第七話 悪意通り越して殺意を感じる
高校生になって一週間。
電車通学には未だ慣れず、バッグを前に持ってきてそのうえでスマホをいじることしか出来ない。
電車が出発するのを待っていると目の前からピンク色の髪が眠そうに揺れながら歩いてきた。
「あ」
俺に気付いたのか眠そうだった目はキッと険しくなりまるで殺すぞと言わんばかりに俺を睨んだ。
「おはよう」
「......おはようございます」
一応挨拶はしてくれるようだ。
しかしこれ以上は声をかけられそうにない。そんな空気ではない。
お互いに単語帳や電子書籍に目を落として会話はなし。
無言のまま電車は最寄り駅に到着してしまった。
メリハリが大得意なのは知ってるけど、ここまでハッキリされると結構心に来るものある。
一緒にいると嫌がられるから俺は少し駅近くの本屋に寄ってから学校へと向かった。
学校に行けば入学して一週間しか経っていないのに既に友達グループが出来上がりつつあった。
勿論、スクールカーストなるものも。
これといってなにか問題が起きているわけではないが、それでも嘉川幸樹率いる男陣営リア充軍団と長谷川美来の華やかさは周りと比べても一段と輝いて見える。
「ねー勉強会いつにするー?」
そんな煌びやかな一段に入っていてもおかしくない近藤玲奈が土屋の膝の上で頭をゆらゆらとさせていた。
「私はいつでもいいですよ?」
「鮫ちゃんは?」
「そうですね……特に予定もないのでいつでも」
目線を横にいる近藤に向けることもなく淡々と答えた。
「よーし。鷹山はいつがいい」
「俺もいつでも」
高校生になったばかりでアルバイトも特に決まっていない俺達は全員暇しているのだ。
「なら明日は? 土曜日」
近藤が提案すると全員が了承した。
「やったぁ」
「甘え上手ですし甘えさせ上手ですね」
やっと近藤達の方へ目線を向けた鮫島がそうつぶやいた。
確かに入学して一週間でほぼ初対面の相手の膝の上に乗るというのは並大抵のことではない。
「甘え上手な方が男から好印象なんだぜ~? な、鷹山」
「あーまあ。そういう人は少なからずいるんじゃないか?」
「鷹山さんはちなみにどちらですか? 甘え上手な人か下手な人か」
「俺はどちらでも」
本当にどちらでも大丈夫。
構ってちゃんでも、時々たまーに構ってでも平気。
まあ、本当の仕事というのをまだ経験したことないからかもしれないけど。
「おお。見境がない」
「節操ないですね」
「もっといい言い方ない?」
「柔軟性がありすぎて全てにおいてふにゃふにゃなんですよね?」
「なんだろう。悪意通り越して殺意を感じる」
どうか感じるだけで留めておいて欲しい。
「でも対応にしろ、感性にしろ、柔軟な方がお得な気はしますよね」
「確かにー。わたしも鷹山みたいにストライクゾーン広かったら今頃彼氏作ってヨロシクやってたのかなぁ」
若干意味が違うけどまあいいや。
「近藤はなんで鮫島高校に? 言い方は悪いかもだけど偏差値が低いところに行けば勉強そっちのけで恋愛に全力投球出来ただろ?」
俺がそういうと近藤は鼻で笑った。
「わたしはね! ブランドを大事にしてるの! いくら華の女子高生と言ってもさ、馬鹿で有名な学校の女子高生と頭いいで有名な学校の女子高生ではイメージが違うわけだよ。それに、ああいう人達って裏でなにしてるか分からないし怖いじゃん?」
なるほど。
近藤玲奈は恋愛に全力投球ではあるが妥協や安売りは一切しない主義らしい。
くりくりっとした目で純粋に問いかけてくる。
「確かに。自分をしっかりと持つのは大事ですね。私も教訓に致します」
「恋愛のことなら任せな!」
親指を立てグッとサインをする頼もしい恋愛番長。
しかし番長本人は絶賛彼氏募集中。
うーん現実は非情だ。