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波動~自衛官の俺が異世界の華天国を護るために戦った理由(わけ)~  作者: 脇田朝洋


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第12話 ここは本物の戦場だ

 どうやら騒ぎは俺が最初に朱里と出会ったテントの周囲で起こっているようだ。


 たしか朱里は救急部隊の隊長だって言ってたな。

 誰か負傷兵が出たのか?


 現場に近付くと望海や志乃舞がテントの外にいる。

 俺はとりあえず状況を望海に聞いてみることにした。


「望海、何かあったのか?」


 望海は振り返ると厳しい表情を見せた。

 その表情に俺はただならぬことが起こったのだと理解した。


「偵察に行っていた者が敵襲にあった。第二部隊副隊長の葛城くずき副隊長が深手を負って………瀕死の状態なんだ」


「なんだって!?」


 俺は一気に目が覚めたような気がした。

 葛城という人物は知らないが、瀕死の状態と聞いて俺はここが本物の戦場だと改めて思い出す。


 ついさっきまでの月治たちとの手合わせや望海たち美少女に気を取られていたが、ここは自衛隊の演習でも訓練でもなく『戦場』なのだ。


 油断すれば人が死んでいく。


 俺はもちろん実戦経験はない。せいぜい街中で因縁をつけてきた奴をボコボコにしてやったくらいだ。


 どんなに武術や忍術や銃の訓練してたって日本は戦争してたわけじゃない。普通に人が死ぬという感覚は俺の中にないものだった。


「それで助かりそうなのか?」


 俺は思わず望海に尋ねるが望海は首を横に振る。


「おそらく無理だろう……出血が多すぎる」


「そんな……」


「葛城副隊長は月治様の乳兄弟なんだ。今は月治様が付き添っておられるが………」


 志乃舞も悔しそうな顔をする。


 乳兄弟ってことは、兄弟や家族同然の人間だろ?そんな人が瀕死の状態になってしまったのか。


 そこへ朱里がテントから出て来た。


「朱里、葛城副隊長は?」


 望海の問いに朱里は首を横に振った。

 重い空気が圧し掛かる。


 俺は月治のことを思った。


 もし俺が自分の家族同然の者が死んだらどう思うだろう。

 悲しいの一言では片付けられないだろう。しかも敵に殺されるなんて………そんなのありかよ!


「…………クソ」


 俺は小さく呟きながらとっさにテントに入った。


 自分でも何でテントに入ったのか分からない。

 月治に何か声をかけようとしたのか、それともその葛城って人物が本当に亡くなったのを確認したかったのか。


 中にはベッドに寝かされて包帯でぐるぐる巻きにされながらもあちらこちらから血が滲んでる男性と、その側の椅子に座って男性を見つめる月治の姿がある。


 俺は月治の背中を見て声をかけられなかった。


「賢一か」


 月治から声をかけてくる。

 俺の方に振り向いた月治に涙はなかった。でも俺には月治が泣いているように見えた。


「葛城の死で部隊の編成を変えなければならなくなった。悪いが夕飯は一緒に食べられない。お前のいた異世界の話が聞けなくて残念だ」


 月治は静かにそう言うと僅かに微笑んだ。


「そんな話いつでもしてやるよ!今は俺もその葛城副隊長の死を悼ませてくれ」


 そして俺は葛城副隊長に敬礼をしようとして思い留まる。

 世話になっている月治の乳兄弟だ。最高礼をもって弔いたい。


「89式小銃……銃剣出ろ」


 そう言うと、ポポポンッと自衛隊正式の89式小銃と専用の銃剣が出て来た。89式小銃にはしっかりと官給品の三点スリングと弾倉も装着されている。


「賢一、今何をしたんだ!?」


 月治が驚いているが、そんなことに構っていられない。


「後で話す」


 それだけ言うと、弾倉を外してズボンの左足のポケットに入れておく。

 薬室に弾が入っていないことを確認し、銃剣を抜いて着剣して鞘は右足のポケットに入れておく。


 俺は小銃の銃床を下にして立てて気をつけの姿勢を取る。


「葛城副隊長に、捧げーーーつつ!!」


 自分で号令をかけて自分の体の前に二挙動で銃を縦に持ちかえる。これが『ささつつ』だ。

 各国の軍隊共通して最高の敬礼は、銃剣を着剣しての『捧げ銃』だ。


 一分はそうしていた。


「立てーーーーー銃!!」


 俺は元の体勢に戻る。

 月治は俺のいきなりの行動に面食らっていたようだが、小さい声で「ありがとう」と言ってテントを出て行った。


 望海や志乃舞もテント内に入ってきて右手を胸に当てる。

 どうやらそれが華天国の敬礼のようなものなのだろう。


 その後に俺が持っている小銃に驚いた顔していたが、今は何も言わずにテントを出て行った。

 俺も続いて外に出る。歩きながら三点スリングを調整し、小銃を身に着ける。


 そしてテントの外で息を吐きだして空を見上げてみる。

 空は夕暮れが迫っているのか赤く輝いていた。

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