第七十二話 「実質的な無期懲役なんだけど」
近藤玲奈による恋活強化四日目。
「わたしって人望ないね」
「事が事だし仕方ないだろ」
教室に残った俺と近藤。
土屋は道場に新しい人が入り、薙刀を教えるために帰宅。
鮫島は付き合いきれないと帰宅。
「まだやるのか」
「もうちょっと! もうちょっとだけ!」
往生際の悪い。
「なら今日は運動部見ないか?」
四日間図書室で待っていたわけだがいい加減飽きる。俺が。
「だから~運動部はガチ勢が多すぎて恋愛する余裕がないんだって!」
「多いだけで全員じゃないと思うけどな。嘉川みたいなインターハイ出場が決まっている奴は別だろうけど補欠とかベンチ入りの奴は結構適当な気がするぞ」
勿論その中にはレギュラー入りを目指して努力する人もいるだろうけど。
ただ『鮫島高校の運動部』というだけである程度のステータスを得られる。それほどに鮫島高校の運動部という肩書は重い。
「鷹山がそういうなら見てみるか~。んで、どこから行くの」
「どこから行きたい」
「校庭」
「なら陸上部から行くか。嘉川がいて様子を見やすい」
知り合いがいないならいないで適当な嘘ついて見学させてもらうだけだけど。
靴へと履き替えて校庭に出ると熱気が伝わってくる。
強豪校というだけあり鮫島高校では部活動事に専用の場所がある。
普段の体育や体育祭は目の前の砂地の校庭。校舎を背にして奥が陸上部のトラック、右には野球グラウンド、右奥にはサッカーのピッチ。左にはテニスコート。
というように敷地面積は広い。
「こう見ると鮫島高校ってめっちゃ広いよね」
「校舎もデカいしな」
補欠部員らしき生徒が砂地の校庭を走り込みしているのを横目に俺と近藤は陸上トラックへと向かった。
これまた広い陸上トラックでは短距離を追い込む人、長距離でペース配分を測ろうとする人、そして自分の限界に挑戦する人がいた。
嘉川幸樹は自分の限界に挑戦する人に入るわけだ。
嘉川のファンなのか観客スペースには女子生徒が多い。
「近藤は嘉川についてどう思う」
「どう……頑張ってな~くらい」
「恋愛対象には入らないのか? 長谷川のこと抜きにして」
「嘉川は陸上一筋でしょ絶対。なんか……大事にしてくれなさそう。「わたしと仕事どっちが大事なの!?」って聞いたら仕事って即答するタイプじゃん」
そこまで正直ではないだろ。
「口だけでも「お前だよ」って言ってくれるだろ」
「口先だけの愛なんて虚しくなるだけだい!」
口先だけの愛を受けたことないから分からない。
視線を横にずらすと補欠部員たちが基礎トレーニングに励んでいた。
「今度はああやって地道に努力する人と、嘉川みたいに地で天才を行く人。どっちがタイプだ。ちなみに性格は嘉川みたいな善人だとする」
「それなら天才の方かな? なんでもしてくれそう」
「天才=万能じゃないからな」
「またまた~。鷹山も万能の部類に入ると思うけど?」
「そりゃどーも」
「てなわけでこれからも恋活強化には付き添ってもらう」
四日間の成果のなさに絶望したのか近藤の瞳には光がない。
「実質的な無期懲役なんだけど」
「わたしと一緒にいるのが刑罰と一緒だっていいたいのか!? おおん!?」
「うん」
嘘をつく理由もないし即答。
「鷹山より有能な彼氏見つけてマウントとってやる! いびってやる!」
「虎の威を借る狐もここまで来ると清々しいな」
すごいのは近藤じゃなくてその彼氏だろうに。
近藤に胸倉を掴まれていると近藤に声をかける人物が。
「あー! 近藤さん!」
前から声が聞こえ向くと短髪な女子生徒がいた。
「この前はありがとう! あの時はバタバタしててお礼言い忘れちゃってたからさ」
「いいって。やりたくてやっただけだからさ」
「マネのお手伝いはいつでも募集中だから! またよろしくね?」
近藤の手をとって腕をブンブン振ると女子生徒は走って戻っていった。
「元気な子だな」
「わたしと比べたらまだまだだけどな!」
「知ってるか? 元気を通り越すと騒々しいというマイナスイメージに変わるんだぜ?」
「耳元で拡声器もって叫んだろか?」
「鼓膜ないなる」
外の運動部をある程度あたったが近藤が夢中になるような人はいなかった。
となるとあとは室内の運動部。ダンス部や柔道、剣道などだ。
「結構楽しい。部活動見学」
「楽しめてるようなら結構だよ」
「その調子でわたしを楽しませろ。一般兵くん」
「いつかクーデター起こして一番苦しい殺し方をしてやる」
上履きへと履き替えて体育館へと向かった。




