第32話 補給路を絶たれたら命取りだ
「うむ。ケガはかすり傷程度だな。これなら私の薬草から作った傷薬を塗ってればすぐに良くなる」
月治のテントに呼ばれた朱里が春香を診察してそう判断した。
良かった。春香にたいしたケガがなくて。
「春香。お前を襲った奴らはどんな奴らか分かるか?」
「え~と、ローラン帝国軍の兵士に間違いないと思います。今度調達する食糧の運搬経路の指示を糧食部隊に伝えた後に自分のテントに戻ろうとしたら襲われて……」
その時のことを思い出したのか春香はブルッと身体を震わせる。
俺は春香が座っているベッドの隣りに座り、春香の背中に手を回して抱き締めるようにした。
春香は俺の身体に抱きつくように身体を寄せて来る。
「春香。無理をするな。今日はもう休んだ方がいい」
「……賢一」
「月治。春香は敵に襲われて動揺している。今は休ませてあげてくれないか?」
「ああ、そうだな。ローラン帝国軍の狙いも分かったし。朱里、春香を自分のテントに送ってやれ」
「分かりました。春香、立てるか?」
「うん。大丈夫だよ。朱里」
気丈にも春香は自分でベッドから立ち上がった。
そして朱里と一緒にテントを出て行く前に俺の方に振り返る。
「賢一。助けてくれてありがとうございました。必ず御恩は返します」
春香が俺に頭を下げたので俺は慌てて春香に声をかけた。
「何言ってんだ。仲間を助けるのは当たり前のことだろ」
そうだ。春香は俺の大切な仲間。
それに嫁さん候補でもあるしな。助けるのは当然だ。
春香は頭を上げると僅かに笑みを浮かべた。
春香の奴、今夜一人で寝れるのかな。
今夜だけでも誰かと一緒の方がいいかもしれない。
本当なら俺が一緒にいてやりたいが春香と一晩同じテントに居たら俺に告白してきた少女たちにあらぬ疑いをかけられる可能性がある。
まだ春香と付き合うと正式に決めた訳じゃないし。
そんなことで少女たちの関係に亀裂が入ったら第二部隊が分裂しかねない。
「朱里。お願いがあるんだが今夜だけでも春香と一緒のテントで寝てやってくれないか?」
俺が朱里にお願いすると朱里は頷いた。
その顔は「私に任せろ」と言っている。
「分かった。では春香。今日は私と寝よう」
「え? いいの?」
「ああ。二人で賢一のことでも話していよう」
「う、うん……」
朱里と春香はテントを出て行った。
とりあえず今夜は春香を一人にさせないで済んだが最後の朱里の言葉が気にならない訳ではない。
俺のこと話すって、まさか朱里は春香に俺が告白されていることに気付いたのか?
あの二人の様子では修羅場になるってことはないと思うが、朱里が春香と俺の何を話すのか気になる。
「春香が襲われたということはローラン帝国軍は私たちの補給路を絶とうとした可能性が高いな」
月治の言葉で俺は我に返った。
そうか。さっき春香は食糧の運搬経路を糧食部隊に伝えた後に拉致されそうになったんだよな。
敵の補給路を絶つ作戦か。
ローラン帝国軍も戦ってモノを分かっている奴らだな。
戦争では補給路の確保は一番大事なことだと言ってもいい。
弾薬や食糧が尽きたらその部隊は全滅するのも時間の問題だ。
補給路を絶たれたら命取りだ。
俺の召喚能力で部隊全体分の弾薬や食糧を出すには俺の体力が持たない。
「月治。補給路は一つしかないのか?」
「いや、いくつか確保している。毎回、補給路を変えたりして食糧などを運んでいるがそれを決めるのは糧食部隊の春香の仕事なんだ。だが今回は念のため今日指示したものと違う補給路を使うようにあとで私が糧食部隊に伝えておく」
「そうだな。その方がいいと俺も思うぜ」
補給路が一つじゃないのは幸いだ。
「それはそうと賢一。賢一の師匠の方を改めて紹介してくれないか?」
「ああ、分かった。こちらは中本先生だ。俺の忍法の師匠でもあり体術なども教えてもらっている。中本先生、こちらは月治。月治は第二部隊の隊長なんです」
俺が二人を紹介すると月治と中本先生は握手をした。
「初めまして。中本先生。第二部隊長の月治です」
「こちらこそお世話になります。賢一くんと同じ世界から来た中本真治と申します」
「なかもとしんじですか?長い名前なのでもう少し短い呼び名で呼んでいいですか?」
そうだった。華天国には苗字がないんだった。
それなら中本先生は「先生」と呼んでもらった方が俺も都合がいいな。
「それなら「先生」と呼んでくれよ、月治」
「先生? まあ、賢一が言うならそれでかまわないが」
「中本先生もそれでいいですよね?」
「あ、ああ。賢一くんがそう言うなら私はかまわないよ」
月治も中本先生も俺の意見を承諾してくれた。
「では先生には後で使っていただくテントに案内します。それと賢一。先ほど連絡があってな。もうすぐ第一部隊からの賢一の兵士が到着する予定だ」
「え? こんな夜にか?」
「夜だから闇に紛れて移動ができるのさ。彼らは基本的に闇族の出身者たちだ。普段から戦闘を生業にしているから夜目もきくからな」
なるほど。闇に紛れて移動できたり夜目もきくなんて、闇族が戦闘民族と呼ばれる意味が分かる気がするぜ。
するとテントの外が少し騒がしくなった。
「どうやら着いたようだな。私はこれから彼らの小隊長に会いに行くが賢一はどうする? 彼らと会うのは明日にするか?」
「いや、もちろん、一緒に会いに行くぜ」
だって四暗が俺の為に送ってくれた兵士だもんな。
これから彼らの隊長になる俺が出迎えなかったら失礼になる。
「先生は私の部下に案内させますので今夜はお休みください」
「分かりました。では賢一くん、また明日」
「はい。先生は今夜はゆっくり休んでください」
中本先生が兵士に案内されてテントの外に出て行くと月治が俺に声をかけてくる。
「では行こうか。賢一」
「ああ」
さて、小隊長とやらはどんな奴なんだろうな。
これから一緒に戦う仲間だから俺と気が合う奴だといいけど。




