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透明色  作者: 神木駿
11/18

幸せの色

次の日の朝起きると彼女が


「おはよう葵君」


と何事もなかったかのように挨拶をした。僕も


「おはよう、渚さん」


と返した。


「さて秋人たちも起こさないとだね」

僕たちより早く寝たはずの秋人と小桜さんはスヤスヤと気持ちよさそうに寝ている。


「秋人。起きろ朝だぞ」


僕が秋人を起こそうとすると秋人は


「母さんあと五分」


と寝ぼけて言い、慌てて起きた。


「俺、今なんて言った?」


秋人が僕に聞いてきたので僕は秋人の真似をして


「母さんあと五分って言ってたぞ」


と言うと秋人は


「油断した完全に家だと思ってた」


と言い恥ずかしくなったのかまた布団にこもった。向こうでは彼女が小桜さんを起こしていた。小桜さんも秋人と同じで朝が弱いのか布団をつかんで離さなかった。


やっとのことで小桜さんは起きた。


「あ~葵君おはよ~」


小桜さんがまだ眠そうに言ってきた。


「おはよう、よく眠れたみたいだね」

僕がそう返すと小桜さんは


「うん布団が気持ち良すぎてぐっすりだよ。眠気覚ますために顔洗ってくる」


とふらふらした足取りで洗面所に向かった。秋人はまだ布団にこもっているので僕は布団をはがして


「ほら桃さんも起きたから秋人も顔洗ってこい」


と秋人を無理やり起こした。


「分かったよ起きるよ」


秋人はあーあめっちゃ恥ずかしいなと言いながら洗面所に行った。彼女が近づいてきて


「ねえ昨日のこと覚えてる?」


と聞いてきた。僕は


「うん。もちろん覚えてるよ」


と返した。


「じゃあやっぱり昨日のことは夢じゃなかったんだね。あの子が言ってたいみごって昔あった差別的な意味の忌み子のことだよね。この辺ってそんな風習があったのかな?」


「どうだろう?あったとしてもこの旅館が出来る前のことだろうからだいぶ昔なんじゃないかな」


「そうだよね。でもちゃんと向こうに行けてたらいいな」


「そうだね。向こうで友達いっぱい作れるといいよね」


僕と彼女はあの子が幸せになることを願っていた。


「二人で何の話してるのー」


小桜さんが彼女に飛び込んだ。


「ん~幽霊の話」


彼女はそう言って小桜さんを床に下した。


「えっ幽霊…それは聞きたくないかも」


顔を引きつらせて耳をふさぐようなそぶりをした。


「なんか幽霊って聞こえたんだけど誰か視たの?」


秋人が小さく縮こまりながら戻ってきた。確か秋人も幽霊が苦手だった気がする。


「渚さんこの話はあとでにしよっか。幽霊苦手そうなのが二人もいるから」


僕は秋人と小桜さんを見ながらそう言った。


「秋人君も幽霊ダメだったの?それは意外だったな」


彼女はびっくりしていた。


「うん、幽霊とか視たことはないけど見えないものって怖くない?昔っからダメなんだよね」


彼女は無邪気に笑った。話を横で聞いていた小桜さんは彼女に


「ねえそれより今、秋人君って」


少し焦った顔をしながら聞いていた。


「え?だって葵君は下の名前で呼ぶのに秋人君は上の名前だと変な感じしない?」


彼女は首をかしげながら小桜さんに返した。彼女からは相変わらず何も見えないがこれはただの天然だろう。小桜さんもそれを感じ取ったのか


「た、確かにそうだね。うん、変な感じだよね。私も葵君って呼んでるし」


と笑ってごまかしていた。今ので思い出したが僕は秋人と小桜さんが付き合えるようにしようと思っていたのに今回の旅行では何もしてなかった。


心の中で小桜さんに謝った。彼女は[桃はなんでそんなに焦ってるんだろう?]って顔で小桜さんを見ていた。


「じゃあ朝食食べに行くか」


秋人が元気よく言った。朝食は大広間でバイキング形式になっているみたいで移動しないといけなかった。


「そうだね。混んでくる前に行こう」


僕は秋人の提案に乗った。

朝食の会場に着くともう結構な人数が来ていた。僕たちは空いている席を見つけてそれぞれ好きな料理を取りに行った。僕は朝はそんなに食べないのでご飯とみそ汁、鮭を取って席に戻った。


