side Men
彼女が部屋に着いたのは男が日記を暖炉にくべた後だった。
それをおくびにも出さず、彼は少女を部屋に招き入れる。
おずおずとした様子は男の知る彼女の母とは異なる。
不遜で傲慢で自由な女は彼の人生にも、目の前の少女の人生にも影響を与えた。
そんな女はすでにこの世にいない。
だが少女は母である女の面影を探しに訪ねてきたのだ。
「さぁ、ここに座って。姉から君のことは生前頼まれていてね」
「母が……」
「あぁ、亡くなる前に病院から僕の元に連絡が入ってね、最後に君のことを頼まれたんだよ」
その言葉に少女の目から大粒の涙がこぼれる。
少女が母に会ったのはほんの幼い頃だけだろう。
両親の離婚後、父方の祖父母に少女は育てられた。
そんな彼女がここにきたのは母に愛されたという証を欲してだろう。
男が病院に着いた時、すでに彼女の母は死んでいた。
先程、燃やした日記にはあの女の恨み辛みが綴られていた。
母の最期に残したものがあれだと少女には知られたくなかった。
今、女が残した悲しい真実は暖炉の中で燃えている。
少女の胸にともった温かな火は少女の未来を明るく照らすだろう。