第14話 ハーレムなんて羨まし過ぎるぞ
俺はその日の夜、なかなか眠れなかった。
人生で初めて戦死者というのを目の当たりにしたのが原因だろう。
俺はいつでも戦えるように89式小銃を自分の脇に置いて横になっている。
SIGP220の入ったレッグホルスターは外さずに装着したままだ。
葛城副隊長の死で一気にここが「戦場」ということを思い知らされた。傍に武器を置いていないと不安になる。
実は俺はアメリカ軍に友達がいるが、あいつらも戦場ではこんな気持ちなんだろう。
だが、張り詰めたままだといつか爆発してしまう。気持ちを少しでも落ち着かせたい。
「……外の空気でも吸うか」
気分転換すれば眠れるかもしれない。
俺はそう思い89式小銃にマガジンを装填だけすると、それをスリングで下げて表に出た。
夜空には月が輝いている。
そこら辺をぶらつくかと思って歩き出したら大きな人影があった。
一瞬、敵かと銃を向けようとした。するとその人影は俺の方を振り向く。
その人物は月治だった。
「賢一か。どうしたこんな時間に?」
「ああ……ちょっと眠れなくてな。月治もか?」
「ああ…」
そりゃそうだよな、実の兄弟同然の人が亡くなったんだから。
月治は岩に腰をかけて月を見ている。
俺はその隣に腰を降ろす。
「月治……葛城副隊長の件は残念だったな。葛城副隊長の葬儀はするのか?」
「ああ、明日この地に埋葬する」
この戦場に埋葬するのか?
遺体は家族に返すものじゃないのか?
「月治、俺はこの世界の死者の扱い方を知らないんだが遺体は家族に返さないのか?」
「葛城に家族はいない。両親は既に他界して兄弟もいない。遠い親戚なら闇族の都にいるがそこまで運ぶ人手も時間もない」
「そうか……」
じゃあ、逆を言えば葛城副隊長にとっては月治が家族同然だったと言える。
月治を遺して先に逝かなければならなかった葛城副隊長の無念さが伝わって来るようだ。
「それにここは戦場だが華天国の土地だ。ここに埋葬すれば葛城は華天国の大地に根を張って国を支えてくれる存在になる」
「大地に根を張る?」
俺が尋ねると月治は静かに言った。
「埋葬した後に墓標代わりに植物を植える。そうするとその植物に葛城の魂は宿り華天国を支える森の一部になるんだ」
なるほど、そういう埋葬の仕方をするのか。
「これは闇族特有の埋葬の仕方だ。水族などは火葬して海に散骨したりする。だから水族は海に先祖が眠っているという考えだ」
「種族によって埋葬の仕方が違うのか?」
「ああ、闇族は戦いの種族だからな。いちいち遺体を持ち帰ることはできないからそういう方法になったのだろう」
葛城副隊長も闇族だから闇族の埋葬の仕方で葬るということか。
「そういえば月治は葛城副隊長とは乳兄弟だと聞いたが」
「そうだ。葛城と俺は幼い頃から一緒に育って剣の稽古をした仲だ。葛城は俺より一ヶ月早く生まれたから兄貴面するのが好きだったな」
「そうか……」
「ところで賢一、お前の持っているその長いモノも「銃」というモノか?」
月治は俺の89式小銃を見ながら尋ねて来る。
「ああ、俺のいた部隊で使われてたモノだ。89式小銃って言うんだが」
「それも飛び道具か?」
「ああ、より多くの敵を倒せる。それで提案があるんだが」
「何だ?」
「俺は俺の世界で使っていた武器なら召喚できる能力がある。もし兵士を貸してくれるならその武器を兵士に使わせてローラン帝国軍を倒すことができるんじゃないかと思うんだ」
俺は先ほど考えていた作戦を月治に提案する。
俺個人だけなら無理でも自衛隊の武器を兵士たちが使えるようになれば戦況は一気に好転するんじゃないかという話だ。
もちろんこの作戦には月治から華天国の兵士を貸してもらえることが前提になる。
月治は黙って俺の話を聞いていた。
「分かった。まだ兵士を貸すとは約束できないが賢一の案も考えてみる」
月治はそう言ってくれた。
「ローラン帝国軍に動きはあるのか?」
俺が尋ねると月治は首を横に振る。
「お互いに出方を見ている状態だ。すぐには動きはないだろう」
それなら好都合だ。戦う前の準備ができる。
「それに明日は父上がこちらに来るそうだ」
「月治の父親か?たしか華天国軍第一部隊長だっけ?」
「そうだ。俺と甲夜の父親だ。闇族の族長でもある」
そうだった。月治は族長の息子だったっけ。
「月治には甲夜以外に兄弟はいないのか?」
「甲夜以外にまだ成人していない第三夫人の子供の弟が一人と第二夫人の子供の妹が二人いる。成人してないから都に置いてきた」
ん? 第二夫人? 第三夫人?
「ちょっと待て!族長は妻が何人もいるのか!?」
「ああ、華天国では族長は何人でも正式に妻を持つことができる。俺の父親は三人の妻がいる。俺は第一夫人の子供で甲夜は第二夫人の子供だ」
「なんだよ、そのハーレムは!?」
「はあれむ?賢一は前も同じこと言っていたが「はあれむ」とはなんだ?」
「一人の夫に対して妻が何人もいることだよ!華天国ではそれが普通なのか!?」
俺が興奮しながら言うと月治はきょとんとした顔をしている。
「いや、各部族長以外は妻は一人しか持てない。妻を複数持てるのは族長だけだ」
「族長だけの特権ってやつか」
「ああ、族長になるほどの男の血を絶やす訳にはいかないし、華天国では女王の夫を族長の身内から出すことが決まっているから子供が多くないと困るんだ」
なんだよ、その羨ましいシステムは。
戦国時代の大名かよ!優秀な男の血はより多くの子供にってか!?
「じゃあ、月治も複数の嫁をもらうのか?」
「俺が族長になったらな。俺は今はあくまで族長候補でしかない。その間は妻は一人しかもらえない」
「ちなみに月治って独身か?」
「ああ。俺はまだ独身だ」
「そうか」
まさかと思うが望海や志乃舞が花嫁候補ってことはないよな。
なんだか胸がもやもやした。
だって月治の周りは美少女が多すぎる。
「好きな女性はいるのか?」
月治に探りを入れてみる。
「いや。今はいないな」
俺はなぜかホッとした。
「そう言う賢一はどうなんだ?お前のいた世界に妻はいなかったのか?」
「俺だって独身だし、恋人も随分前に別れていないよ」
「そうか……」
月治は苦笑する。
あれ、もしかしてそういう相手がいないことに同情されてる?
「そろそろ寝た方がいい。いつ戦況が動くか分からんからな」
月治はそう言って立ち上がった。
俺も立ち上がり月治と別れてテントに向かった。




