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第八十話 恋活女子の猪突猛進さは本当に侮れない。

夏服へと切り替えられる初日。

 全員が薄着へとなりある意味学校全体が熱気を持っていた。


「おっはよう! どうどう!? 美少女の夏服は」


 近藤のようにワイシャツそのままの女子生徒もいれば、鮫島のようにベストを着てしまう人もいる。

 男子からすればただ袖丈が短くなっただけでウキウキするには十分なのだ。

 なにかしらに没頭して恋路は二の次にする鮫島高校の生徒には、これくらいの刺激で丁度いいのかもしれない。


「……太い」

「おまっ! それが乙女にいう言葉か! 重い小麦粉運んでんだよ! 筋肉くらいつくだろうが!」

「ごめんて」


 そういえば実家パン屋だったね。

 後ろにいる土屋とは太さが全然違ったからびっくり。

 もしかしたら俺より腕力あるかもしれない。


「近藤さんを抱きしめているととてもいい匂いがしていいですよ?」

「そこまで近づくことがないから分からん。てか、土屋は長袖のままなんだな」

「勿体ないよなー。薄着になれば鷹山の視線独り占めだったのにねー」

「それは残念ですね」


 冗談めかして俺をからかうのはいいが、俺の前にいる純情ガリ勉少女には説明を頼む。

 冷えた視線だが、今日は暑いからとても助かる。


「鷹山は……ひょろい。もやしかよ」

「そうですか? これくらいが普通だと思いましたけど」

「最近は玲奈となにかにご執心のようなので運動もまともに出来てないんじゃないですか?」


 近藤と俺を同時に攻撃してくるあたり流石だぜ。

 俺はノーダメージだけど友達に隠し事をしている近藤にはクリティカルヒット。超瀕死。


「運動出来てないのはそうだな。もとよりする気もないけど」


 運動なんて体育の授業だけで十分だ。

 こんなクソ暑い日に運動なんかしたらウルトラマンもびっくりの速度でばてる。


「はぁ……そんなんじゃプールとか海行った時に「俺の肉体、惚れ惚れするだろう?」って出来ないよ? いいの?」

「行く予定もないし肉体で魅了しようなんて考えてないから、今のままでいいんだよ。近藤だって、「胸がデカい、小さいから好きになりました」なんて言われたら冷めるだろ」

「うわっ」

「俺の本心じゃないからそんな引かないで」


 横から小さな声が聞こえて視線を合わせるとドン引きした鮫島がいた。

 実際俺は「鮫島の胸のサイズが一番好き」と公言してしまったため引かれるのも無理はないと思うけど。

 例えばの話でドン引きされるとか俺どんだけ人望ないんだよ。


 美少女たちの夏服を堪能して放課後。

 いつものように藤堂の家に行こうと駅に向かっていると見覚えのある二人組が待ち伏せしていた。


「な、なんだぁ! お前ら! 学校内で勝てないからって下校中狙うなんて卑怯だぞ!」

「俺を盾にしてないで」


 待ち伏せしていたのは本田と藤山。

 先輩召喚して俺をボコボコにと思ったがそうではないらしい。


「あ、あのさ、藤堂と連絡とか取り合ってる?」

「いや? なんで?」

「じゃ、じゃあさ。藤堂にごめんって言っといてよ」

「そんなの自分で言えばいいじゃん」

「それじゃ藤堂が警戒するだけだ。了解した。藤堂には「本田と藤山は反省している」と伝えておこう」


 本当なら近藤の言う通り、直接謝ったほうがいいのは確か。

 しかし高校生にもなればそんな純粋な考えを持つ方が珍しくなる。

 藤堂の家や連絡先を突き止めて良からぬことを考えるのは、藤堂に恨みがない俺でも思いつく程度には簡単。


「というわけだ」

「ま、実際に反省してるかどうかは怪しいけどね~」


 それはそう。

 いつもなら返答が返ってくるであろう少し開いた扉からはなにも返答が無かった。

 返答はないが対話する気はあるらしい。

 その証拠に、扉が勝手に閉まらないようにドアストッパーが噛ませてあった。

 前と同じようにルーズリーフが一枚、扉の隙間から差し出された。


「ごめんなさい。声が今出ないです……絶叫でもした?」

「なんで急にシャウトしだすんだよ。普通に怖い」

「え、でも声がかれるってこれくらいしかなくない?」

「勝手に声がかれたことにするなよ。他にも理由があるだろ」


 例えば、涙で声が震えるからとかな。

 その直後、藤堂の部屋からすすり泣くような声が聞こえた。

 ボケた近藤も藤堂の声を聞いてしまえば気まずそうに下を向いてしまった。


「恵ちゃん。開けるよ」


 俺が止めるよりも前に近藤はドアノブに手をかけ中へと入っていった。

 それを追いかけるように俺も部屋の中へ。


 ベッドの上ですすり泣く藤堂は、制服姿だった。

 しかし、藤堂は学校に来ていない。

 なぜ制服なのか、その理由を藤堂自身が話してくれた。


「今日こそは行けるって思った。けど……無理だった。玄関を出ようとすると足が震えて怖くなったの……二人の負担にならないようにって頑張ったのに……二人の優しさに私は甘えて……」


 なんとなくだが、藤堂の言いたいことは分かった。

 辛い時くらい甘えても俺はいいと思うけどな、目の前にいる近藤なんて年中甘えっぱなしだぞ。

 そう思うだけで俺の口からはなんの言葉も出なかった。


 こういう時に俺は動けなくなる。

 藤堂の気持ちを考えると元気出せとは簡単には言えないし、落ち込んだ気持ちを無理矢理元通りに戻すなんて事、俺には出来ない。

 涙を拭う藤堂の手を俺は握ることが出来なかった。


 すると近藤は藤堂の手を掴むとまっすぐに藤堂を見つめた。


「恵ちゃん。あんなことがあったあとだからなんて言ったらいいか分からないけど、信じて! わたしを! わたしは鷹山みたいに言葉が上手くないし鮫ちゃんみたいになんでも出来るわけじゃない、つちやんみたいに人を動かせるような嘘も出来ない。けど! 友達一人くらいなら守れる気がするから! 信じて!」


 最後で台無しだよ。

 だが流石だと思う。

 泣いている同級生の部屋に押し入り自分を信じて欲しいなんてこと、近藤が比べた俺達三人には出来ない。

 しかもだ、信じられるという情報ソースがないならなおさらに。


 


 次の日、俺が自分の席にバッグを置くと教室の入口に緑色の髪が見えた。

 相変わらず前髪で目元はよくわからないが、俺と近藤を見つけると少しだけ口角が上がった。


 恋活女子の猪突猛進さは本当に侮れない。


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