「葵君それだけ?」


小桜さんが僕の皿を見て言った。


「うん。朝はいつもそんなに食べてないから」


「ええ?もったいないな。私なんか何食べようか迷っちゃったから食べたいの全部取ってきちゃったよ」


小桜さんの持ってきた皿を見るとバイキングにあったほとんどのメニューが乗っていた。


「小桜さんは朝からそんなに食べて大丈夫なの?」


「うん!大丈夫だよ。食べたらすぐに消化するから。それより今小桜さんって言ったよね。下の名前で呼ぶんじゃないの?」


「あ、またやっちゃった。上の名前で呼ぶのは癖みたいなのだから抜けきらなくって」


「でもそうだよね。いきなり呼び方変えたら混乱するよね。私もたまに混乱しちゃうよ」


「こ…じゃなくて桃さんもそんなことあるの?」


「さん付けじゃなくていいよ。私のこと何でと思ってるの?」


「じゃあ桃、はねえ~っとコミュ力おばけ」


小桜さんの印象を率直に伝えようとした。


「コミュ力おばけって褒められてるのかな?」


小桜さんは笑って言った。


「もちろん褒めてるよ。誰とでも仲良くなれそうな感じがする。実際女子が苦手な秋人が普通に話せてるのがすごいと思う」


「そう言われるとうれしいな」


小桜さんは少し照れている色が視えた。


「何話してるの?」


彼女が少量の料理を皿に盛って戻ってきた。


「葵君が私のことコミュ力おばけって褒めてくれたの」


「ああ桃は確かにコミュ力おばけかもね学校でも先生とか後輩とかいろんな人から気に入ってもらってるよね」


「ええ、そんなに言われると照れるよ」


彼女は小桜さんをからかって楽しそうに笑っていた。そういえば秋人はまだ料理を選んでるのかなとバイキングの方を見ると山盛りになった皿を持った秋人がこっちに近づいていた。


「待たせちゃって悪かったな。どの料理もおいしそうで」


「大丈夫先食べちゃってたから。それより秋人それは盛り過ぎじゃない?」


僕は山盛りになった皿を見て言った。


「ん?これぐらい余裕で食えるよ。むしろ葵はそんな少なくていいのかよ」


「僕は朝はそんなに食べないから…」


僕が言い終わる前に秋人はすごいスピードで食べ始めた。見る見るうちに皿に乗ってた料理が秋人の胃の中に入って行く。その様子を見ていた彼女は若干引いていた。


「秋人!もうちょっときれいに食べなよ。渚が引いてるよ」


小桜さんもそれに気づいたようで秋人を止めた。


「あっごめん。おいしすぎてつい」


秋人は一旦食べるのをやめて皿を置いた。彼女は引きつった笑いをしていた。


「もう秋人はさっきからそればっかり。いくらおいしそうでも限度があるでしょ」


小桜さんが秋人に説教?ではないけどそれに近いことをしていた。


「ごめん。ちょっとはしゃぎ過ぎた」


秋人は反省して食べるスピードを緩めた。僕は秋人が怒られているのがちょっとおかしくて軽く笑った。


「葵、今なんで笑ったんだよ。気付いてるぞ」


「ごめんごめん。秋人が怒られてるのが面白くて。秋人って意外と優等生だから学校とかでも怒られるようなことはあんまりしないからさ」


「まあ確かに怒られるようなことはしないけど、意外と優等生ってなんだよ。どこからどう見ても優等生だろ」


秋人は小桜さんの方に目をやったが小桜さんは首をかしげて言った。


「見た目はあんまり優等生には見えないと思うよ」


「まじか」


秋人は彼女の方も見たが彼女も首をかしげて笑うだけだった。


「まあでも秋人はいいとこいっぱいあるから大丈夫だよ」


小桜さんがすかさずフォローを入れた。


「それはほんと?」


秋人が聞き返した。


「うん、ほんとだよ。人の嫌がることも率先してやるし、優しいし、気使えるし。まあ見た目だけじゃ秋人の良さは伝わらないよ」


小桜さんは自分で言って恥ずかしかったのか段々と色が淡いピンクに変わっていった。


「え~そんなに言われると照れるな~」


秋人の色はただ明るいだけだったから相変わらず鈍感だなと僕は思った。秋人もこの前の海で小桜さんのことを少しは意識してるとは思うんだけどあと少し何か足りない気がする。


