第42話 さすが逆ハーレムの女王の国だな
風花のテントに行くと風花がお茶を淹れてくれる。
そのお茶を一口飲みながら俺は息を吐いた。
なんとか夜吹も十六夜の兵士も俺を隊長と認めてくれたな。
まずはじめの一歩を踏み出せて良かったぜ。
戦争は個人ではなく集団での戦いが基本だ。
部隊で行動する以上その隊長は兵士からの信頼がなくては成り立たない。
そりゃそうだよな。隊長の命令一つで自分の命がなくなる可能性だってあるんだもんな。
自分の隊長が命を預けられる人物かは重要だよな。
だがそう思うと俺の両肩にズッシリと重責を感じる。
兵士が俺を隊長と認めたからには俺にも兵士の命を預かる責任が生じるのは当然だ。
しかし戦争で死傷者を一人も出さないことは現実的に無理な話。
事実、葛城副隊長は亡くなったんだし。本物の戦争を体験してない俺に十六夜たちを無駄死にさせないことができるのか…。
「賢一、どうかしましたか? 怖い顔してますよ」
風花の声で俺はハッと我に返る。
いつの間にか自分に圧し掛かる重責に俺は圧し潰されそうになってたようだ。
握り締めていた拳の力を抜いて俺は自分を落ち着かせるように軽く深呼吸する。
こんな姿を見せてたら部下の方が不安になっちまうよな。
「何でもないよ、風花。ちょっとこれからのことを考えてただけだ」
自分にかかる重責に圧し潰されそうだったことを誤魔化して俺はもう一口お茶を飲む。
「これからのことって私と賢一の結婚の話ですか?」
「ぶっ! ごほ! ごほほ!」
思わず俺は口の中のお茶を噴き出してむせる。
「大丈夫ですか! 賢一!」
「ああ、だ、大丈夫…」
まだあどけなさの残る顔で俺との結婚を口にする風花の言葉は破壊力満点だ。
だって日本だったら現役JCと言ってもいいくらいなんだぞ!
その女の子が俺との結婚を望んでるなんて何度聞いても夢のようだろ!
「い、いや、ま、まあ、そのことは戦が終わってからな…」
「賢一の世界ではどんな結婚式をするんですか?」
ん? 結婚式?
「そうだな。親族や友人を集めて顔合わせして料理を食べたりとかかな?」
俺は先輩の結婚式に出席した時のことを思い出しながら答える。
すると風花は俺をジッと見つめた。
な、なんだ? 何か変なこと俺言ったかな?
「賢一は『崖登り』できますか?」
「は? 崖登り?」
なぜ突然崖登りの話になるかは分からないがロープを使って高い場所によじ登る訓練はしたことがある。
「一応、ロープがあればできると思うが…」
「良かったあ! それなら風族の結婚式もできますね!」
「風族の結婚式? それと崖登りと何か関係あるのか? 風花」
「はい! 風族の結婚式では崖の上の花嫁を花婿が崖を登って行って愛の言葉を誓うんです。だがら崖登りができる体力と技術は風族の男は必須ですよ」
はあ!? 崖登って花嫁に愛の言葉を誓うだと!?
なんだその筋肉自慢の結婚式は!? 風族は筋肉ダルマの男しかいないのか!?
「も、もし、その崖を登り切れなかったらその結婚はどうなるんだ?」
「その時は一人前の男と認められずに結婚できなくなります」
「……」
風花は不安そうに瞳を潤ませて俺を見る。
うっ! その小動物のような可愛い瞳を潤ませるのは反則技だ!
だが風花はそこが可愛いから許す!
「だ、大丈夫だ、風花。崖登りは得意だからさ。安心しろ」
「はい! 賢一が崖を登ってきてくれること信じます!」
ハハ…仕方ない。ロープ訓練も密かにやっておくか。
風花が俺の嫁さんになることもあるしな。
待てよ。そうすると風族以外の部族も何か特別な結婚式をやるのか?
「なあ、風花。部族が違うと結婚式の内容も変わるのか?」
「私は風族なので風族の結婚式しか知らないですけどそれぞれの部族でいろんな結婚式があるって聞きましたよ」
そうすると風花以外と結婚する時はその部族の結婚式のやり方に従うことになるのか。
日本と同じレベルの結婚式だといいな。
崖登りぐらいならまだ対応できるがここは異世界だからな。
常識が通じると思ってたら痛い目に合いそうだ。
そもそも結婚式をしないってことはできないのか?
「結婚する時に結婚式をしないってことはあるのかな?」
恐る恐る俺が風花に聞くと風花は首を横に振った。
「妻を娶るのに結婚式をしない男はこの華天国では『男』として認められません。それは六部族共通の条件です」
結婚式をしないと『男』とすら認められないなんて条件厳しいぜ…
さすが逆ハーレムの女王が治める国だな。




