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もしも、転生先がグルメ漫画みたいな世界観だったら

作者: 王 一歩

 

 ◆


 僕の名前は大石。

 大石って名前だから、文字って美味(おい)しから美味(うま)し――でウマシと呼ばれてる。

 美味しいものは大好きだけど、フォアグラとかトリュフとからそう言う高級料理は食べたことない高校三年生である。


 そんな僕だが、なんの因果か異世界転生してしまった。

 きっかけは、パーティーゲームで負けた罰ゲームのマヨチュチュである。

 マヨチュチュとは、その名前の通り、マヨネーズを丸ごと一本チューと吸い切ることだ。

 僕は半分以上飲み干した後、気を失って死んだ。

 死因、マヨチュチュ。

 僕の死因はまさかのマヨチュチュだ。


 ◆


「いや、マヨに殺されたとかあるのかのぉ?」


 僕の目の前には、召喚士と思しきフードを被る男が一人。

 その前には、王様がドカンと座っている。


「ええと其方。今一度、ワシに前世の死因を申してはくれまいか?」

「僕の死因はマヨチュチュです。致死量以上のマヨを摂取したことによるショック死です」

「マジで? 何してんの其方」


 王様は呆れ顔で僕を見下ろす。


「やばいの引き当てましたね王様。彼の世界に返しますか?」

「え、ちょっとやめて! そんなことしたら、マヨで溺れた直後に戻されちゃうんでしょ! 嫌ですよ! マヨ溺死の現場は勘弁です!」

「そうじゃよ召喚士。せめて、彼の元の体が火葬された後に戻してあげなさい。そう、ちょうど焦げ目が着く焼き加減くらいの時に」

「何言ってんの王様! 僕の体が香ばしく焼き上がる時に戻すかどうかの問題じゃないですから!」


 僕は召喚陣から飛び出て、召喚士に問いかける。


「どう言うことですか! 僕はこの世界に勇者として召喚されたってことですか!」

「そ、そうなんだけど、まさか戦闘力が皆無の人が来るとは思ってなかったから」


 召喚士は頭をかいて照れ臭く笑う。


「うーむ。今回は有力な勇者を召喚するって聞いたから立ち会ったのに、まさかのマヨ戦士が来ようとは。うーむ、引き直す?」

「お、王様! 引き直すってなんすか! そんなガチャみたいなノリですか!」


 僕はマヨ戦士とあだ名をつけられて心底恥ずかしいのだ。

 それに、引き直すとか言われてるし!


「嘘じゃよ冒険者よ。まぁ、引き直せるなら引き直したいなぁ……うーん迷っちゃうな。マヨだけに」


 うわ、面白くな!


「むぅ……」


 いや、照れるなら最初からダジャレとか言うなよ王様!


「まぁ、冗談はさておきじゃ。其方、名前はなんと申す?」

「僕はええっと……じゃあウマシで」

「じゃあってなんじゃ? そんなノリで名前を答えたらダメじゃぞ。まさか、記憶が何にもネーズってか? マヨだけに」


 こ、この王様、降りてこい! マヨぶっかけてやるよ!


「あのな、冒険者よ。ここはRPGとかの世界とは違うから、普通に履歴書通りの名前を答えておくれ。住民票とか書く時に結構不便だからの」

「いや、王様が世界観の説明は御法度でしょ! しかも基本設定を語っちゃう方が逆にRPGっぽいけど!」


 僕はその時、ふとポケットの中が震えていることに気づく。

 まさかと思ってポケットに手を突っ込むと、僕のスマートフォンが鳴っていたのだ!


「え! スマートフォン同伴の転生なんてあんの!?」

「そうですよ、マヨシさん」

「誰がマヨシだフード!」


 フードを被った召喚士が僕のことをマヨシと呼びやがった!

 どこまでも僕を馬鹿にしやがって!


