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第六十六話 教師が解決出来ない問題

 体育祭が終わって次に俺達が迎えるのは定期テストだ。

 運動のみならず勉学でも優秀な鮫島高校は勉強もガチとなる。


「座学なんて滅べばいいんだ」


 勉強が好きではない人から言わせれば滅びて欲しいレベルで情報量が増えるらしい。

 昼休み、牛乳パックにストローを差した近藤が呟いた。


「これくらいでなにをいう。夏期講習はこの倍の情報量だぞ」

「夏期講習には行くつもりないしいいもん」

「鷹山さん達は参加するんですか?」

「そうですね。毎年参加していますし、その後の合宿はいい勉強理由になりますよ」


 確かに、去年は山奥で缶詰だったな。

 外に出ても森で虫取りくらいしかすることがない環境で鮫島は黙々と一人で勉強してたっけな。

 勉強しかやることがないという極限状況。近藤からすれば地獄だろう。


「そうは言っても、合宿内でイベントはちゃんとあるぞ? 肝試しとかスイカ割りとか流しそうめんとかな」

「そのイベントだけやりたい」

「楽しそうですね。鷹山さんが参加するなら私も参加してみてもいいかもしれませんね」

「イチャコラしやがってよ!」


 土屋の積極アピールは日々続いている。

 美少女に「貴方がいるから」とか言われたら悪い気はしない。絶対顔には出さないけど。


「勉強合宿は勉強のためにあります。合コンなどの出会いの場ではありません」

「いえいえ、私はただ夏期講習や勉強合宿という機会を逃さないようにしようかなと思っただけです。出会い目的の参加なんて心外です」

「そうですか。ただ彼ばかりを頼りにしていると出会い目的だと言われても仕方ないんじゃありません?」

「それはそうかもしれませんね」


 俺のことを話し合われているのに取り合っている感がないのは二人がとても落ち着いているからか、それとも見えない火花を散らしているからか。

 今年も夏休みは勉強漬けになりそうだ。

 本音をいうなら折角鮫島と高校でも一緒になり仲直りとはいかずとも一緒になれたんだから色んな所に行きたい。

 だが鮫島が勉強以外の理由で動くビジョンが見えない。例え勉強だとしても俺からの誘いを了承してくれる可能性はとてつもなく低い。


 定期テストに向けて放課後少しでも勉強を……と思ったのだがそうは行かないらしい。


「おや? 四人だけですか?」

「雨宮先生。どうかしましたか」


 近藤のノート作りを手伝っていると雨宮先生が教室に入って来た。

 最終下校時間近くということもあり生徒はおらず運動部の撤収の音が聞こえる。


「実は相談がありまして。先生でも中々解決出来ない問題の」


 眉を寄せて腕を組む雨宮先生。

 教師が解決出来ない問題を生徒が解決できるとは思えないけどな。


「ここからは内緒ですよ? 体育祭が終わってからちらほらとイジメの問題が増えますので異変調査をお願いしたいわけです」


 教師の目の届かないところを生徒の目で補うわけか。

 俺達がイジメる側になるかもしれないのに。 


「イジメを受けている人のことを考えるとイジメている人達に直接聞くわけにもいかず、どうしたらいいのか分からないんですよ」

「退学にでもすればいいと思います。人の話を理解出来ないんですから物理的に距離をおくしかありません」

「学校外で復讐されたらどうするつもりだよ」

「その程度の輩ってことじゃないですか。自分がしたことの反省が出来ないほどの」


 物理的に距離を置くことに対しては賛成ではあるが退学はむしろ逆効果。

 学生という足枷をさせたまま大人しくさせるのが最善策。

 やはり「先生にバレているから怒られるまえに止めておけ」というブラフしか俺は思いつかない。


「過去にイジメられていた側から言わせて貰いますと、あまり大事にはして欲しくはないですね。先生にバレて処罰という時点で大事です」

「土屋さんはどうして大事にはしてほしくないんですか?」

「恥ずかしいといいますか、人にバレると激しい劣等感に襲われるんです。だから見て見ぬふりというのは下手なアクションを起こされるよりは断然いいです」


 俺はいじめられた経験はないからわからない。

 ただ土屋の表情から読み取れる情報というのは純粋なマイナスだ。

 そっとしておいて欲しいという願いが感じられる。



「つちやんをどうやったらイジメられるんだ。でかぱいとかそういう感じ?」


 悪口の語彙が小学生男子。


「お金で男を買っているとか、召使いと毎日致しているとかですかね」

「うわーえぐっ! でももう大丈夫! つちやんの悪口いう奴はわたしがぶっ飛ばす」


 土屋に一番殺意抱いてんのは近藤自身だろうに。


「大事にはせず穏便にかつ二度と起こらないようにしなければいけないか」


 そりゃ教師という大人でも頭悩ませますわな。


「幸い、一年一組から出たという報告はないですが今後もしあった時のためになにか浮かんだら教えて貰えるととても先生は助かります」

「いいんですか? 一生徒にそんなこと教えて」

「鷹山くんと鮫島さんは信頼に置ける人物です。それに、もし情報が流れてしまったら四人とも罰せられるだけですから」

「裏切るなよ鷹山!」


 真っ先に裏切りそうな近藤に言われたくない。


「分かりました。なにか浮かんだら知らせますよ」

「テスト勉強で忙しいとは思いますがよろしくです」


 小さな体を折りたたみお辞儀をすると雨宮先生は教室から出て行った。

 体育祭と定期テストの合間にイジメ問題とか休む暇ないな。

 教師がブラックと言われる理由が少し分かった気がする。


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