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第七十六話 二人でほっぺは四つある

 次の日のホームルーム。

 雨宮先生からお知らせボードを受け取って読み上げた。

 しかし、近藤の列の最後尾に座る藤堂の姿はなかった。


「鷹山~」

「どうした」

「恵ちゃんのこと」

「なにか知ってるんですか?」


 近藤が藤堂恵美のことを口に出すと鮫島が敏感に察知した。


「いや。珍しいなって話。藤堂が休むなんて」


 いつからイジメを受けていたのか知らないが、この六月まで藤堂は一度も休んだことはないはず。

 だが今回初めての欠席。昨日のことが関係ないとするにはちょっと無理がある。


「近藤さん? 顔隠してどうしたんですか?」

「顔に出るから」

「そうやって隠していたらなにかありましたと言っているようなものですよ」


 鮫島にそう言われ手をどけた近藤だが、顔が酷い。

 目は泳ぎっぱなしで明らかに挙動不審。小学生でももう少し嘘つくのは上手いだろう。


「なにがあったんですか?」

「た、鷹山が言うなって!」


 そんなことは言ってないけど言わないのが正解。

 鮫島に言ったらきっと長谷川を問い詰めにいくだろう。

 本人がいない場で他者同士が争ったところでなにも生まれない。


「私だってクラス委員です。知る権利があります」

「事後報告で許してくれ」

「……またそうやって隠し事を」


 じっとりとした目で見られるが藤堂のためだ。甘んじて受け入れよう。慣れたし。


「私も気になりますが鷹山さんが事後報告でというなら詮索はしませんよ」

「助かる」

「つちやんは相変わらず鷹山の信頼が厚いにゃー」

「心のしがらみを解決してくださったんですから当然ですよ。口の硬さは知っていますし」


 秘密を守るだけでここまで信頼を得られるとは、喋る相手がそこまでいないってだけの話だけども。


「いいでしょう。ただし事態が悪化したらすぐに私にも情報をください。貴方が私に隠し事をする時は大抵人絡みで当人の意思を尊重してのことなので」


 見破られてるー。実際そうだから否定しないけど。


「分かったよ」


 鮫島と約束をした放課後、俺と近藤は職員室へと呼び出された。


「今朝、藤堂さんのお母さんから電話がありました」


 おっと? これは叱られるルートかそれともお礼のルートか。


「話があるから家まで来て欲しいと」

「な、殴られる?」

「覚悟はした方がいいかもな。藤堂が休んだ原因は俺達にあるだろうし」

「鷹山ほっぺ二つあるよね?」

「近藤のも合わせれば四つだな。四回までならほっぺで済むぞ」


 殴られると勝手に決めつけて押し付け合う最低さよ。


「一応聞いておきます、今現状で先生へ説明出来ることはありますか?」

「すいません。ないです」


 俺は即答した。

 本当なら先生にも協力してもらうのが一番だが、俺からすれば【先生へのチクり】は長谷川を止める唯一の武器と言っていい。

 それに、今言ってしまえば自暴自棄になった長谷川が家に押しかけかねない。

 広いおでこに皺を寄せて雨宮先生は「ぐむむ」と唸ったあとに声に出した。


「分かりました。ですが少しでも事態が悪化すれば教えてください」

「鮫島にも言われました。その時は頼らせてください」

「っ! 勿論ですよ! 先生は先生なので!」


 うわぁこの人滅茶苦茶扱いやすい。

 将来結婚詐欺とかに引っかかりそうで生徒は心配です。

 生徒に結婚詐欺を心配される先生って教育者としてアウトな気がする。


「失礼しました」と職員室を後にすれば近藤は呆れた声を出した。


「よくもまあ、雨ちゃん先生に向かって堂々と隠し事が出来るよね」

「先生だからといって情報全てを吐き出せばいいってわけじゃないんだ。渡す情報と渡しちゃダメな情報の区別なきゃ大変だぞ」


 もし金輪際関わりたくない。というのなら責任者でもある担任に丸投げすればいいが、それはかなり無責任な方法。

 一度突っ込んだ首はそう簡単には退けない。


「呼び出しってことはこの後行く感じだよね?」

「だろうな」

「鷹山との秘密……つちやんもこんな気持ちだったんだろうなぁ。全然ドキドキしないけど」

「ドキドキするのは鮫島に「なにがあったんですか?」と尋問された時だけだ」

「めっちゃ分かる。心臓口から飛び出るかと思った」


 単なる質問が鮫島にかかれば尋問へと変わる超錬成。触媒は鮫島彩音という生涯不変の概念だけでいいというコスパのよさ。

 

 四人で仲良く駅まで向かい、俺と近藤は帰り道とは逆の方向へ。

 俺の過去を知らない近藤が「デートしてくる!」なんて冗談めかして言えば、鮫島からの極寒の視線は確実。

 凍えた恋愛番長は逃げるようにして反対側のホームへと走っていった。


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