第44話 乗馬は必須条件だ
「いいよ、賢一くん。その調子だ」
次の日、俺は中本先生に乗馬のレッスンを受けていた。
昨日、月治に近々野営地を移動すると聞いて俺が気付いたのがその移動手段のことだ。
当然、この世界に車は無い。
あっても馬車くらいであることは野営地を見た俺には分かっている。
基本的な兵士の移動は馬か徒歩。
そして指揮官はもれなく馬での移動が普通だということ。
馬に乗れなければこの先の戦いでも困ることは間違いない。
本当は高機動車とか軽装甲機動車、もしくは装甲車とか召喚しても良かったのだがもし装甲車なんて大きな物を召喚したら今の俺の体力では持たない気がしたのだ。
なにしろ小銃を部隊分召喚するのにもかなり体力を使ったからな。
大きな物を召喚するにはもっと自分に体力と時間がある時じゃないと無理だと俺は判断した。
もしかしたらよくあるラノベの設定のようにレベルアップすれば楽に召喚できるようになるかもしれない。
そうなるまでまずは馬に乗れることが必要だと思い、今朝早くから中本先生のテントに行き乗馬のレッスンをしてもらえるように頼んだ。
中本先生は快く承諾してくれて今俺は乗馬のレッスンを受けているってわけだ。
華天国の人間たちに習っても良かったのだが馬にも乗れないのかと思われると隊長としての沽券に関わる。
夜吹なんかは真っ先に俺のことを馬鹿にしそうだし。
なので乗馬の練習をしている場所は野営地から少し離れた場所だ。
「賢一くんは筋がいいね。次は並足をやってみて」
「はい」
俺は馬に乗る前に教わった乗馬の基本に沿って馬に指示を出す。
馬は指示通りに動いてくれる。
初めて馬に乗った俺はその高さに驚いた。
馬上からはかなり遠くまで景色が見える。
俺は高い所が苦手な訳ではない。
自衛隊でのレンジャー訓練でラぺリング降下も普通にやっていたし、ヘリからの降下も経験しているので全然平気だ。
だけど馬の上というのはまた勝手が違うものだ。
それでも朝早くから練習したおかげで午後にはなんとか乗馬ができるようになっていた。
昔観たアフガンで活躍したグリーンベレーの映画にもあったけど、馬上から銃を撃つまでにはまだ練習が必要だけどこれなら移動するぐらいはできるだろう。
「初日はこれぐらいでいいんじゃないかな、賢一くん。後はなるべく馬に乗る機会を増やして慣れていけばいい」
「はい、ありがとうございます。中本先生」
馬を降りて俺は中本先生にお礼を言う。
すると夜吹がやって来た。
「こんなところにいたのか、賢一。あ、先生も。十六夜の人間には小銃の撃ち方を教え終わったぞ」
「そうか。ありがとう、夜吹」
夜吹のコピー能力は助かるよな。
「ところでここで何をしてたんだ?」
夜吹の質問に俺は言葉が詰まる。
乗馬の練習をしていたなんて夜吹に知られたくない。
しかし俺の思いは中本先生の言葉で暴露されてしまう。
「いやあ、賢一くんが乗馬を教えてくれっていうから教えていたところなんだよ」
ちょっ、先生! なんで暴露しちゃうんですかぁーっ!!
心の中で俺は叫び声を上げた。
「乗馬? 賢一は馬に乗れなかったのか?」
「あ、いや、その、ま、まあな……」
バレてしまったのなら仕方ない。
夜吹に馬鹿にされても我慢しよう。
そう思ったのだが夜吹からは俺を馬鹿にする言葉が聞こえてこない。
「それで練習して乗れるようになったのか?」
「あ、ああ。一応、移動できるくらいには……」
「それは良かったな」
「へ? 俺が乗馬できないことを馬鹿にしないのか?」
予想外の夜吹の反応に俺は戸惑う。
「別に誰だってできることとできないことがあるだろうが。それにできないことをそのままにせずできるように努力する奴を笑うほど俺の性格は悪くないぜ」
夜吹はそう言ってニヤリと笑う。
確かにできないことをできるように努力するのは大事だよな。
俺だって自衛隊に入ってから訓練で努力を重ねたわけだし。
俺は少し夜吹のことを誤解していたのかもしれない。
夜吹は族長から十六夜の部隊をまとめるように指示されるぐらいの男だ。
本当に性格の悪い奴なら十六夜の部隊の連中が夜吹に素直に従うとは思えない。
きっと夜吹の性格の悪さは表面的なものに過ぎないのだ。
「夜吹にそう言われると俺ももっと努力しようと思えるよ。ありがとう、夜吹」
「努力は大切だぜ。俺も賢一を倒せるようにもっと努力するつもりだしな。先生からも教えを受けたいとも思っているし」
「夜吹くん、いつでも指導するよ」
「ありがとうございまーす。賢一を倒せるくらいにしてください」
「フッ……俺を倒せると簡単に思うなよ」
俺は夜吹の言葉にニヤリと笑って答える。
夜吹みたいな男と一緒に戦えるのは心強いぜ。




