第六十一話 「私を彼女候補にしてください」
騎馬戦は一年の圧勝。理由は簡単、嘉川が強すぎるのだ。
騎馬が崩れる前に相手の騎手を倒す、嘉川本人は体幹が強くバランスを崩すことはなかった。
部活動対抗リレーについては完全に真面目に遊ぶ感じだから勝ち負けはない。
俺の狙い通り、騎馬戦後の本気の遊びということで熱気は凄まじかった。
『ただいまの競技をもちまして、鮫島高校体育祭の全競技が終了しました』
「よっしゃー。仕事終わりー」
「どうだい。初めての主導は」
「あんまり大変とは思いませんでしたね。競技順決めて競技に必要なもの確認して、自分らで出来なかったら先輩達に手伝って貰えれば手が足りないってことはありませんし」
「それは貴方だからです。普通の人はへとへとに疲れているはずですよ」
「人を普通の人じゃないみたいに」
「楽しめたら大したものだな! 次は文化祭だ」
「夏のオープンスクールはいいんですか?」
「夏には生徒が来ないんだよ。ほら、夏期講習とか勉強合宿に参加するだろう? 受験生の夏は勉強が一番って感じだから」
言われてみれば俺もそうだった。
まあ、俺の場合はオープンスクールには一度も参加せずに決めたからな。
超良くない例。
あとは閉会式して帰るだけだ。
結果から言えば、一年生は三位、最下位だ。
ただ所々の競技で上級生に勝っているし完全な負けではない。
来年はいい線いけると思う。
打ち上げを企画する嘉川チームと別に俺達の恋愛番長が活き活きしだした。
「わたしらも打ち上げをしよう」
「体力無限か。炎天下にいたんだから今日は休め」
「嘉川達にも言えよー」
「言っても聞かないだろ」
「明日は日曜日ですし明日というのはどうですか? 月曜日以降になればテスト間近になってやりづらいでしょうし」
「そうですね。やるなら日曜日が適切ですね。私も疲れていますし」
土屋と目が合うと二コリと笑われた。
帰りのホームルームを終えて女子は仲良く三人で、俺は一人で帰ることに。
その方が都合がいい。
電車に乗っていつもより早い駅で下車。改札で待っていると土屋夏帆が小走りで来た。
「待っててくれたんですね」
「土屋がいなきゃ不審者だからな」
「娘さんと会う約束しているので、中で待たせてください」とかどこから見ても不審者だし警察を呼ばれても文句は言えない。
「それじゃ行くか」
スマホをポケットに仕舞って土屋邸へと足を向けた。
「騎馬戦凄かったな」
「そうですね。嘉川さんがとても強かったですよね」
「あれでイケメンとかホント世界均衡崩れる」
「鷹山さんも十分カッコイイですよ」
「このタイミングで言われると慰められてる気がしてならない」
体育祭の感想を話していると土屋の家に到着した。
「ただいま帰りました」
「お邪魔してます」
リビングにいた土屋両親にお辞儀をしてから土屋の部屋へ。
……こうも女の子の部屋に出入りすると自分がクズな気がしてならない。
「座布団です」
「ありがとう」
お互いに座りしばらく無言が続いた。
土屋はなんども口を開いたり閉じたりしてなにか言おうとしていたのは分かる。
俺はなにも言わずに声に出されるのを待った。
「た、鷹山さん」
「うん?」
「私を安心させてください」
「はい?」
まさかの要望に頭が一瞬理解を拒否した。
ゆっくりと頭を動かし俺は声に出した。
「あーっと。俺は土屋からどんなことを言われても否定しないと誓おう。なにを言われるのは分からないしもしかしたら俺はこの場で絶交されるかもしれない。それを甘んじて受け入れる。そして俺は土屋の心が決まるまで待つ。ゆっくりでいい」
意識して落ち着かせようとすると言葉がやっぱり分からない。
コテコテの言葉ではあるが土屋には届いただろうか。
「急な振りなのによく言葉が出てきますね」
まだ落ち着かないのか声が若干震えている。
「まあ、中身がありそうでなさそうな言葉を並べ立てるなら誰でも出来る」
「頑張れ」とか「お前なら出来る」とか「すごーい」とか。
一見話を聞いてそう、相手と会話してそうでもその実聞いてなかったり飽きていたりする。
そしてこれらの言葉は中身がある言葉としても使える便利な言葉でもある。
「私は言葉が上手くありません。完全に私のペースに巻き込めれば別ですが」
「うん」
「なので単刀直入に言います、鷹山来夢さん」
急にフルネームで呼ばれ反射で背筋を伸ばした。
土屋から言われた願望はとても不思議なものだった。
「私を彼女候補にしてください」




