第七十四話 作戦の粗さ
「長谷川、藤堂に謝れ」
「は? マジうざっ。お前に関係ねぇだろ。首突っ込んでくんなよ」
落ち着け俺。感情的になるな。
相手が長谷川なら俺は必殺の武器を持っている。落ち着け。
この四日間耐えてきただろうが。今感情的になったら全部無駄になる。
「関係ならある。クラス委員だからな。クラス内でそういういざこざはやめろ」
「うっざ~。帰ろ」
「今帰るなら俺はこのまま職員室へ行く」
「好きにすれば? 証拠なんてねぇから」
かかった。
反撃が出来ると俺は口角があがった。
「今俺が職員室に行けば嘉川のインターハイが危うくなるだろうなぁ」
「幸樹は関係ないじゃん? きっも」
「関係ないかどうかは教師が決めることだ。状況によってはインターハイ出場取り消しだろうな」
その状況というのは本当に最悪の場合だけど。
話だけでも聞く気があるのか、長谷川は黒板に寄りかかり俺を睨んだ。
嘉川への好意は本物。それだけで俺の作戦は遂行できる。
「まず一つ。四日前、藤堂に飲み物を買わせただろ。その日だけじゃない、二日前と昨日もだ」
「知らなーい」
「藤堂に買わせたお前らはパックの飲み物を自分たちで飲んだ。スポーツ飲料の方は嘉川とかダンス部の伊波にでも渡したんだろう」
「だから知らなーい」
いちいち鼻につく返答をしてくる。
イラついて事実を突き出した瞬間、俺の作戦の粗さに気が付いた。
だが今はその粗さのまま突き通すしかない。
「藤堂が自分の財布から金を出して買っているのを見ている。難しい話をするなら恐喝罪に当たるわけだ。更に殴った罪、暴行罪だ。ここまでいいか? 一番重い罪はさっきお前が口にした言葉「死ねよ」という言葉」
「そんなの皆言ってんじゃん。あ、友達いないから分からないか~ごめーん」
小学生みたいな理屈だな。皆やってるから良いじゃねぇんだよ。
「今までの会話を藤堂が録音してた場合、自殺教唆くらいは取れるんじゃないか?」
俺は弁護士じゃないから法のことについては基礎知識と少ししか知らない。
「そんな証拠どこにあるんですか~」
「証拠がない不透明さというのは身を隠す霧にもなるし自分を殺す毒素にもなると教えてやる。今近藤に藤堂を追わせているが、間に合わなくて飛び降りたらどうするつもりだ?」
「そんなのアイツが勝手にやったことじゃん。ご愁傷様って感じ」
なるほど。
長谷川達からすれば藤堂の命は笑って馬鹿に出来るものらしい。
どっちが馬鹿なんだか。
「人の命を甘く見すぎだ。命をかけられたら証拠がなくても関係ない。学校側は嘉川含めたお前らを罰するだろうよ。そのスマホで調べてみろ、学校でイジメをした奴の末路が大量に出てくる」
学校で生徒が自殺なんて世間からすれば恰好の的。
そんな世間の風当たりの中、本当にあったのか事実確認がされればいい方だ。
学校側はすぐにでも問題を起こした問題児を排除したはずだし。
「スマホのメモや家に遺書なるものがあれば賠償金くらいは覚悟した方がいい。少年法で実名報道は免れるが、人の口に戸は立てられない。ネットに名前が乗れば日本で暮らせると思わないほうがいいなぁ」
長谷川は分からないが、横二人本田と藤山は事の重大性を理解したのか顔が強張っている。
だが長谷川もこれ以上は藤堂への攻撃は出来ないはずだ。
それでも攻撃が出来るなら本当にどうしようもない。警察にお世話にならないと分からない馬鹿だ。
「鷹山のって仮の話じゃん? 私の都合の悪いほうに持ってこうとしてるけどさ」
「そうだな。けど絶対にない話ではないし、俺の話を仮ということにしても藤堂への暴行や恐喝は正当化出来ないけどな」
イジメが正当化できる理由があるなら是非とも教えて欲しい。
言いたい事が言えたらだいぶ落ち着いた。
あとは長谷川達がどう考えてどう行動するかだ。
藤堂の元へ行こうと扉を開けると、赤い瞳の周りまで赤くした藤堂が近藤に連れられ扉を開けようとしていた所だった。
「大丈夫か?」
俺が聞くとコクンと頷いた。
意味ありげな視線を長谷川に向けると「チッ」と舌打ちをして帰ってしまった。
取り敢えず攻撃が収まればそれでいい。謝るのはあとでも出来るからな。
「鷹山。恵ちゃん送ってった方がよくない?」
「だろうな。いいか、藤堂」
藤堂はまたコクンと頷いた。
平気そうで安心したが完封出来たと思うと悔しさがこみ上げてきた。




