。何年もぼっちでしたからね。お年玉もお小遣いも通帳にはいってます」
必死すぎやしないか?
「どうしてそこまでして、二人をくっつけようとするんだ」
「あかりさんと友達になりたいからです」
友達ねえ。オレのパターンとさほど変わらず、明日には、勝手に、友達認定されている気がするけれど。
「友達になるのに恋の応援をしないといけないのか?」
「違います」
市川詩織は、寂しそうにいう。
「わたしは、なにももっていないから。せめて……」
せめて、手持ちのカード、イケメン幼馴染を差し出そうと。アホらしい。
「市川さんは、やっぱり、まわりをよくみたほうがいい」
高橋匠は、感情なくいった。
「いまのきみでは、誰も幸せにできない」
続く




