第八十三話 「鮫島さんの競争相手は鷹山さんだけじゃありませんよ」 ※彩音視点
「よし、いざ悩殺水着を!」
「変な水着買ったら他人のふりしますから」
「鮫島さんは得意そうですよね。他人のふり」
「鷹山なら鼻の下伸ばしてデレデレしてくれるって信じてるもん」
彼のことだから表面上はなんてことない顔で乗り切りそうなものだ。
定期テストも終わり夏休みまで秒読み。
玲奈の発案で水着を買いに行くことになった。
「いやもうだって、つちやんの大きさに勝つにはそれなりに攻めないといけないわけですよ」
「鮫島高校の水泳の授業は完全男女別でよかったですね」
「じゃなかったらつちやんのおっぱい見るために男子が数人溺れる」
そのまま溺れて死んでしまえばいい。そんな猿みたいな人達は。
水着売り場に到着し水着探し開始。
「鮫ちゃん。こんなのどうよ」
「派手すぎます」
玲奈に手に持たれているのは蛍光ピンクと黄色の上下セット。
装飾はなく、光が当たるだけで目が痛い。
「その方が目立つじゃん」
「ただ目立てばいいというのは危険です。悪目立ちして悪い人に目をつけられたらどうするんですか」
「えー。じゃあ鮫ちゃんはどんなの選ぶの」
玲奈にそう言われ水着がかかるラックへと目を向けた。
セパレートタイプの水着からビキニタイプまで様々でその中の一つを手に取った。
「これでしょうか」
「えー地味」
「地味でいいんですよ。水着に頼って目立つのでは悪目立ちです。地味目な水着を選んで玲奈本来の魅力で勝負すればいいんです」
「つちやんがそばにいて素の魅力で勝負とか言われても勝敗が見えてて辛い」
「女性の魅力は胸で決まるわけじゃないんですから」
「そうかもだけど外見がアウトだったら内面を見られるチャンスすらないよね」
考えてみればそうかもしれない。
内面を初対面で知ってもらうのは不可能だ。
「それなら素で勝負しないと意味がありません。水着という期間限定の武器を持ったところであがる魅力なんて程度が知れています」
水着という期間限定の武器だからこそ威力を発揮するものの、それを常備することは不可能。
だったら元々の魅力で勝負しなければいけない。
「あれ? そういえばつちやんは?」
「……確かに姿が見えませんね」
玲奈と一緒に店の中を回っていると夏帆の姿を見つけた。
「つちやん。なにしてんの?」
「えっと……水着を探してただけですよ?」
ああ、そういうこと。
「一緒に探そうよ! 似合うの探してあげるから」
「大丈夫です」
「玲奈、私達も自分のをまず探しましょう」
「えー三人で仲良くしようよ!」
なぜここまで勘が鈍いのか。
さっきまで語っていたのに。
こういう時に上手い言い回しを思い浮かぶ彼が憎い。
私にはこういう言い方しか出来ない。
「サイズの問題です」
「……?」
「理解を拒んでも夏帆の胸は小さくなりませんよ。私達が見ていた場所の水着では夏帆の大きさには不十分です」
恥ずかしそうに頬を染める夏帆に近づく玲奈。
なにをするかと思えば腕を伸ばし鷲掴み。
恨めしそうな玲奈の指はゆっくりと夏帆の胸に沈んでいった。
「わ、私だって可愛いのにしたいんですよ?」
「ほら! おっぱい大きいつちやんが可愛いの着たら勝ち目ないんだって!」
「声が大きいです」
「人権がなくなるんだよ! いいの!? 鷹山にさ! 「ぐへへ。土屋いい体してんじゃん。ちょっと物陰行こうや~」とか言って連れて行かれたら!」
「落ち着いて警察に電話しましょう。今は強姦罪はないので強制性交等罪で死刑ですね」
「裁判官わたしやりたい!」
「ならわたしは検察やります」
被害者と加害者と検察と裁判官しかいない場で死刑は確実。
彼が夏帆を物陰に連れていくところを想像しただけで吐き気がしてくる。
「私だって誰彼構わず肌を見せることに抵抗はありますよ?」
「んーあ! ラッシュガード着ない?」
「確かにそれなら肌の露出は抑えられますね」
「ついでにおっぱいも控えろ」
夏帆は半袖の上からラッシュガードを羽織り、チャックを上げた。
「ダメですね」
締め付けられる分、大きさが際立つ結果に。
水場で着れば濡れて張り付くためより悪化する。
「男ってさ、水着全開なのと、服とか着て水着が見えずらいのどっちがいいんだろうね」
「さぁ。彼に聞けばいいんじゃないですか? 本音で喋るかどうかは分かりませんが」
きっと「どっちでもいい」というに決まっている。
「白いオフショルダーとか着れば全開よりかはエッチか? いやでも……」
玲奈がブツブツと独り言を言い始めたため夏帆に視線を向けた。
「肌を露出することに抵抗はあるのに可愛い水着がいいんですね」
「はい。鷹山さんに喜んで欲しいじゃないですか。折角屋内プールがあるのに水着を着ないというのは興ざめじゃないですか?」
「彼にいくら奉仕をしても見返りはありませんよ。せいぜい勉強を教えてもらうくらいじゃないですか」
「見返りなんて求めていませんよ? それに私は鷹山さんを振り回してしまったので。働いてもらった分を返しているだけです」
本当にそれだけだろうか。
彼女候補にして欲しいと彼自身に言い、その報告を私達にしたのだ。
挑発、あるいは勝利宣言……と取られてもおかしくない行動。
考える私に夏帆は耳打ちしてきた。
「鮫島さんの競争相手は鷹山さんだけじゃありませんよ」




