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リュシアンの恋

作者: ヴェルネt・t

このお話は同サイトに掲載中の小説『ペリエの黒騎士』のサイド・エピソードです

14話後半空の続きで、それ以後のリュシアンの心模様を描いています。

王太子という立場で、初対面の許嫁であるマリアナをどう感じていたのか…

リュシアン視点で綴ります。

正直、女には興味がなかった。

マリアナに会うまでは...

 

カインが愛した女…

僕の妃になる皇女が目の前にいる

その心の中には他の男が住んでいて、それがよりにもよってカインだと言う...

結婚は父の命令だから仕方がないと諦めていた...それなのに...


「キスをしても...良いか?」

皇女は黙って頷くと、僕のキスを躊躇うことなく受け入れた。

僕にとっては初めてのキス…本当はカインとしたかったが、あいつはきっと死んでも受け入れないだろうな…

正直に言えば、皇女は想像以上に可愛い女だった。

これほど美しい女はルポワドに二人といないだろう。軽く唇を交わした時、僕の中で何かが変わった気がした...感じたことのない切なさだった。


10日後

マリアナを連れてルポワドに凱旋。

歴史的快挙だと皆が僕の功績を称えている…父上からは賞賛の言葉と勲章を与えられた。カインの免罪の正式な確約も得る事ができたし、もう安心だ…

ルポワドでの日々が始まり、僕は皇女をつぶさに観察することにした。空いた時間にはなるべく皇女と一緒に過ごしたいと思った。

どうやらマリアナは本を読むのが好きらしい...

母上に連れ回されている時以外は持参した本を開いていることが多く、明るい庭園が定番の居場所だった。


「僕は読書が好きではない。...が、城には広い図書室があるぞ。」

そう教えると、マリアナは子供みたいに瞳を輝かせた。

「行ってみたいわ。」

嬉しそうに答えるマリアナ...その笑顔に目を奪われる...何故そんなに誘惑するんだ!


その後、僕はマリアナを図書室に連れて行った。その本の多さを見た彼女は歓喜し、その日から毎日一緒に図書室へ通い詰める様になった。


「今日は何を読む?」

「そうね..,この伝記を読んでみようと思ってる。」

「伝記?」

「そう。初代ルポワド王の創世物語って書いてあるわ。」

「話は聞いたことがあるが...そんな書物があったのか.,,」

「何冊かに分かれている..,ルポワドの歴史書ね。」

「おお...まことだ...」

「…興味ありそうね。」

「我が一族の伝記だ。当然だろう。」

マリアナは頷いて棚から本を引き出して長椅子に座った。僕もその隣に並んで顔を寄せる。皇女からは花のような香りがしていた...傍らにいると、とても心地が良かった。

それからは連日、図書室に通ってマリアナと二人で伝記の続きを読んだ。読んだと言っても、僕はマリアナが読み上げるのを聞いていただけだったが...

僕にとって初めて書物を紐解く機会になったし、いろいろ勉強にもなった。

二人きりの時間を過ごしたので、マリアナとの距離感が縮まり、会話を楽しむことができた。



結婚の義を2日後に控えた夜

僕は眠れず、起き上がって部屋をウロウロしていた。マリアナに会いたい...僕たちは婚約者なのに、どうして離れて眠らなければならないんだ。

いつもの激情が首をもたげたが、マリアナに蔑まれるのは嫌だった。結婚の義はもうすぐ...嫌われてはまずい。

「我慢なさい」

母上は厳しい口調で僕を嗜めた。

「婚儀の前に寝所をともにするなど言語道断です、絶対に許しません。」

は...何を言っているのですか母上...

僕は内心で訴えた。婚儀の前もなにも、僕とマリアナはもう同じ天幕で何度も一緒に寝ていた。…お互いに背を向けた状態ではあったが。

「とにかく我慢だ...」

朝にはマリアナに会える...そうしたらすぐに抱きしめてキスをしよう...

僕は羽枕を引き裂きたい衝動を抑える代わりに両腕で抱えた。

眠らなければ...少なくとも、朝食の席ではマリアナが敬う王太子でなければならないんだ。


耐えるに耐えて、とうとう成婚の日を迎えた。

大勢の目が見守る中で、僕とマリアナは結婚の儀式を行い、誓いのキスをして永遠の愛を誓った。

ルポワドの婚儀衣装を身につけた妃は眩しいほどに美しく、王太子妃の象徴たる冠を頭に載せた姿はとても崇高に見えた。

バルドとボルドー双方の王家の血を受け継ぐマリアナ...

これが僕の妃なんだ。


その夜、面倒な儀式や社交辞令からようやく解放された僕たちは、寝室に入った。

燃える暖炉の暖かさと明るさの前で、マリアナと向かい合い、明らかに緊張している妃をじっと見つめる。

「子供を作らねばならない。」

僕は言った。

「それが僕達の義務だから…」

「はい。」

マリアナは答えた。嫌がる様子は微塵も見えなかった。


僕はマリアナを抱き寄せそっとキスをした。義務なんて言うべきじゃなかったと後悔したが、ともあれ、僕たちは真の夫婦になった。


翌朝、僕は目覚めるとすぐに隣で眠る妃を見遣った。

マリアナはまぶたを閉じていて、小さく寝息が聞こえている...

