第1話 俺の悩み
俺、『藤枝賢一』は俺が入門した古武術の道場の先生と稽古帰りに飲んでいた。
俺は『刃隠流忍法』を始めとするいくつもの流派を修行する。都内にいくつか練習場所があり、そのうちの一つに週一で通っていた。
なぜ忍術を学んでいるかというと、俺の職業が陸上自衛官だからだ。
高校を卒業した俺は幼い頃から憧れていた陸上自衛隊に入隊した。
そして入隊して三年後にレンジャー訓練を乗り越え、その一年後には陸曹に昇任できた。
今まで柔道や少林寺拳法などいくつかの流派を学んできた俺は自衛隊に入りさらに実戦的な武術を学びたいと思って入隊してから刃隠流などを継承する宗家の高弟である中本真治先生の道場の門を叩いてそこに入門した。
そして今、俺は24歳。あることに悩んでいた。
「先生、自分………特殊作戦群の試験受けようか悩んでいるんです」
稽古場の最寄り駅の近くの中華料理店。
俺たちは餃子やレバニラをつつきながらビールを飲んでいた。稽古の後の定番コースだ。
「いいじゃないか。やってみたらいい」
俺の師匠である中本先生はそう言ってビールを一口。
「でも、特殊作戦群に入ったら、原隊戻るまでは道場に通えなくなりますし…」
俺は所属する第一普通科連隊の第二中隊の中隊長から、特殊作戦群の試験を受けてみないかと言われた。
特殊作戦群というのは陸上自衛隊に創設された特殊部隊だ。
『S』とか『S部隊』とか言われていたりしていて、アメリカ軍のグリーンベレーとデルタフォースを手本に創設されたらしい。
情報はほとんどなくて俺も詳しいことは知らないが、かなりのレベルの高さという噂だ。
以前から興味があった俺だけど、特殊作戦群に行くとなると今より遠い駐屯地まで行かなくてはならないし道場に通えなくなるのは痛い。
「いつかはまた通えるようになるのだし、特殊作戦群に行くのも良い修行になると思うけどね。うちで学んだことを発揮できるいい機会じゃないかな?」
「そうですか………」
俺は少し考える。
たしかにずっと居られるわけじゃないし、いつかは帰って来られる。
それに特殊作戦群に行ったら今まで身に着けたことをさらに伸ばせるし、あらたなスキルを身に着けることもできるに違いない。
………行ってみるか。
「先生………自分、特殊作戦群の試験受けてみます!」
「そうか、しっかりやってみな」
「はいっ!!そうとなればもっと飲みましょう!!」
俺はそう言って追加注文をする。
そしていろいろと先生と語り合った。
いつものお開きの時間になり会計を済ませ、俺と中本先生は店を出る。
今日は悩みが解決したせいか、いつもより飲んだな。
後は電車で帰るのだが、今日は駅へ向かうつもりが何かおかしかった。
少し歩いた時に視界が歪んでくる。
一瞬飲み過ぎたかなと思ったが、それにしてはおかしい。
「あれ……?先生、自分なんか目がおかしいです……」
足元もふらついてきた。
さらに視界がグニャリと歪む。
「藤枝くん……私もちょっと眩暈が……」
先生も同じようだった。
もしかしてあの店なにか薬盛ったのか?
こんなことになるのは初めてだ。
「先生……だいじょ……ぅ……」
そこまで言って俺の意識は途絶えた。
「あ……う……」
俺が目を覚ましたとき、見慣れない光景が視界に入ってくる。
大きな天幕の中のようだった。
毛布が掛けられていて、俺は横になって寝ていたらしい。
「ここは?」
俺は上体を起こして周囲を見回す。
確かに天幕の中だ。だが、見たこともないような天幕だ。
最近のアウトドア用品でも自衛隊の天幕にも使われていない代物のように思える。
「え?俺……」
驚いたことに俺はパンツ一枚でいた。
たしか先生と飲んで店を出て……気分悪くなって………そこから覚えていない。
どうしてこんなところにいるんだ?
「っ!!」
そう考えた時に、頭に痛みが走った。
思わず頭に手をやる。
すると頭に包帯か何か巻かれていた。怪我をしたのか誰かが手当てしてくれたようだ。
「えっと……俺の服はどこだ?」
寝床の近くにはそれらしきものはない。
そこへいきなり天幕を開けて一人の少女が入って来た。