第八話 失恋して順位落としましたとか格好悪すぎ
「お兄明日女の子『達と』デートでしょ?」
妹の言葉に棘が。
俺のベットに寝転がり折角箱詰めした漫画を出して読んでいる。
青いパンツを惜しげもなくチラ見せしてくる。
安心されているのか、警戒心がないのか。
「ただの勉強会。ちゃんと勉強するものは持っていくし、なにより鮫島がいるから遊びにはならない」
あの鮫島が近藤に流されてだらけるとは到底思えない。
「でも女の子の中に一人でしょ?」
「そんなに嫌?」
「別に? けど尻軽女に捕まって帰らぬ人になったら嫌だなとは思う」
桃の頭の中でなにが起こったんだろうか。
俺死んでるじゃん。
「尻軽女って、近藤のことか?」
「例えばの話。女ってのは二面性があるものなの」
「それはまぁ。なんとなく分かるけど……」
だが触れ合ってみない事にはその二面性は分からないと思う。
触れ合う前に分かるのはそれはもうエスパーとか超能力の類だ。
「お兄はさ、失恋しても平気なくらい鈍いからどんなに相手が強烈でも平気だろうけど」
「失恋が平気な奴がいるもんか」
もし平気なら元々相手をそんなに想っていなかっただけの話。根本の問題だ。
「え? でもお兄失恋した次の模試で順位落としてないじゃん」
「失恋して順位落としましたとか格好悪すぎだろ。意地だ意地。鮫島も順位を落としてこなかったしな」
ま、その時期受験も終わてて失恋を紛らわせるのが勉強しかなかったってのもあるけど。
ゲームとか漫画は受験に集中するために県外の祖父母の家に全部段ボールに箱詰めして送ってたしな。
「平気だって。自衛は出来るしいざとなれば無駄に情報が詰まった頭でなんとかするから」
「ふーん」
そう返事する桃の興味は俺より漫画の方へと行っていた。
そして土曜日、新しい参考書を本屋で買って二駅先のパン屋へ向かった。
店に近づくと焼き立てパンの良い匂いが漂ってくる。
家で軽く食べては来たがこの匂いを嗅ぐとお腹が減る。
「あ、来た来た。こっちー」
黒い服に白いオバーオールという姿で手を振ってくる近藤玲奈。
近くで見るとより幼さに拍車がかかっている気がする。
「十分遅刻です。待ち合わせに遅刻してくるなんて最低ですね」
「遅刻って十分前だが?」
「十分前行動は基本です」
「悪かったよ」
つまり二十分前行動をすれば遅刻にはならないというわけだ。
シビアー。
鮫島も鮫島でかなりラフな格好。
タイトなジーパンにぶかぶかトレーナーを合わせたコーデ。
そこまでファッションに詳しいわけでもない俺の目からみえば十分に可愛いと思う。
絶対に口にも顔にも出さないけど。
あんまりじろじろ見てると睨まれるのでそうそうに目線をはずした。
「土屋。今からお茶会か?」
「鮫島さんにも同じこと言われましたよ」
「真似しないでください」
土屋の服装は全体的にヒラヒラとしていて強風で簡単に舞い上がるだろう。
男の心と共にな。
それくらいに生地が薄く、健康的な生足がチラ見え。
土屋の隣には絶対に座らないようにしなければ。集中力が削られる。
「まあ、服なんて自由だから特になんもないけど。寒くないのか?」
春先で気温は十五℃行くかどうか。
ロングスカートのようなヒラヒラじゃ流石に寒いと思う。
「これでも捲れないように色々着こんでいるので」
「そこまでするならなぜ他の服を着なかった」
「こういうのしか持ってないんです。今までこうして友達とどこかに出かけるということがなかったので」
「そうか。なら今日は存分勉強しよう」
近藤の案内で俺達は焼き立てパンの匂い漂う店内へと入った。