何かきっかけがあればこの二人は進展しそうだななんて考えてたらみんな朝食を食べ終わったみたいだ。


「「ごちそうさまでした」」


部屋に戻ると秋人と小桜さんはまた床に寝転がった。


「「めっちゃおなかいっぱい」」


「二人とも…それ昨日も見た気がするんだけど」


僕は寝転がっている二人を見ながら言った。


「昨日は温泉、今日はご飯で違うからセーフ」


秋人は小桜さんに同意を求めた。小桜さんもうんうんとうなずき二人は仰向けになってごろごろしていた。


「セーフって。はぁ……もうちょっとしたら出るから準備はしといてよ」


僕が二人にそう言うと、は~いと気だるげな感じで返事をした。やれやれと思い彼女の方を見て


「渚さんも準備しといて…」


と言おうとした。女は昨日僕があの子を見つけた場所にいて空を見ていた。悲しげな顔をしているように見えたが彼女は僕の声に反応して


「私はもう準備してあるから大丈夫だよ」


と僕の方を見て笑った。


「さすが渚。ついでに私の分も…」


「それは自分でやりなさい」


彼女は笑顔で小桜さんに言った。


「うう、はい」


さっきとは正反対の立場になってしまった小桜さんを見て秋人は笑っていた。


二人が休んでいる間に僕は旅館の人に話を聞いてみようと思いロビーに向かった。受付のところにいる女性に


「あの…すみません。この辺りって昔どんな地域だったんですか?」


「どうしたんですか?突然」


「いやその昨日小さい女の子に会ったんですよ」


と僕が言うと受付の人は驚いて支配人の矢井田さんを呼んできてくれた。


「水篠様こちらへ」


僕は促されるままちょっとした個室に入った。部屋に入るなり矢井田さんが


「女の子ってもしかして五・六歳の小さな子ですか?」


と聞いてきた。


「えぇそうです」


僕は答えた。すると矢井田さんは話し始めた。


「そうですか。この辺りは昔差別意識が強い集落だったらしく生まれてきた子の性別が村長の占いと違うと忌み子と言われ知恵をつける前に山に捨てるということをしていたようです。そう言った子が何度か視えることがあるようです。私も一度だけ子どもを見たことがありますがどうにもできなくって」


なるほどそういうことかと僕は納得した。そんな理不尽な捨てられ方をして両親をずっと待っていればあんな悲しい色になるのも合点がいく。


少しでもあの子が向こうで幸せになっていればいいなと僕は祈った。


僕は部屋に戻り、あの場所を最後に見た。一輪の花が静かにそっと咲いていた。

僕たちはチェックアウトを済ませるためにロビーに行った。


「あの、チェックアウトお願いします」


「はい、水篠様。今回は当館をご利用いただきありがとうございました。是非またご利用ください」


「こちらこそこんな素敵なところに招待して頂けていい経験になりました。また来ますね」


秋人たちも女将さんに会釈をして僕たちは翡翠館をあとにした。その後僕たちは緑生い茂る山の中をゆっくりと下った。


「凄い良いところだったね」


小桜さんが秋人に言った。


「ああ、特に料理がすげぇおいしかった」


秋人は満足げにそう言った。


「確かに料理はすごいおいしかったよね」


彼女も料理を思い出して笑顔になっていた。


「秋人と桃は少し食べ過ぎだったけどね」


僕は二人を見ながら言った。二人は


「「あはは」」


とごまかすように笑った。そんな話をしていたら駅に着いた。僕はまたみんなとこんな風に旅行に行けるといいななんて考えて帰りの電車に乗った。


 その日の夜みんなが携帯で撮ってくれた写真を見返していたら見覚えのない写真が一枚あった。それは僕と彼女とあの子が笑顔で遊んでいる写真だった。そこに写る僕たちはまるで本当の家族のような温かい色をしていた。

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