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透明色  作者: 神木駿
13/18

水の色

秋人と小桜さんが遊園地に行く当日、僕は正直行かなくても大丈夫だろうと思っていたら秋人から電話が来た。


「なんだよ秋人、こんな朝早くに」


「いや葵のことだから自分は行かなくてもいいかとか思ってそうだから釘指しとこうって思って」


やっぱり秋人にはばれていたみたいだ。


「うん思ってたよ…だって僕いらなくない?」


「いやマジで頼む。葵が近くにいるって思うだけで緊張がましになるから。ほんとに頼む」


「そんなに言うなら行くけど様子見て良い感じになってたら帰るからね」


「うん!それでもいいから。絶対来てくれよ」


「分かった分かった。じゃあ切るよ」


秋人のやつ柄にもなく緊張してたな。他の女子ならともかく小桜さんなら平気だと思ってたんだけど恋と友情は違うんだなと改めて思った。


後をつけるなら僕だとばれない方がいいなと思い、買ったはいいけど全く来たことが無い派手な服を着て秋人たちがいる。待ち合わせ場所が見えるところに行った。


秋人はもう待ち合わせ場所にいたが小桜さんはまだ来てないみたいだった。しばらくすると僕の真横をすごい明るい色をした人が通り抜けていった。僕はそれを見て小桜さんだと分かった。いつもとは違う服装でひらひらしたスカートをはいていた。


秋人のところに着いたが秋人は小桜さんだと気づいていない様子だった。声は聞こえないが何を話しているかは容易に想像できた。大方秋人が小桜さんに気が付かなくて小桜さんがムッとするみたいな少女漫画にあるようなことを話しているのだろう。


その後二人が遊園地に入って楽しそうに遊んでいるのを遠目に見ていた。基本的にいつもの二人のようで緊張して変な感じになっている様子は無い。遠目から見てもお似合いの二人だ。


お昼ごろになって人も増えてきた。二人ももう大丈夫だろうと思い僕は帰ろうと出口の方に歩きだした。


「あれ?水篠じゃね。一人で何してんの?」


前から歩いてきた男女のグループの中の一人が声をかけてきた。


『確か同じクラスの…名前が出てこない』


僕は相手の名前がとっさに出てこなかった。


「なあ水篠。一人でそんな派手な格好して遊園地って。フフッ、何してんの?」


間髪入れずに馬鹿にしたような笑い方をして言ってきた。


「えっと…たしか…」


「おいおいまさか同じクラスのやつの名前も覚えてないの?天崎だよ天崎。これだから陰キャは」


「ははは、ごめんね。興味ない人の名前は覚えないんだ」


こういう時は相手にしないのが一番だが、人込みに長時間いたせいか僕も少し気が立っていた。


「あぁ?!俺に興味ねえって?俺だっててめえに興味なんかねえよ」


彼は僕に対抗してきた。


「ああ、そうだったんだ。わざわざ興味のない陰キャ相手に声をかけるなんて天崎君は優しいんだね」


と僕は笑みを浮かべながら言った。


「ああそうだよ。俺は優しいからな。陰キャのお前に声かけてやったんだから何やってんのかさっさと答えろよ」


「天崎君には関係ないことだから言ってもしょうがないよ。それに興味のない人の予定聞いてどうするん?」


僕は嫌味を混ぜながら言った。少し熱くなっているのが自分でもわかったので一度息を深く吸って切り替えようとした。


「あぁ?!てめぇさっきからなんだよ?!俺のこと馬鹿にしてんのか?どうせあれだろ?陰キャだから架空の彼女でも作って妄想で遊園地デートとかしに来たんだろ?気持ちわりぃ」


