第六十四話 亭主関白な見学
日曜に同級生がせっせと料理をしているのを机に座りお茶を飲みながら眺めるというなんとも贅沢な時間の使い方。
手伝いたいのは山々だが、鮫島と土屋の料理ペースに俺はついていけない。
「つちやん、これどれくらいになったらいいの?」
「粘り気が出るまででしょうか。あと少しです。頑張ってください」
「彩姉。牛乳っていくつだっけ?」
「二〇〇です。ちゃんと測っていれてくださいね」
この通り、俺が入る隙間がない。
俺一人で完結できるなら入っても邪魔にはならないだろうが、料理出来る人一人に対して出来ない人一人つくマンツーマン形式じゃ俺は座っているほかない。
「どうよ鷹山」
「なにが」
近藤がボールでなにかをかき混ぜながら謎のドヤ顔。
「女の子がなにかしてくれるってさ」
「悪い気はしない」
「だっしょー!こんな彼女いたらいいっしょー」
「まあ、料理が出来るのに越したことはないんじゃないか。近藤はなにか得意な料理でもあるか?」
「んーカップ麺」
「分かった。聞いた俺が悪かった」
真剣そうな顔して出てくる答えがそれかよ。
普通の卵焼きでいいから作れるようになろうぜ。最悪味噌汁作れればなんとかなるから。
「桃でも味噌汁は作れるぞ。味くっそ濃いけど」
「薄いよりいいじゃん!」
「カップ麺も立派な料理だい!」
うるさいのが増えると耳が痛い。
あとカップ麺は料理にカウントされない人がほとんどです。
「土屋はなにか得意な料理あるか?」
「そうですね……和食全般といった所でしょうか。和菓子も作れますよ。テレビで見るような細かい装飾は練習中ですが」
「鮫ちゃんは? なんかある?」
「私は特にこれといって得意なものはないです。強いて言うなら全ての料理は出来ます」
「うぇ?」
「やめろ近藤。自分と比べたら終わるぞ。存在意義とかが」
その内自分が無駄に二酸化炭素排出するゴミに思えて来るから。
鮫島と比べるときは絶対に負けないもしくは、勝てそうという自信があるものだけにしよう。
「そういう貴方はなにか得意な料理とかあるんですか?」
「俺? んー出来ると言えば出来る。レトルトとか半ば出来合いのもの使うけど」
麻婆豆腐を作るのに毎回一から作るわけにもいかないし。なによりめんどい。
俺は貧乏舌だし、レトルトでも美味ければそれでいい。
「わたしより……出来るっ! だと!」
「俺以下となるとまずいぞ。恋活女子が料理出来ないのは中々致命的だろ」
「そうですね。鷹山さんを一般とするなら同じくらいは出来ててほしいのではないでしょうか」
俺からすれば別に出来なくてもという感じではあるが、俺より良物件の男を捕まえるとなると料理スキルは必須になってくる。
「どうせなら二人から習ったらどうだ? 自分が好きな料理くらいは作れるようになると嬉しいものだぞ」
「鷹山はなったん?」
「まあな」
魚の煮つけの作り方を中学生ながらマスターしたよ。
といっても、味さえ決めてしまえばあとは火加減はそこまで見なくていいというのが俺の経験則。
「よーし! 二人にはわたしに料理を教える権利を上げよう」
「随分と偉そうですね」
「お願いします! 教えてください! 後生ですから!」
「お兄、この人にプライドないの?」
「俺に聞くな」
見たら分かるだろ。微塵もない。
「打ち上げ用の料理はほぼほぼ完成してしまいましたし。なにを作りましょうか」
「では、おにぎりなんてどうですか?」
「おにぎりくらい簡単だい!」
土屋が持ってきた特大の炊飯器から四人でおにぎりを作っていく。
ただ単に『おにぎりを作る』と言っても案外難しい。
「わぁ。彩姉の凄い綺麗!」
桃が感嘆の声をあげた。それほどの鮫島のおにぎりはちゃんと三角形。
「そういう桃こそ……食べ物で遊ばないように」
「ひっ! ち、違うの! これは芸術性を追い求めた結果直方体になっただけで!」
どんな芸術性を求めたんだよ。
「安定感あるじゃん?」
食べ物に安定感いるか? どちらかと言えば味とかに安定感が欲しい。
決して、立つか立たないかという安定感はいらない。
「鮫ちゃんとつちやんのは綺麗だけど……歪。丸でも三角でもない」
「手のサイズもあるだろ。近藤は手が小さすぎて包み切れてない」
「可愛いだろ?」
「……おう」
「今間があったー。罰として一つ作ってみろ」
ラップを広げられ俺の手に熱々のご飯が乗せられる。
料理するつもりなかったから手、洗ってないんだけど。そのためのラップだろうけどさ。
丹精込めて握った俺のおにぎりはまん丸。
「ここまで丸いと腹立つな」
「どうしろってんだよ」
ラップをとって俺は自作の丸おにぎりにかぶりついた。
その後も近藤は悪戦苦闘しながらもお盆一杯のおにぎりが出来上がった。
「作りすぎちゃったね」
「そうでもないだろ。それ、道場の生徒に渡すんだろ?」
「道場?」
「それって剣道の!?」
桃が興奮気味に食いついてくるが「薙刀」と言って否定。だが桃のテンションは上がっていった。
「よく分かりましたね」
「微かに声聞こえるし、日曜で昼頃にそんなデカい炊飯器持ちだしたんだ行き先は限られる」
「本当は一人で作るつもりだったんですが丁度良かったです。渡して来ますね」
「俺が持つよ。流石に重いだろ」
軽く二十個以上はある。
大きさはまちまちでバランスも悪い。
土屋が道場に顔を出すと全員が稽古を止めお辞儀をしてきた。
「皆さん。お昼にしましょう。今日は友人と一緒に作ったので大きさや形はまちまちです」
「ちなにみ俺は一切手伝っていない。このおにぎり達を作ったのは土屋に負けず劣らずの美少女達だ」
その情報だけでこの後の稽古も頑張れる人もいるだろう。
薄い塩味しかついていないおにぎりだが約十人強の生徒には笑顔があった。
桃が言ったことも間違いではないかもしれない。
ママっぽい。




