私たちの特別な嘘と秘密
ねえ、あなた。今日は少しだけ、いつもと違ったことがあったの。聞いてくれるかしら。
孫のお友達が来てね、昔話をしたのよ。
時間が経つのは早いものね……あの小さかった子が、あんなに大きくなって……ふふっ……あなたがいなくなって、私が落ち込んでいるせいで心配をかけてしまったみたい。だめね。
そう。それで、昔の話をしたのだけれどね。懐かしいわよね、三人で遊んでいたころ。
リチャードはいつも優しくて。トーマスはいつも意地悪で。小さかった私は二人にくっついて回って。
あの頃は楽しかったわね。何にも心配することなんかなくって。トーマスの意地悪は嫌いだったけれど。
ふふっ……あなたはまた、困ったように笑うのかしら。
あの昔話、少しだけ、嘘を吐いたの。気付いているわよね、あなたなら。だって私たちの秘密だもの。
寄宿舎にいたリチャードが部屋の窓から落ちて亡くなった、あの日。帰って来ていたのは、あなただったのよね、リチャード。
トーマスの振りをした、いつもの意地悪で、私の分のお菓子を取っていったとき、「ごめん」って小声で謝ってくれたの、覚えているわ。
そう。だから、あのとき亡くなったのは、トーマスだった。誰も気付いていなかったけれど。
ご両親でさえ入れ替わりに気付かないくらいよく似た二人だったから、誰も気付かなかったとしても、仕方ないわよね。私だけは、知っていたけれど。
そのままリチャードの葬儀があって――あのとき、入れ替わりを話さなかったのは、どうしてだったのかしら。
結局、私たち、そのことについては、話をしないままだったわね。私も聞かなかったから、あなたが何を考えてそうしたのか、今はもう想像することしかできないのだけれど。
でもね、私、あれでよかったと思っているの。
だってそうでしょう? リチャードは亡くなったことになっているけど、生きていて。トーマスは生きていることになっているけど、亡くなっていて。それってつまり、二人とも生きていることにならないかしら?
ね? そうしたから、私たち、ずっと三人でいられたのよ? そうでしょう?
だけど、あなたは、どうだったのかしら。
ずっと、みんなの前ではトーマスを演じていたわね。私の前でだけ、ごめんって謝って。そのときだけはリチャードに戻って。
そうね。何を思って演じていたのかしら。トーマスへの罪悪感? あの日、入れ替わっていなければ、入れ替わりについてすぐに話していれば、って後悔していたのかしら?
ねえ、私たち、どうするのが「正解」だったのかしら?
あのとき入れ替わりについて話していたら、どうなったのかしら。
トーマスの葬儀が行われて、あなたはリチャードとして私と結婚して。
昔と同じように、あなたはずっと優しいままだったかしら。トーマスを演じて意地悪をする必要もなくって、仲良し夫婦になれたかしら。
だけど、そうしたら、トーマスは、いないままだわ。あのとき亡くなったまま。それが正しかったのかしら。
こんなもしもの話、今となってはもう、意味のない話ね。
だけど、たまに思うの。
ねえ、あなた、本当にリチャードだったのかしら。
あなたたち二人とも、とってもよく似ていたから、見た目での区別なんて誰もできなかったわ。それは私もそうだった。
私が区別できたのは、トーマスは私に意地悪をしてきて、トーマスの振りをしているリチャードはこっそり謝ってくれていたから。
それも全部、嘘だったら?
あの日、帰って来ていたリチャードは、私にだけリチャードの振りをしているトーマスだったなら。
ねえ、私、あなたにずっとリチャードの振りをさせてしまっていたのかしら?
ふふ……答えなんて、今更わからないわね。
そう。だから、私が死んだとき、答え合わせをしましょう。
そのときは、また三人で。今度こそ、本当に、三人で一緒よ。