馬鹿にしているのかと思ったらいきなり怒り出すし、怒っていたかと思えば急に上機嫌になったり、情緒不安定かと思うぐらい色がコロコロ変わる。


相手にしなければよかったと後悔したがここまで来てしまったら仕方がない。僕がそう考えていると


「おい、こいつ妄想で彼女作って遊園地にデートしてきたんだってよ」


彼は一緒に来ていたグループの人も巻き込んで僕が言ってもいないことを周りに話し出した。


「えぇなにそれ?気持ちわる」


「高校生にもなって中二病かよ」


と一緒に来ていたやつらも餌を見つけた魚のように群がってくる。一方の話しか聞かず自分の判断能力が欠けていることに気付かずに人を馬鹿にしてくる。こういうことをして来るやつの色はぐちゃぐちゃに混ざっていて汚くて吐き気がする。


ただでさえ人が多くて酔いそうなのにこんな色を視せられると気分が悪くなってくる。しかも一つじゃなく複数あると気持ち悪さは倍増する。


「あぁ、めんどくさ」


僕が小さな声でそう言うと


「あ?なんか言ったか?!」


と胸ぐらをつかまれた。目の前が汚い色で染まりこれ以上視るのは耐えられなかった。


その時


「お待たせ葵君。あっちのお店混んでて」


と彼女が走ってきた。


「えっ?!渚さんなんでここ…」


僕が最後まで言い切る前に


「あれ?天崎くんたちだ。こんなとこで偶然だね。とりあえずその手離してくれない?」


天崎は慌てて僕から手を離した。彼女は笑顔だったが少し怒っているようにも見えた。


「星月さん?!なんで?もしかして水篠と一緒に?」


「うん。そうだよ。何か問題ある?」


「いやだって、え?なんでこんなやつと遊園地なんか。あっ分かった、何かで脅されてるんでしょこいつに。助けてあげるから俺たちと遊ぼうよ」


天崎は焦っているのかものすごい早口になっていた。


「ううん、脅されてなんかないよ。私が葵君を遊園地に誘ったんだよ」


「いやいや正直に言っていいよ。何かされてるんだったら俺が今この場でぶっ飛ばしてやるから」


「葵君はそんなことしないよ。だって私の友達だもん」


「友達ってこいつが?ないない。こんな冴えないやつと星月さんが友達って」


天崎はあり得ないと笑いながら首を振った。


「ねぇ天崎君、しつこいよ」


彼女の笑顔が無くなり鋭い目つきに変わった。


「葵君は私の友達だからやめてくれない?」


普段は穏やかな顔しかしない彼女の目にひるんだのか天崎は何も言い返せなくなっていた。周りのやつが天崎の手を引き、もう行こうと言っていた。天崎は仕方なく引き下がったが僕の方を見て


「お前じゃ釣り合わねぇよ」


と一言残してどこかに行った。


「葵君!大丈夫だった?どこか殴られたりしてない?」


彼女は僕の心配をしてくれた。


「うん、殴られたりはしてないから大丈夫だよ。でもなんでここに?」


「実は桃が秋人君と二人で遊園地に行くことになったからこっそりついて来てって言われたんだ。もう大丈夫かなって帰ろうとしたら絡まれてる人がいるのにも気づいたんだ。そしたらそれが葵君で。葵君こそ一人で何してたの?」


「僕も同じだよ。秋人に頼まれてこっそりついて来てたんだ。あの二人ってほんとに良く似てるよね」


「うん、まさかおんなじことしてるなんて」


彼女の顔に笑顔が戻った。僕は彼女にお礼をしていなかったのを思い出し


「そういえばありがとね。助けてくれて」


と言った。


「お礼なんていいよ。友達を助けるなんて当たり前でしょ。ねえせっかくだからこのまま一緒に遊園地まわらない?桃たちももう心配ないだろうし」


「えっいや…でも…」


さっき天崎が言った言葉が引っかかっていた。


「さっきのこと気にしてるの?私は友達と遊びたい。それだけだよ。葵君は私のこと友達じゃないと思ってるの?」


「いや…そういうわけじゃないけど」


「じゃいいよね、行こ」


彼女は僕に手を差し出した。


「葵君、どれ乗る?ジェットコースターとか乗れる?」


と僕に聞いてきた。彼女はいつもより明るく振舞おうとしていたが差し出した手がかすかにふるえていた。それもそうだ、クラスメイトとはいえ一人の男と口論をしたんだ。怖くないはずが無かった。


