濁り切った色
夏の暑さはもう失われ紅葉が色づく季節になった。僕は紅葉の赤色は好きだなと外の景色を見ていたら小桜さんが口を開いた。
「ねぇ渚たちのクラスは文化祭何やるの?」
いつものカフェで今月行われる文化祭の話をした。
「私たちのクラスはハロウィンコスプレスタンプラリーだったよね」
「うん、十月だしちょうどいいよね」
「へぇコスプレか、ちなみに葵は何のコスプレするんだ?」
秋人に聞かれ僕は答えた。
「僕は死神…」
「え?死神?」
秋人は聞き返したあと大笑いした。
「死神って葵に全然合わねぇ。え?仮面とか被るの?」
「被るけどそんな笑うことじゃないだろ」
僕は大笑いしている秋人を見て言った。秋人は笑い過ぎで涙目になりながら
「いや、葵がでっかい鎌持ってるの想像したら笑えて来ちゃって」
「そんなに面白いか?」
と僕がいうと秋人の隣で小桜さんも肩を震わせていた。
「桃さんも笑ってない?」
「いや、違うの!秋人が言ったの想像したら面白くなってきちゃって」
「何も違くないじゃん」
この二人は付き合ってからますます仲が良くなったなと思っていると小桜さんが
「ちなみに渚は?何のコスプレ?」
と彼女に聞いた。
「私は化け猫だよ。露出が多くてちょっと恥ずかしいけど」
彼女は少し照れながらそう言った。
「へぇ、渚の化け猫か…絶対可愛いじゃん!めっちゃ写真撮りに行くよ」
「やめてよ桃、恥ずかしいから」
彼女がそう言うと小桜さんはえ~と言ってしょげていた。
「文化祭の後の後夜祭はみんなで花火見れるといいな」
「そうだね。去年は雨で無かったから今年は見れるといいね。でもその前に秋人はうちのクラスの出し物も頑張ってよね」
秋人が小桜さんに言われていた。
「おう、ちゃんと分かってるから大丈夫」
「秋人たちは何やるんだ?」
「俺たちは…」
と言いかけたところで小桜さんに口を塞がれた。
「秋人!文化祭当日までみんなで秘密にするってクラスで決まったでしょ」
「ああ、あぶな。言うところだった」
秋人は慌てて口を閉ざした。
「秘密なんだね。でもそれもサプライ
ズみたいで面白そう」
彼女はサプライズが好きなのか少し楽しそうに見えた。
「ってことだから当日まで内緒だ。いくら葵でも教えられねぇ」
「そっか、さっき自分でばらそうとしてたけど。そういうことなら楽しみにしとくよ」
「じゃあ明日からの文化祭準備お互い頑張ろうね」
小桜さんがそう言って今日は分かれた。それから彼女とは同じクラスだったからほとんど一緒に帰っていたが、秋人と小桜さんとはなかなか予定が合わず一緒に帰ることが出来なかった。
文化祭前日僕と彼女は遅くまで残って作業していた。
「いよいよ明日だね。桃たちが何やるかすっごい楽しみだね!」
「うん」
僕は返事をして夜空に映る月を見上げた。
「葵君どうかした?何か気になることでもある?」
僕の表情を見た彼女が心配そうに声をかけてくれた。
「ん?いや、何でもないよ。ただ…」
「ただ?」
「僕、文化祭がこんなに楽しいものだって知らなかったんだ。クラスのみんなと協力してこんな夜遅くまで学校に残って準備してってやったことなかったから今すごい楽しいんだ」
「そっか、じゃあ明日ちゃんと成功するようにあと少し頑張ろうね」
彼女はそう言った。一生懸命作業する彼女を月明かりが優しく照らしていた。
明日の準備が終わりみんなが帰り始めたころ
「葵君、私たちも帰ろうか」
「そうだね。もう暗いから家まで送るよ」
僕がそう言うと
「ありがとう、でも駅まででいいよ。葵君も早く帰って明日に備えないと」
と彼女は返した。
「そっかじゃあ改札まで」
「うん、じゃあ帰ろ」
僕たちは電車に揺られ夜の月明かりと街灯が照らす街を見ていた。森野駅についた。改札まで行って
「ここまででいいよじゃあね、葵君」
彼女は無邪気に笑ってそう言った。僕は彼女につられるように笑顔になって
「うん。またね」
と言って彼女に背を向け歩き出した。彼女の笑顔の余韻に浸っているとフードを被った人と肩が当たった。
「あ、すいません」
と僕は頭を下げたがフードの人はこっちを見ることなく歩いていた。ずいぶん真っ暗なフードだなと思ったがパーカーの色は青で頭のところだけが不自然に黒かった。
そのことに気付いた瞬間僕は全身が硬直して動けなくなった。あれは視たことは無いが感覚で分かった。
『殺意』
今までに視たことが無いぐらいどす黒い色をしていた。僕は一か月前にテレビで見た殺人事件を思い出した。あいつが向かっている先は彼女がいる方だ。僕は自分の足を思いっきり叩き動かなくなった足を何とか動かそうと何度も叩いた。
「うごけ、うごけうごけ、うごけよ!何のために視えてんだよ」
僕は地面に張り付いた足を何とかはがし彼女の方へ走った。
『渚さんは?!』
僕は必死に彼女を探した。まだそこまで遠くには行っていないはずだと歩いた道を思いっきり走って探した。人込みに飲まれながらも彼女の色を探した。
「いた!」
僕はすぐに彼女のもとへと駆け出した。彼女のすぐそばにフードのやつもいた。彼女からは見えていない。フードのやつはポケットから何かを取り出そうとしていた。
『間に合え!』
フードのやつがナイフを取り出し彼女に振り下ろそうとしていた。
「渚さん!」
僕は彼女を後ろから抱きしめるように覆いかぶさる。
「え?葵君?どうしたの?」
彼女は無邪気な笑顔を見せていた。
「よかった…間に合っ…た」