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第八十五話 俺個人としては怒ってくれて嬉しかったり

「今日はなにについて復習しようか」


 三日目ともなればメンバーは増え、更に鮫島の眉間のしわも増えてきていた。


「鮫島。皆怖がってるからそんな顔するな」

「生まれながらこの顔ですが?」

「そんな渋い顔の赤ちゃん嫌だわ」


 ただ渋い顔をしているからといって俺がどうにか出来る問題でもない。

 実際に、昨日「笑ってー」と冗談半分言ったらため息吐かれたからな。


「まいいや」


 今喋って不機嫌じゃないことは知ってもらえただろう。

 それで安心できるかどうかは別だけど。


 その日の講義が終わった夕方頃に行われる復習会。

 夏休みを謳歌しているという実感が持てる。

 一人で黙々と夏期講習で教えてもらったことを復習するのもいいが、こうして誰かと答え合わせのように勉強するのも悪くはない。

 これが出来るのも、夏期講習ならでは。

 勉強する雰囲気というのはやっぱり大事なのだ。


「寂しい夏休みですね」


 帰り際、電車を待っていた鮫島が俺に同情するように言った。


「俺が? なんで」

「皆貴方の解説目当てにやってきますけど誰も貴方に興味を持っていない。ほら、寂しい」

「そんなもんだろ。たった一週間の繋がりなんてな。むしろ、この一週間で好きになりましたとか言われても信用出来ない」


 それを寂しいというのは少し違う気がする。


「嫉妬か?」

「は? もう彼女でもない私がなぜ嫉妬しなければいけないんですか?」

「いや、鮫島も混ざりたかったのかなと」


 不機嫌そうだった鮫島の顔がなにかに気が付いたのかハッとした顔になった。

 わいわい勉強している俺達が羨ましかったのかと思ったが……彼女彼氏は関係ないと思うが?

 情報の相違があるのは確実だが……鮫島の反応からするに確認するのは無理そう。


「言葉足らず過ぎます!」

「どういう意味だと思ったんだよ」

「その聡明な頭で考えてみればいいんじゃないですか?」

「そんな教えることを躊躇うようなこと考えてたのかよ」


 嫉妬の一言で想像力豊すぎるだろ。


「なんでもないですから。この話はおしまいです」

「さいで」


 どんな勘違いをしたのか分からないが電車がホームに入ってきたため打ち止めとなった。




 次の日も講義後に復習会が開かれた。

 だが当然この復習会をよく思わない人もいる。


「模試でいい結果残してからにしろよ」「中学じゃ二位だったらしけどさ、高校じゃランキング圏外でしょ?」「リア充になりたいんだろ。哀れなりとw」「やめなって~wwww」


 少し離れていても聞こえるくらいの声で言って来たのは男女二名づつの生徒。


「文句があるなら言わないと伝わらないぞ。テレパシーとか持ってるなら別だけどな」


 俺がそういうと生徒は舌打ちをして俺を睨んでから教室の出口へと足を向けた。

 目線を今日作ったノートに落とすと入口付近が少しざわついた。

 また目線をあげると教室の出口をピンク色の髪が塞いでいた。


「なに?」

「出ていく前に言う事があるんじゃないですか? それとも、小学生ですら出来る「ごめんなさい」が出来ませんか? ならここに来る前に行くべきところがあるような気がしますけど」


 早口でそう巻くしたてると下から彼らを見下した。

 俺の悪口なんで全部事実なんだから放っておけばいいのに。

 今回の模試でいい結果が出せなかったのも、順位が圏外なのも、リア充になりたいのも全て事実だからな。


「私からすれば、全国模試で一番になれない人が人の頑張りを嘲笑う資格なんてないと思いますけどね。彼のことを馬鹿に出来るのは私だけですから」

「おいこら」


 さらっと自分を安置に置いてんとちゃうぞ。


「中学模試で彼に勝てなかったのもそれが原因でしょう。頑張っている人を「必死になっている馬鹿」と決めつけ驕っていた。結果、二年の途中から本腰をいれた彼に負けた。私は誰かに負けた経験がないのでぜひ教えて欲しいですね。今でもいいですけど、馬鹿にした相手に負けた過去があるってどんな気分ですか?」


 長々と事実というなの煽りをしてみせる鮫島彩音。

 相手は俺より体格がいい男子二名を含めた四人だ。武力行使に出られたら確実に勝てない。

 ここは夏期講習、普段は塾の場であり、大人は近くにいるし、十数人の目撃者がいる。

 状況が味方しているものの、煽りという行為はそれらを無視できるほどの挑発行為。


「鮫島。その辺で……」

「彼は私が唯一ライバルと認めた相手です。その彼を侮辱するということは認めた私まで侮辱されています。謝罪を。私ではなく彼に」


 そういうところで意地っ張りだよな。

 悪としたなら絶対に譲らない。過去の俺が敗れた頑固さだ。

 今の柔軟さをもったところで勝てるかどうか。いや、勝てないな。


「はいはい。ごめんなさ~い。謝ったからどけよ」

「……」


 不満があるのは見え見えだが、相手は俺より体格のいい男子生徒。

 片手で鮫島は押しのけられてしまう。


 席に戻って来た鮫島は相変わらず眉間にしわが寄っていた。

 折角、復習会のメンバー達も慣れてきたところなのに。


 ま、俺個人としては怒ってくれて嬉しかったり。


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