僕のせいで渚さんに怖い思いをさせてしまったせめてものお詫びに楽しんでもらおうと思い、僕も明るく振舞うことにした。


「うん乗れるよ。むかし家族と一緒に乗ったことがあるから平気だと思う」


「やったぁ!じゃああれ乗ろう!」


この遊園地の目玉になっている絶叫コースターを指さして言った。高低差六十メートルで途中縦に一回転するコースになっている。順番待ちをしているときに思ったが、ジェットコースターに乗ったのは小学校三年生ぐらいの時で小さいのしか乗っていた記憶がない。


こんな本格的なのに乗るのは初めてだなと思っていたらあっという間に乗る順番になってしまった。ジェットコースターに乗り込み安全装置を下した。


「楽しみだね葵君!」


「う…うんそうだね」


ジェットコースターが動き出す。


「あれ?もしかして緊張してるの?」


彼女は僕の方を見て言った。


「うん。思い返すと本格的なのこれが初めてかもって」


僕の心臓の鼓動がドクドクと波打つ。ジェットコースターはどんどんと頂上に上がっていく。


「え?それは…」


と彼女が言おうとしたとき一気に急降下した。


「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


僕は思わず声が出てしまった。こんなに速いとは思ってもいなかった。遊園地のアトラクションだから死ぬことはないのに走馬灯のようなものがちらちらと視えた。終始僕は叫びっぱなしで最初の場所に戻ってきた。


「葵君大丈夫?!」


「うん、大丈夫。想像より速くてびっくりしちゃったよ」


「葵君すごい叫んでたもんね」


と彼女に言われて思い出し恥ずかしくなった。


「葵君ってあんなに声出るんだね」

とさらに追い打ちをかけられたので


「まって恥ずかしいから忘れて!」


と顔を隠しながら言った。


「次はゆっくりめのにしようか」


と提案してきた。


「そうしてくれると助かるかも……」


その後も僕たちはいろんなアトラクションに乗った。シューティングゲームができる乗り物やコーヒーカップ、ゴーカートで競争もした。


「あ~楽しかった。そうだ最後に観覧車乗ろうよ」


「あそこの大きいやつ?」


「そう!高いところは大丈夫?」


「高いとこは大丈夫だよ」


「ほんとに?無理してない?」


「うん、ほんとだよ」


彼女はじゃあと言って順番待ちの列に並んだ。だいぶ遅い時間になったので人も少なくなってきたのですぐに乗れた。


観覧車はゆっくりと上がっていく。


「わぁすごい景色」


彼女がそう言うので窓の外を見ると街の明かりがキラキラと輝いていた。昼間視た色がこの景色で上書きされていく。


「きれいだね」


僕は心からその言葉が出ていた。


「うん!すっごくきれい!葵君また来ようね」


と彼女は言った。今日は情けない姿しか見せていなかったがこんな僕を友達と言ってくれた。『また』と次を考えてくれた。小さな事かもしれないがそんな彼女の何気ない言葉に涙が溢れそうになった。必死にこらえて僕は


「そうだね」


と返した。月の明かりか街の明かりのせいか分からないけど僕が見ていたものはまぶしくてとても綺麗だった。


「家まで送ってくよ」


電車に揺られながら僕は彼女に言った。


「いいよ葵君そんなことしなくて」


「でももうだいぶ遅い時間だし心配だから」


「そこまで言うならお願いしようかな」


僕は彼女の森野駅で降りて家まで送っていった。


「じゃあまた学校で」


「うんまたね葵君」


僕は彼女が玄関を閉めるのを確認した後駅に向かって歩き出した。

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