第6話 異世界人だと信じてくれるかな
「俺のことは賢一と呼んでください。こちらこそよろしく」
「それなら私のことも甲夜と呼んでください。見たところあなたの方が年上のようだ」
甲夜は人好きのする笑顔を俺に向けた。
確かに甲夜は20歳くらいにしか見えない。
たぶん本人の言っているとおり俺より年下だろう。
「こちらの銀髪の女性は志乃舞だ。水族出身だが剣の腕前は闇族の望海と同じくらいだし、弓も得意だ」
「よろしく。私は志乃舞。私のことも志乃舞って呼んでいいわ。私も賢一って呼ぶから」
銀髪のスレンダーな女性が口を開いた。
声も鈴音のように軽やかな声だ。
しかし銀髪なんて間近で見たのは始めてだが美しいモノだな。
それに顔も整ってはいるがまだ幼さが残っている感じがするからおそらく16、7歳というところだろ。
こんな若い少女が戦いに参加しているのか。
日本の昔みたいに成人する年齢が若いのかもしれない。
それに水族ってなんだ?望海が闇族と言っているから種族の名前か?日本人、アメリカ人みたいな。
「初めまして。よろしく。志乃舞」
俺は志乃舞の青い瞳に真っすぐに見られて少し照れながら答えた。
「そして賢一を連れて来た望海だ。望海は私のいとこにあたる」
「望海だ。よろしく」
「こちらこそよろしく。望海」
なるほど望海は月治のいとこなのか。
そう言えばなんとなく顔立ちが似ている気がするな。
「まあ、では詳しい話でもしようか。まずはそこに座ってくれ」
月治は椅子の一つを指差す。
俺は大人しく座った。
「ところで賢一。お前の足につけている物はなんだ?」
やはり気付かれたか。
だが一目見て銃だと気付かないということは、やはりこの世界に銃はないみたいだな。
さてなんて説明するか。
「これは何て言うか……月治たちの剣みたいなモノで鉄の玉みたいなものを飛ばして相手を倒す武器です」
「弓のような飛び道具か?」
「まあ。飛び道具と言えば飛び道具ですね。俺も自分の身を守らないといけないので」
武器と聞いて月治たちが俺から銃を取り上げるかと思ったが月治は少し考えて答える。
「賢一は武器を持っているということは兵士か?誰に仕えている?」
「兵士っていうか軍人であることは間違いないですね。誰と言うより自分の国に仕えています」
さあ、ここからが本番だ。俺が異世界人だと理解できるかどうか。
それともスパイ容疑で捕まるか。
「なるほど。賢一の体格からして軍人なのは納得はできる。だが自分の国に仕えていると言ったがそれは華天国のことかローラン帝国のことか?」
月治は厳しい目で俺を見る。
ここで嘘をついてもややこしくなるだけだし、ここは華天国軍の軍隊だ。
華天国と答えたところで華天国のことを知らない俺が怪しい人物なのは言動ですぐバレる。
それに月治の言ったローラン帝国というのが今争っている敵国と思って間違いないだろう。
覚悟を決めろ、俺。
「俺の出身国は日本国だ。俺はそこで東京の練馬駐屯地にある第一普通科連隊所属の陸上自衛官をやっていた」
「にほんこく?りくじょうじえいかん?」
月治は困惑したような顔をしている。
「月治。信じてもらいたいんだが俺はこの世界の人間ではない。華天国という国もローラン帝国という国も知らない。街で酒を飲んで気が付いたらこの世界に来ていた」
「何を言ってるんだ?やはり朱里の言った通り頭を打ったのか?」
そう言ったのは望海だ。
「俺は正気だ。本当に俺は異世界から来た。その証拠にこの武器だってこの世界にはないものだろう?」
俺は9mm拳銃を取り出し机に置いた。
月治は銃を見ながら思案している様子だ。
「月治様。こいつはローラン帝国軍の者かもしれません。助かろうとして嘘をついているのかも」
望海がそう言うと、月治は志乃舞に向かって指示を出す。
「風花を連れて来い」
「分かりました」
志乃舞は天幕を出て行った。
「賢一。お前が嘘をついているかどうかこの武器を鑑定させてもらうがいいか?」
「ああ。だが実弾が入っている状態は危険だから中の実弾は一度外に出す。それでいいか?」
「分かった。そうしてくれ」
俺は9mm拳銃のマガジンを取り出し、チェンバーに弾が入っていないことを確認するのも忘れない。
さあ、吉と出るか凶と出るか。
俺たちは無言のまま志乃舞が呼びにいった風花なる人物を待った。