桜の色
片づけが終わり教室で変える準備をしていると
「おーす、おつかれー」
教室のドアを勢いよく開けて小桜さんが入ってきた。よく見ると後ろに秋人もいた。
「どうしたの?桃」
「二人は帰らないのかなって」
「私たちも今帰ろうとしてたとこだよ」
「お、じゃあ今日もカフェ行く?」
小桜さんが親指を立てて腕を軽く振るしぐさをする。
「ごめん。私、今日は用事あるからすぐ帰らなきゃなんだ」
彼女は手を合わせて謝った。
「えー、残念。でも用事あるんじゃ仕方ないか。」
「うん、ごめんね。また今度」
「じゃあ男子二人におごってもらうついでに秘密の話でも聞くとするか」
小桜さんは僕たちを見てそう言った。
「おいおい俺たちに拒否権はないのかよ。しかも何でおごられるの前提なんだよ」
「いいじゃんちょっとぐらい、決定ね」
「やだよ」
「まあまあ少しぐらいいいじゃん」
二人のやり取りを見ながら僕は言った。
「葵がそういうならいいけど」
「やった、水篠ナイス!」
ということで彼女は先に走って駅に向かった。僕たちは歩きでゆっくりとカフェに向かった。
カフェに着くと二人は相変わらず甘そうなホイップクリームを乗せたコーヒーを買っていた。かくいう僕も前と同じオレンジジュースなのだが。
「ぶっちゃけどうなの」
小桜さんが聞いてきた。
「何が?」
僕は質問の意図が分からなかったので聞き返した。
「渚のことだよ。どう思ってるの?あの子は女子の私から見てもすごいかわいいし気も使えるし、好きにならないの?」
「うーん。どうだろう。確かにかわいいし気も使えていい子だと思うよ。けど…」
と言いかけて慌てて口を閉じた。
「ん?最後の方よく聞こえなかった」
「いや、何でもない。すごくいい子で素敵だと思う。でも恋愛的な話だとよく分からないかな」
「ふーんそっか。水篠って結構謎だからちょっとでも何か聞き出せたらなって思ったんだけど」
「聞き出すって弱みでも握ろうとしてるの?」
「いやいやそんなんじゃないよ、ただ謎な部分をちょっと知りたいだけ」
「僕ってそんなに謎なイメージがあるの?」
「うん。なんか普通に話してるけどあんまり顔に出ないし考えてることがよく分からないって感じ。秋人はどう思う?水篠って謎な部分多くない?」
「そうか?別にそうでもない気がするけど」
秋人は興味なさそうに言った。
「そうなの?うーんそんなもんなのかな。あ、気分悪くさせたらごめんね」
「ああいいよ。気にしないで、何考えてるか分からないってよく言われるから」
「ていうか桃はどうなんだよ。好きな人とかいないのか?」
「私は…いないこともないけど」
「え?マジ?だれだれ?俺の知ってるやつ?」
「誰でもいいでしょ!秋人には関係ないじゃん」
「えー気になるから教えろよ」
オレンジジュースを飲みながら二人のやり取りを見ていたら小桜さんの色が視えてしまった。普段とは全然違う淡いピンクの色が視えた。もしかしてと僕は思い
「まあまあ知られたくないことぐらいあるよ」
秋人を止めた。
「なんだよ、止めんなよ」
と残念そうに秋人は言った。
ここは話題を変えなきゃととっさに
「そういう秋人はいないの?好きな子」
と聞いた。後から思ったが話題の変え方を間違えてた。
「俺が女子とまともに話せないの知ってるだろ。そんな状態で好きな子なんて出来ないよ」
「じゃあ何で私とは普通に話せるんだよ。私は女子じゃないって言いたいのか」
「ああ、桃は男友達といるみたいで全然平気なんだ。お前ほんとに女子か?」。
「何その言い方むかつくもう帰る!」
「何怒ってんだよ」
冗談混じりに笑いながら秋人は言っていたが、小桜さんは顔を伏せながら荷物を持って店の外に出た。やっちゃったと思い
「さすがにあれはダメだろ。後でちゃんと謝っときなよ。今日は僕が送っておくから」
と言い、僕は小桜さんを追いかけた。小桜さんが乗ったであろう電車のドアが閉まる前にギリギリで滑り込めた。息を切らしながら小桜さんを探した。
「うわ、びっくりした。どうしたの水篠君」
小桜さんはドアの近くで赤くなった目をこすりながら聞いてきた。
「いやちょっとさっきのこと謝りたくて、それにもう暗いからついでに送ってくよ」
「別に怒ってないし」
「秋人も悪気があって言ったんじゃないんだよ。あいつ鈍感だから若干空気読めないというか自分のことになると鈍くなるんだよ。それがいいところでもあるし悪いとこでもあるんだけど」
僕は秋人を擁護するように言った。
「私も少し熱くなりすぎたと思うけど、それより水篠はなんで追いかけてきたの?」
「ちょっと気になることがあって」
「あ、もしかして気付いた?」
「あーうん。なんとなく」
「隠してるつもりだったんだけど気付かれちゃったか」
今日のやり取りを見なければ僕でも気づかなかったと思う。小桜さんは男勝りなとこがあるから普段は秋人と同じような明るい色しか見えなかったが、恋愛関係の話になるとちゃんと女の子なんだなと思った。
「さっきも言ったけどあいつ鈍感だから割とストレートに言わないと気づかないと思うよ」
「そうだよね。ていうかそもそも恋愛対象として見られてないんだけど」
「恋愛対象とかはあんまりよくわかってないんじゃないかな。今まで女子とまともに話したことないから」
「やっぱり女子として見られてないんだよ」
「今はそうかもしれないけどこれからどうなるか分からないから頑張っていこうよ」
僕は彼女を励まそうと言葉を出した。
「けど、なんで水篠君は私が秋人のこと好きなの分かったの?」
「なんとなく今までのやり取りからそうじゃないかなーって、確信は無かったけどね」
色で視えたなんて言えないのでごまかしながらそれっぽいことを言った。
「私ってそんなにわかりやすい?」
「いや、そんなことないよ。多分気付いてるの僕だけだと思う」
「そっかーならよかった」
「もしよかったら手伝おうか?」
「えっ?いいの」
「うん。小桜さんなら秋人と合いそうだしすごい仲良くやってくれそう」
「ありがとう!助かる!」
僕たちの恋愛秘密同盟が結成したところで彼女の降りる森野駅に着いた。改札まで行ったところで
「ここでいいよ。私の家駅のすぐ近くだから。また明日学校でね」
「うん。気を付けてね」
僕は小桜さんを見送り、電車に乗って自分の家に帰った。秋人から[桃、怒ってなかった?]とメッセージが来たので[怒ってなかったけど謝っておいた方がいいよ]とメッセージを送った。
次の日秋人と小桜さんがいつも通り仲良く歩いているのを見かけて安心した。二人の色はいつもと同じ明るい色だった。