星の色
その後私は一人電車に揺られながら彼のことを思い出していた。
『初めて見たときは違和感しかなかった。だって感情の色が視えないから。だからその日からずっと私は彼を見ていたんだ。そしたら君はボーっと人を見ていることが多かった。だから気づいたんだ。君は私と同じものが視えているって…。多分その時から私は君のことが気になっていたんだ。だからあの雨の日君を見つけたとき、君なら気付いてくれるってわざとこけたんだ。こんな女の子嫌だったよね。でも君はやっぱり見つけてくれた。あの時君が声をかけてくれたから、私の物語は始まったんだよ。君に……恋する物語』
「そうだったんだ」
ふいに周りが真っ白になって彼の声が聞こえた。
「えっ?葵君?どこ?どこにいるの?!」
「こっちこっち、後ろだよってうわっ」
私は後ろを振り向くと彼が転んでいた。
「あははこけちゃった」
あの日とは逆だった。
「え?なんで?」
私がそう言うと彼は立ち上がり
「いや、あの時の最後、僕の名前を言った後の言葉が気になって」
私は彼に会えた喜びで泣き叫びそうだった。でもそれをこらえて
「最後まで聞いてなかったの?葵君ってたまに抜けてるよね」
と言った。彼が聞きたい最後の言葉を言ってしまうと、もう二度と会えなくなってしまう気がして少し怒った。
「ごめんね死に際だったから耳がほとんど聞こえてなかったんだ」
彼はそう言った。
「じゃあ最後の言葉を言う前に少しだけいいかな」
私がそう言うと彼は優しくうなずいた。
「私もね葵君と出会えて楽しかったんだ。葵君のことだけは、何も視えなかった。だけど、葵君が優しくて誰かのために一生懸命になれるいい人だってすぐに分かった。みんなで初めて行った海でも、自分の命を顧みず子供を助けに行ったよね。私もあの色は視えていたけど怖くて動けなかった。あの時の葵君はかっこよかったよ。あの後その子のお母さんに彼女だって勘違いされたとき、恥ずかしくて君の方を向けなかったんだ。葵君は夕日のせいかなって顔してたけどあれは夕日のせいじゃなかったよ。旅行に行った時も同じ部屋ですっごいドキドキしたんだ。夜、二人であの子と遊んだときも本当の家族みたいだなって思ってた。遊園地の時も君に会えて、桃と秋人君のこと思いっきり忘れちゃってたんだ。あの後、桃にどこ行ってたのって怒られちゃった。」
私は彼との思い出を最高の笑顔で話した。彼は優しい笑顔を向けていた。
「そういえば文化祭はどうなった?」
彼が突然聞いてきた。
「文化祭は中止になっちゃった。生徒が亡くなった翌日に文化祭は出来ないって学校の判断で桃たちはお化け屋敷をやる予定だったみたい。」
「そっか…みんなには悪いことしちゃったな…」
彼はそうつぶやいた。最後まで他人のことを気に掛ける彼に涙が溢れそうになった。
「あっ…ごめんね。もっといっぱい聞きたかったけどもうそろそろみたいだ。聞かせてくれる?最後の言葉」
彼は消えかかる自分の体を見てそう言った。私はうなずき一度大きく息を吸い深呼吸した。
「じゃあ言うよ。葵君、私も君のことがずっとすきでした。これがあの時言った私の言葉」
私がその言葉を言い終わると彼は笑ってこう言った。
「ありがとう聞かせてくれて。じゃあね…渚さん」
学校で分かれる時のように普通に、まるでまた会えるかのように。私は必死に涙をこらえ笑顔で返した。
「またね、葵君」
その瞬間私は電車の中に戻った。戻ったとたん私の目から涙がとめどなく落ちた。
周りに人がいるけれど今の私は何も視えなくなっていた。
彼にはもう二度と会えない。けど絶対に私は彼を忘れない。
あのきれいな透明色とともに。