チーズインハンバーグを食べました
学食まであかりに連行された三人だったが、時すでに遅く、学食は閉まっていた。
各々のクラスへ午後の授業をうけにもどり、帰りのホームルーム。
なんと、あかりは、戻ってこなかった。どころか、カバンの存在もすでになかった。
高橋匠は、万が一の可能性をみて、放課後の雑踏の中、A組へ向かう。
まさか、まさか。いや、いや。
残念ながら高橋匠の予想は、的中した。
なんと、市川詩織も午後の授業に顔をださないまま、放課後に至るらしい。
あの脊髄女、市川さんを拉致りやがった!森山にも伝えるべきか。いや、余計な心配をさせるだけでは。そもそもあのメガネ大好き女が、メガネ女子の市川さんに危害をくわえるはずが———いや、くわえてたな。トイレで。とりあえず下駄箱を確認して、判断は、そのあとに。
こめかみをトントンしながら階段を降りる高橋匠の目線下に、市川詩織の姿が現れた。
どうやら無事らしい。
なら、まあいいか。と、いまきた道を戻ろうと背を向けた高橋匠だったが。
「あ、あの」
市川詩織に声をかけられた。「た、高橋さん、ちょっといいですか?」
とても小さな声で、雑踏にかき消されそうだ。
「森山なら教室だが」
と、応える高橋匠に、市川詩織は、距離をつめる。
「い、いえ。あの、メガネの高橋さんに……。いっ、一緒にきてください」
どこで誰に、そんな行動力をわけていただいたのか。市川詩織は、高橋匠の腕を握って歩きだした。
到着したのは、昼休みにもつかった非常階段。
さすが幼馴染と感心してしまう。
少しの沈黙のあと、市川詩織は、意を決して放つ。
「あの、あかりさんは、けんくんのことが好きだと思いますか?」
「けんくん。森山のことか。いいなそれ、幼馴染っぽい」
「あ、森山くん!です。失礼しました。とにかく、あかりさんが森山くんのことを好きなら、わたしは、全力で応援したいんです。だって、高橋さんを気にいってるって噂はデマでしょう?あんなに優しいくて綺麗なあかりさんが、高橋さん程度を相手にするはずがありません。きっと、なにか理由があって、もしくは高橋さんへの優しさで、そんなデマを放置しているのかと———」
「ちょっとまって」
堰を切って捲したてる市川詩織に高橋匠は、右手をあげて遮った。
「いいたいことは、山程あるが、とりあえず。けんくん呼びで頼む」
高橋の提案に、市川詩織は、よくわからないまま、はあ。と、うなづいて、続ける。
「けんくんは正直、顔だけの男ですが、それでもあかりさんが好きなら応援したい。そこで、高橋さんにも手伝っていただきたくお呼びだてしました。なんと海もご一緒だとか。我々二人で、あかりさんの恋の成就を果たしましょう」
高橋匠は、頭をかかえた。
あかりに強引に連れ回された市川詩織が助けを求めてくる。という予想の斜め上を突破したからだ。
「えーと、市川さん。ずいぶんと若菜さんを気にいったようだが。あのあと、なにがあった?」
「ファミレスでチーズインハンバーグを食べました」
「それで?」
「デザートもご馳走してくださるということで、桃のサンデーをいただきました」
「つまり、食べ物で懐柔されたと」
「違います。これだから隠キャは」
市川詩織は、自分を棚にあげて続ける。
「あかりさんは、ひとりぼっちのわたしを外へ連れ出してくれたんです。友達とのファミレス、メガネ売り場でショッピング。いえ、待ち合わせがなかったので、メガネ売り場は、ウインドウショッピングですね。ですが、あかりさんは、次の土曜、学校帰りにまたいこう。と、約束をしてくださいました。なんと、わたしの水着も一緒に選んでくださるとか。女神様です。あかり様です。わたし、今日のことは一生忘れません」
「女神様はトイレのドアを蹴り破ったりしないだろ」
「そうですね。とても素敵な出会いでした。女神様の上をいきます。あかり神様です」
続く




