第10話 波動と名付けよう
俺たちはテントの外に出る。
月治は鎧を脱いで俺と向かい合ってかまえる。
「まずは体術で勝負しよう」
「ああ、分かった」
俺は体術には自信がある。柔道と少林寺拳法は二段、忍術も初段もらっていてジークンドーとエスクリマ、そしてゼロレンジコンバットを学んでいる。
さらには連隊内の徒手格闘訓練隊で試合経験も結構あった。
だが、向かい合う月治の体はでかい。
こういう世界で生きているのだから、俺たち自衛官より力が強いだろう。
打撃でいくよりも、忍術とゼロレンジコンバットでやってみるか。
ちなみにゼロレンジコンバットというのは自衛隊の特殊作戦群や中央即応連隊などの特殊部隊や精鋭部隊でも取り入れられている。
一言で言えば、古武術の技を分かりやすく使っているという感じかな。
俺はその中の『ウェーブ』を使うことにした。
ウェーブというのは肩甲骨や肋骨、インナーマッスルを使った動きを利用して少ない力で相手に大きな力をくらわすことのできるモノだ。
自分の手を開いて肩の高さに持っていき、俺は肩甲骨をゆらゆらと動かし始める。
「見たこともない動きだな」
「これは俺のいた世界の軍人向けの技でな」
月治は俺の動きに戸惑っている感じだったが先に月治の方から動いた。
俺の顔を目掛けて殴りかかってくるが、俺は冷静に月治の右手を掴みウェーブを使って引き倒す。
月治の巨体がいとも簡単に倒れ込んだ。
「うわっ!?」
俺はさらに月治の顔面目掛けて拳をお見舞いするが寸でのところで止める。
「……なんだ、今の技は!?」
月治は驚きの表情を隠さない。
「これは『ウェーブ』って動きで体術の一つだ。少ない力で相手を倒せる」
「う、うえいぶ?」
ん?ウェーブって発音しにくいのか?
それじゃあ、別の名前をつけようかな。
ウェーブってのは力の波のことだから……そうだ、『波動』というのはどうだろう。
「発音しにくいならこれは『波動』って名前にしてみるか」
「波動か。なかなかたいした技だな」
月治は俺の手を借りて起き上がる。
「月治様をあんなにあっさりと倒すなんて………」
「賢一の実力はすごいな!」
志乃舞と望海はそう言って俺を感心したように見つめる。
「賢一、その波動というのを教えてもらえないか!?」
「ああ、かまわないよ。でもすぐには体得できないぞ」
「かまわん。修行が必要なら修行するまでだ!」
どうやら漢の魂に火がついちまったようだな。
だったら俺もとことん付き合おうじゃないか。
部下の前でみっともなく倒されても怒りもせず相手に教えを乞うなんてそう簡単にできるものじゃない。
俺は月治の器のでかさを思い知った。
「それに志乃舞と望海、それに甲夜にも教えてくれないか?」
「分かった。習いたいやつは誰にでも教えてやる」
「頼む。この動きは俺たちには必要だ」
月治はそう言うと木剣を俺に渡す。
「さて、次は剣術だ。次は負けないぞ」
月治はニヤリと笑う。
俺は剣道を学校でやったぐらいだが、中本先生から忍者の剣術も学んでいるから剣も自信がある。
剣術だけじゃなく、いろんな武器も学んでいる。自衛隊で銃剣道もやっているし、手裏剣からロケットランチャーまで大抵の武器は使える。
俺たちは対峙してかまえる。
剣を右手で握って力を抜いてだらりと下げる。無かまえだが、これもかまえなんだ。
「賢一、かまえないのか?」
「かまえていないように見えて、これがかまえなんだ」
俺はニヤリとする。
「後悔するなよ?」
月治も楽しそうに笑った。
また先に月治が踏み込んできた。
速い!
俺は木剣で受け止めたが腕に痺れが走る。
すげえ馬鹿力だな!
俺はまともに受けるのは無理だと判断して月治の繰り出す木剣の力を受けては横に流す方法に変える。
だが月治の剣の腕前は確かにすごい。
さすがは部隊長をやってるだけのことはある。
俺は隙を見て攻撃に転じるが月治の防御は厚い。
俺は中隊の中で剣道経験者と木刀でチャンバラしても負けることはなかったが、そいつらと月治はえらい違いだ。
本気でいかないとやられる!
「おっと……」
俺はカウンターをきめようとする。
だが、月治はそれを読んでいたようで全て防がれる。
どのくらい時間が経ったのか分からないが月治も俺も息を切らしていた。
すると月治がスッと木剣を引いた。
「どうやら剣術は互角みたいだな。この辺で充分だろう」
そう言われ、俺も木剣を下げた。
そこへ風花という少女が俺たちに水を持って来た。
「そうだな。しかし、月治は強いな。うちの部隊の剣道経験者より強いよ」
「これでも闇族の族長の息子なんだ。これぐらいできなければ笑われる」
月治はそう言って風花に渡された水を飲んだ。
「はい。賢一もお水」
「ありがとう。風花」
俺が笑顔で風花に言うと風花は顔を赤く染めた。
へえ~照れているのか。恥ずかしがってる風花って可愛いな。
俺は水を飲んで一息つく。
「とりあえす賢一には専用のテントを与えるからそこで休んでくれ」
「分かった。ありがとう、月治」
「また、食事の時に会おう。今度は賢一のいた異世界の話を聞かせてくれ」
「いいぜ。まあ、理解できるか分からないけどな……」
「望海、賢一をテントに案内しろ。第二テントに空きがあっただろう?」
「はい、月治様。では賢一、テントまで案内する」
「ああ、頼むよ」
俺は望海の案内で自分のテントだという所に向かった。




