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第七十話 恋愛番長、近藤玲奈の恋活強化

 翌日の放課後、近藤玲奈による恋活強化が始まった。


「よし! やるぞ!」

「図書室では静かに」


 カウンター付近で息巻き物色する近藤とそれを止める鮫島。

 土屋の隣には同じ図書委員の池本が凄く居心地が悪そうにしていた。


「鮫島がいるなら俺いる必要なくない?」

「男目線のアドバイスが欲しいということでしたね」

「俺目線なんてなんの役に立つんだよ」

「鷹山さんならいいアドバイスが出来ると思いますよ? ほら、鷹山さんは人の弱みとか見つけるのが得意じゃないですか」

「その言い方だと悪人みたいだな」

「観察眼があるってことです」


 なら最初からそう言って欲しかった。

 当初の目的の近藤に目を向けると琥珀色の瞳を大きく広げていた。

 その目線の先には上級生らしき男子生徒がいた。

 爽やか系で黒メガネをかけた男子生徒だ。


「よし決めた! あの人に声かけしてみる!」

「どうやって近づくつもりだ? こんだけガラガラで近くに座るのは不自然だぞ」

「そこは任せろい。気配消して近づくから。気がついたら斜め前に美少女とか絶対ドキッってするでしょ」

「そのドキッは恐怖のドキッじゃないか?」

「運命的でしょ?」

「致命的だろ」


 気配消して近づくとか暗殺者かなにかか。

 呼吸を整えると近藤は足音を消しながら近づけた。その手には教科書とノート。……なぜ数学の教科書に歴史のノートを持っていくのはなぜだ。


「私達も配置につきましょう」

「配置て。楽しんでる?」

「まさか。友人がやりたいことを応援したいだけです」


 平坦な声で楽しんでいるようには聞こえないが、その目はキラキラと輝いている。

 楽しんでいるなら大いに結構。どう楽しんだらいいのか教えて貰えると非常に助かる。

 近藤から少し離れた席に俺と鮫島は座った。

 

「貴方から見てあの男子生徒はどうですか?」

「どうだろ、人は見かけじゃ分からないからな」

「本当にそうですよね」


 不自然なほどの明るい笑み。まだ根に持っているようだ。

 辛抱強さが鮫島彩音の魅力だとその母親から言われたがその辛抱強さを目の当たりにすると心臓がキュッとなる。


「ま、まあ。爽やかそうで初対面の印象はいい。読んでいる本は……虫の資料集。読書態度が悪いわけでも挙動不審なわけでもない。ただ少年のような目で資料集を見ている。虫が苦手だったり読書家が嫌いじゃないなら悪い印象は思わないだろうな」

「玲奈が動きましたね」


 近藤も男子生徒が虫の資料集を読んでいることに気が付いたのだろう。図書室で声量を落としているせいでハッキリとは聞こえないが表情を見る限り両者ともに笑っている。

 男子生徒が見せたのはテントウ虫のページ。声量が上がってきたせいで男子生徒の声だけ聞こえてきた。


「ヒメアカホシテントウって言うんだけどね? この黒い上翅に一対の星が特徴なんだけど美しいよね~。しかもだよ、テントウ虫って益虫なんだよ。クリとか梅の樹木につくカイガラムシを食べてくれるんだ。それでね――」


 まあ、テントウ虫は幸運のジンクスがあるくらい人気というか知名度があるからその熱狂的なファンがいても特別不思議ではない。

 ただそのファンの話は虫嫌いからすれば耳をふさぐほど生々しいようだ。

 話されている近藤は顔が引きつっているし返答も「そうなんですね~」とか「知りませんでした~」とかいう「女子が男子に使うさしすせそ」になっている。


「あっと。ごめんね、これからまた採取にいく段取りを決めなきゃいけないんだ。よかった君も……」

「結構です!」

「そっか。じゃ縁があったら」


 男子生徒は本を元にあった場所に戻すと図書室をあとにした。

 そして脱力する女子二人。


「なぜ鮫島まで疲れてるんだ」

「虫の話を聞かないように円周率と素数を数えていました。三〇〇一まで数え終わりましたから」

「シングルタスクでよかったね」


 そうじゃなかったら数えている間にも会話が微かに耳に入って集中どころではない。


「マージで。途中なに言ってんのか分からなかった」

「人は選べよ。明らかに昆虫オタクだっただろうが」

「イケメンだったんだもん! そんなイケメンが少年のように目輝かせながら本読んでたら可愛いじゃん!」

「近藤さん。声が大きいですよ。まあ、気持ち分かりますけどね?」


 俗にいうギャップというやつだろう。

 大人っぽい女性が感情に任せて頬を膨らませたり逆に普段子供っぽい女性が冷静に対処する姿にドキッとするのと同じだろう。

 だからといって虫の資料集を目を輝かせて読んでいる人に声はかけないけどな。


「どうしますか? まだ粘ります?」

「粘る! 三人とも準備はいいか!? いいならわたしについてこい!」

「俺飲み物買ってくるわ」

「スマホ置いてけ」

「……」

「逃がさないぞ?」


 しっかりと準備された場面で上目遣いでもされて甘えたような声で言われればガチ恋必至なのにこの状況で言われても恨みしかない。簡単に了承した過去の自分にな。


「鮫島、財布持っててくれ。中身はそんな入ってない。千円だけ」

「少なっ! 中学生の財布かよ」


 家で入れてくるの忘れたからな。

 財布という人質を置き自動販売機まで向かった。


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