「妃...」

体を重ねて耳もとで囁く...マリアナは小さく呻いて瞼を開き、宝石のような澄んだ瞳で僕を見つめた。

「目が覚めたか?」

「ええ。殿下」

「殿下なんて呼ぶな...呼び捨てでいい」

「でも...殿下も今妃と呼んだわ。」

「そうか...じゃあ言い直す。リュシアンと呼べ、マリアナ。」

「解ったわ...リュシアン」

僕は愛しさでいっぱいになった。妃の微笑みがこんなにも心を満たすものなのか...

「マリアナ...僕の妃...」

僕は囁いた。

愛してると言いたかったが、カインを愛しているマリアナには告げるべきではないだろう...妃に愛はないのだから。

虚しい気持ちを拭うため、少し激しくキスをした。心がどこにあろうが今は僕の腕の中にいる。強く抱きしめて何が悪い。

「僕のことが好きか?」

僕は訊いた。

「好きだと言え...」

マリアナは目を細めて僕を睨み

「強引な人は嫌い。」と告げた。

罵りの言葉に歓びを感じて僕は笑った。

...それでいい、それでこそ我が妃だ。



その日、僕の心は宙に浮いているようだった。

脳裏には妃の顔ばかり浮かんで何も手につかない...

マリアナは今何をしている?

カインに逢っていたりしていないだろうな?

「浮かぬ顔だな、リュシアン」

父が顎を摩りながら言った。

「マリアナの事が気になって仕方がないか?」

図星なだけに僕は言葉に詰まった。面倒だから父上には絡まれたくない…だいいち、解っているなら早く解放してくれ.

「ふむ...その様子では世継ぎの誕生もそう先の事ではなさそうだの...エミリアもさぞかし安堵していよう。」

母上がそれを待望していることは明らかだった。確かに、このペースならマリアナはすぐに子を宿すに違いない。

「水を差すようだがの…あまり責め過ぎては良くないものらしいぞ...せいぜい3日に一度程度にせよ。」

「はぁ⁉︎」

僕は思わず声をあげた

「そんな…3日も間を空けるなど…」

「子を成すためぞ...耐えよ。」

父上が不適な笑みを浮かべながら命じる…

僕は茫然とした。妃を横目に手を出せないなど…あり得ない。


夕刻、大広間での晩餐会で、僕はようやくマリアナに会うことができた。

美しく着飾った妃…そなたは本当に美しい...

僕はマリアナを引き寄せ唇を重ねた。周囲から揶揄が聞こえたが、そんなものは無視だ…

並んで席に着くと、マリアナが僕の方ではなく、別の方向に視線を向けていることに気づいた。その視線の先...カインだ。

カインも見るともなしにマリアナを見ていて、二人の視線が絡み合う。

解っている事実とはいえ、いざ目の当たりにすると心穏やかではいられない...

結局、カインとマリアナが接触することはなかったものの、僕は嫉妬で苛立ち、その後、部屋に戻るとマリアナを羽交締めにして耳を食み、耳もとで文句を言った。

「カインばかりを見ていたな...僕が側にいると言うのに。」

「見てないわ...」

「嘘だ...カインも見ていた...見つめ合っていたじゃないか」

「痛い...リュシアン」

マリアナが首を回して僕を見つめた。睨むのかと思えばそうではなく、悲しそうな眼差しを向けている。

僕は罪の意識に苛まれた。確かに妃は何もしていない...そこにいたカインをわずかな間、見ただけだ...

僕はマリアナから離れた。虚しくて心が萎えた。

「リュシアン...?」

マリアナが振り返って言った。

「どうしたの...?」

「どうもしない...」

僕は答えた

「疑って悪かった...」

「まあ...リュシアン」

マリアナはすぐに微笑んで僕の頬に触れた。澄んだ眼差しで僕を見上げる...

「そんな顔しないで...ヤキモチならとても嬉しいわ。」

「ヤキモチなど焼いていない」

「そう?じゃあ私が誰を見つめても構わない?」

「.は?駄目に決まってるだろう!」

「...どうして?」

「それは...」

「それは?」

僕は顔が熱くなるのを止められなかった。マリアナは僕をからかっている...生意気な妃だ。

「...そなたは僕のものだからだ。」

「それだけなの?」

「他に...どんな理由が」

「私からは言えないわ...リュシアンが考えて...」

「う...」

僕は言葉に詰まった。マリアナの顔が間近に迫る...キスがしたい...

「早く...リュシアン」

妃の囁きに心臓が高鳴る...もう限界だ...

「そなたを...愛しているからだ!」

...ついに告げてしまった。

僕は妃の顔を見詰めた。そなたは…どう思っている?

「嬉しいわ...」

マリアナは言った。

「私もあなたを愛してる...本当よ。」

マリアナが背伸びをして、僕の頬にキスをした。柔らかな感触...ああ、もう耐えられない

「マリアナ...!」

僕は妃を抱きしめた。嬉しい。マリアナが僕に愛を告げた...僕を愛していると言ったんだ!

その晩、僕たちはお互いの気持ちを確かめ合いながら夜を明かした。

父上には耐えよと命じられたが、そんな命令など無視だ…僕はマリアナを愛してる...子作りなんかどうでもいい。そなたと愛を育みたい。

「...ずっと僕だけを見ていてくれるか?」

僕は尋ねた。

「もちろんよ、愛しい人。」

マリアナは微笑みながら頷いた。


幸せを感じながら僕は妃にキスをした。

愛しいマリアナ...

僕の心は永遠にそなたのものだ...



リュシアンの恋

おしまい

































































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