「マヨシでいいじゃんすか。フトシだのタダシだのありきたりな名前よりも、マヨシの方がみんな覚えてくれますよ。ほら、『マヨ死』ってね」

「やめろもう! 分かったもうマヨシでいいから、それ以上周りに僕の死因を広めないで!」


 流石に恥ずかしさに耐えきれなくなり、僕は両手で顔を抑える。


「ではマヨシよ! 其方はこれより、魔王を倒すために旅に出るのじゃ!」

「そ、そんな! 僕、なんの力も持ってないですよ!」

「それなら大丈夫じゃ! 其方がこの世界に召喚される際に、全能神であるグリ(しん)様に特別な能力を一つだけ持たされて転生するのじゃ! さぁマヨシよ! ワシにその特別な能力を一つ見せておくれ!」


 な、なに!

 まさかのこの僕が何か一つ能力を持っているだと!

 今まではなんの特技もなくて、だらだらと生きてきたが、ついに覚醒する時が来たか!


「では、まずはLキーとRキーを同時に押してスティックをぐいー……おっと口癖が」

「待って王様! メタ発言は御法度だろ!」

「すまぬ、ついやってしもうた。では、スティックをグイーッと倒す感じで必殺技を出してみるのだ!」

「なんだそのアバウトなコマンド……ってなんだそれ!」

「まぁやってみればわかるっすよ」


 僕は王様と召喚士の言う通り、脳内で『L Rキーを長押ししてスティックを倒す』ことを想像しながら手のひらを前に差し出した!


「そりゃ、僕の能力はどうなんだ! うおお!」


 僕は自分の能力に期待して、王様に向けて力を念じた!


「え、待ってマヨシ! こっちに能力を向けるんじゃない! こう言うのは、普通壁とかに打つもんじゃろ!」

「え、そうなんですか! だって、こういうのって試し打ちとかでそんな威力があるやつが出ないんじゃ」

「そんなことないっすよマヨシ! 雷とか火炎弾とか飛び出す時だってあるっす! とりあえず、天井に向けて打って!」

「で、でももう魔法が発動して……! 止まらない!」

「おいおい、ちょっとマヨシ!」

「うわぁぁぁぁ!」


 ◆


 ――どれほど時間がたっただろうか。


 僕が目覚めた時には、辺りは真紅に染まっていた。

 暖かいカンテラの明かりは僕を怪しく艶立たせる。

 酸い異臭がする。

 赤黒い液体は窓に迸り、僕の体も同じく赤黒くなっていた。


「お、王様……? 召喚士さん!」


 僕はドロドロと粘る赤い液体を踏みつける。


「くぉ、おおっ……」

「し、しっかりしてください! 王様!」

「わ、ワシはもうダメじゃ。体がもう動かん……」

「そ、そんなぁ! ダメです王様! 目を開けてください!」


 こんな……!

 僕は、こんなことをするために異世界転生をしたわけじゃない!

 魔王を倒して、困っている世界のみんなを救うために召喚されたんじゃないのか!


「ま、マヨシ……よ!」

「は、はい! 王様!」


 ドロっと輝く右手で僕の頬に触れると、ネットリと糸を引いて――、


「名前、やっぱりケチャシにするのじゃ」

「え、ケチャシ?」


 僕はふと『ケチャ』と言う単語で思い出したことがあった。

 ケチャ――、マヨに対抗するもう一つの勢力の総称である。

『オムライスはマヨ派? ケチャ派?』


 僕はちなみにケチャ派である。


「うわ、マヨシ! これケチャップじゃないですか!」

「え、マジで?」


 僕は赤い粘性のある液体を掬って舐めてみると、こりゃもう絶品と言うべきほど洗練された、奥深いケチャップの味だったのだ!


「え、て言うことは、僕の能力って――」

「『ケチャップを際限なく出す』って感じっすね! 中々のレア能力っす!」

「いや、マヨ死でまさかのケチャ砲を撃てる能力ってなんなん!」

読んでいただきありがとうございます。

これから『もしもシリーズ』の短編漫才小説を投稿していこうと思っています。面白いと思ったら是非高評価、あわよくばお気に入りフォローをよろしくお願いします!

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