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第七十七話 人を馬鹿にしくさった恋愛番長の応援

 閑静な住宅街を通っていくとひと際大きな家が見えてきた。

 表札には藤堂の文字が。

 俺がインターホンを鳴らすと鋭い針のような声が聞こえてきた。


「鮫島高校一年一組の鷹山来夢です」

「お、同じく! 近藤玲奈で、です!」

「落ち着けよ」


 ガチャリという音がしてインターホンが切れた。

 視線を近藤に合わせれば顔は不安そうなまま固まり唯一視線だけが動いていた。

 めっちゃ挙動不審。


「入れ」


 黒い重々しい扉が開かれそう言われた。

 前来た時も思ったが藤堂の母親はおそらく元ヤンと言われる人だろう。

 狼のような鋭い目つきは常に不機嫌なように見える。それに加えキツイ口調じゃ近藤がビビり散らかすのも無理はない。


「お邪魔します」

「おおお、お邪魔しましゅ」


 靴を脱いで通されたのはリビング。

 娘のクラスメイトが来るのにジャージ姿というズボラさから散らかっているのかと思ったが全くの真逆だった。

 埃一つ見つけるのも難しいほど掃除は行き届き、家具などもちゃんと動線を考えて配置されているのが分かった。


「昨日の夜から恵美が自分の部屋から出てこない。理由を聞いてもだんまりだ。なにか知っているのではないか?」

「知っています。なぜ部屋から出てこないのか、今日もなぜ学校を休んだのか」

「なぜだ。言え」

「理由を聞いてだんまりなら簡単には言えません」


 ガタンッ! と木製の椅子が後ろに引かれた音がしたと思ったら俺は胸倉を掴まれていた。

 やっべ。心臓キュッってなったわ。


「近藤、藤堂に事情を説明してもいいか聞いてきてくれ」


 怖いのか動けずじまいだった近藤に指示を飛ばすとぎこちなく頷きリビングから出て行った。

 リビングの扉が閉まるのと同時、俺は椅子に座ることを許された。


「子供が親に事情を説明しない理由はいくつかあります。単純に面倒くさい場合、親への説明が必要ないと子供が判断した場合、そして心配をかけたくない場合」

「学校で親へ心配をかけることがあったってことか? あ?」

「さあ。恵美さんがどう考えたか分からないので。今のも自分だったらの話ですし」


 ただ親に心配をかけたくなかったら絶対に言わずに隠し通すだろうなと。

 そう思っただけだ。

 イジメの辛さは経験がない俺には分からない。もしかしたら今俺が出した以上のことが藤堂の中ではあるのかもしれない。


 面接の時のような胃のキリキリ感を友達の家で味わうことになるとは。

 しばらく無言が続き、リビングのドアが開いた。


「えっと……鷹山は帰れって」

「え、嫌われた?」

「いやーなんだろ。鷹山を恐れているっていう話し方だった」

「恵美に何した」

「なにも。本当に嫌がることは一切なにもしていないと誓えます」


 長谷川からの助け方が悪いというなら、俺はなにも言えないし殴られても文句は言えない。

 俺を恐れるのは別に構わないが、このまま藤堂が学校を休み続けるのもあってはいけない。

 そして俺のクラスには俺ともう一人、言葉の殴り合いなら負けなしの超お強い秀才がいる。

 そのことを伝えられればいいが……藤堂母の威圧に小さくなる近藤に任せるのはなぁ。ちゃんと伝わるか心配。


「近藤、通訳をしてくれ」

「え? あ、うん」


 藤堂の部屋の前、近藤が部屋に閉じこもる藤堂恵美に声をかけた。


「恵ちゃん? 鷹山が聞きたいことあるって」

『な、なに? 私に聞きたいこと?』


 扉のすぐ傍にいるのか廊下にいても声がしっかりと通る。

 あくまで伝言という体を取るため近藤に声を出してもらう。


「うん。なんで目をつけられたのかって」

『心当たりならあるよ。五月入ってすぐ、図書室で脚立から落ちそうな私を嘉川くんが助けてくれたの。それを長谷川さんに見られて……かな。かっこよかったから覚えてるんだ』


 ずいぶんと古典的というか、嘉川は文字通り罪作りな男だな。

 自分の周りにいる女子の動向くらいは見ておけよ。

 事情が分かれば俺を避ける理由も見えてくる。


 藤堂恵美が俺を避ける理由、それは女子三人からの新たなイジメを恐れたから。

 長谷川から藤堂を守る形となり、五月入ってすぐの脚立落下と状況がそっくりになったわけだ。

 そして教室内で近藤が土屋からの告白の兼を言ったことで藤堂は助けを求めるに求められなかったのだろう。


 勘違いも甚だしいというのに。


「藤堂。話は聞かせてもらった。安心しろ、俺は誰とも関係を持ってないしクラスメイトをイジメる奴はごめんだ。だから頼って貰っていい。全力で人に甘えろ、頼れ。俺が信用出来ないなら鮫島や土屋でもいい。鮫島なんてあんな鉄面皮だが頼られたら内心喜んでんだから」


 藤堂の反応を窺うことなく言いたい事を並べ立てていく。


「もし先生にも親にも鮫島にも知られたくないというなら知られないように俺達を利用すればいい。俺は、案外チョロいから利用するのは簡単だぞ」


 今の言葉でどのくらい藤堂に伝わったか分からない。

 終始、薄っぺらくなんの根拠もない俺の話。

 到底人の心に響くとは思えないが……。


「そうだよ! 鷹山なんて胸押し当ててれば使えるようになるんだぞ! 超お手軽なんだぞ! 使わないなんて女子として勿体ないって!」


 人を馬鹿にしくさった恋愛番長の応援があれば、少しくらいの説得力は持つだろう。


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