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第八十七話 洞察力の勝利

 残りの数日、夏期講習の教室は地獄を極めた。

 トラブルが起こり、それが円満に解決されないままだったから。


 今も現在進行形で睨み合いが続いている。


「なんのことでしょうか」

「とぼけんなよ。ガン飛ばしてきただろうが」

「気のせいですよ。なぜ私が睨まなければいけないんですか? それとも睨まれることをした自覚でも?」

「てめぇ……」


 休み時間毎回これ。

 睨んだ睨んでないの、煽った煽ってないの。


「座学一位だからって、お高く留まってんじゃねぇぞ」


 流石にイラついたのか男子生徒の一人が鮫島のワンピースの胸倉を掴んだ。

 一枚の布で出来ているワンピースを上に持ち上げれば当然下が足りなくなる。

 そんなに短くはなかったがパンツが見えるんじゃないかと鮫島は服を押さえている。


「待て待て。落ち着けって。鮫島が元々目つきがきついんだよ。それに勉強に集中するために度があってないメガネをつけてるから尚更だ。鮫島高校の一年生に聞けば目つきの悪さは証明できる」

「ちょっと。悪口ですよ」


 事実だろうが。

 鮫島の胸倉を掴む男子生徒の席を見て俺は言った。


「これ以上手を出せば保育士への道は絶たれるぞ」

「保育士になりたいんですね」

「……勝手に決めんなよ」

「バッグについてる小物。アニメや漫画のキャラにしては不格好すぎるしところどころ補強した形跡がある。その補強も雑でこれが製品として売られていたなら欠陥品。ただ保育園に通うような子供が作ったなら上手いくらいの出来栄えだ。送り物か?」


 見せびらかすようにバッグにつけられた小さな人形。

 今時の保育園児は人形まで作れるのか。俺は泥団子が精一杯だったぞ。


「たった一週間、同じクラスで偶々喧嘩になった奴にイラついて将来台無しとか勿体ないだろ」


 夏休みという遊んでも怒られない時期に夏期講習に通うほどだ。

 将来の夢が決まりつつある証拠。


「チッ」


 舌打ちをして席へと戻っていった。




「マジで胃に穴が開くかと思った」

「お疲れさまです」


 夏期講習最終日。

 全講義が終わった後に俺は土屋邸にいた。


「その解決方法、鷹山って感じ」

「流石の洞察力でしたね」

「出来るようになるとマジで円満解決できるぞ」

「あの人は不満たらたらでしたけどね」

「殴られそうになってたのに余裕そうだな」

「そこは女の特権だよ。殴られたらトイレに走ってチークとか口紅で痣作って職員室行けばもう相手は悪よ」


 女ってこえー。


「あ、それよりパンツ気にしてたか」


 少し緑がかったワンピース。

 普通にしていれば膝上くらいで覗き込まない限り見えない長さ。


「見た!?」

「悪い男の方に気を取られて見逃した」

「ったくなにしてんだよ。またとないチャンスだったんだぞ!」

「本当に申し訳ない」

「仕方ない。わたしが今確認を……」

「グーじゃ足りないので肘でいきますよ」

「うわ、攻撃力二倍じゃん」


 鮫島が肘を近藤に向けると近藤は即座に離れた。


「そ、それよりさ! 明日の最終確認でしょ? 水着は買ったか鷹山!」

「一応」

「よーし」

「朝八時の電車で向かいます。昔は乗り換えありでしたが、今は直通で二時間の移動です」

「いえーい! 今から超楽しみ!」

「玲奈は遠足の前日とか寝れなさそうですね」

「いや? けっこうぐっすりだよ?」


 楽しみすぎてはしゃいで疲れて寝るパターンだろ。


「二時間ならトランプ……なにする?」

「トランプでいいんじゃね?」

「勝てないからやだ! 普段勝てない奴をボコボコにして「あれ? 弱くない?」って煽りたいんだい!」


 可愛いイキりだな。

 ただやられたら絶対イラつくからさせないけど。


「確かに二時間という時間は暇ですよね」

「勉強でもすればいいんじゃないですか? 二単元終わるころにはついてると思いますけど」

「分からないことがあれば教えるぞ」

「絶対にいやだ。二人とも勉強道具持ち込み禁止だからね!」

『……』

「返事は!?」


 約束出来ないから返事しないだけですけど。


「夏休みの課題はどうするつもりですか?」

「俺はもう終わらせたぞ」

「はっや! 最終日頑張る!」


 初日にブーストかけてやるタイプなんで。


「課題は持っていくとして、移動中は一応トランプなど持って行って遊びましょうか」

「心理テストでもすればいいだろ」

「その手があった! 恋愛心理テストならわたしに任せろい!」


 二時間もあれば課題の半分は終わるだろうし。

 明日から友達と初めての小旅行だ。


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