第六十話 男女混合二人三脚
借り物競争が終わって俺は本部席に戻らず、入場ゲートへと向かった。
次の種目は男女混合二人三脚。
運動ガチ勢が集まる鮫島高校では一番華がある競技だとか。
「頑張りましょうね?」
「おう」
「あ、安定性強化のためにこっそり結束バンドで縛りますか?」
「普通にルール違反だしゴールしたあとどうやって解くつもりだ」
「それほど強固な繋がりということでいいんじゃないでしょうか」
「結構投げやりでびっくり。取り敢えずその結束バンド仕舞え」
少々不満ながら土屋は結束バンドをポケットに仕舞った。
「あれ、神崎先輩?」
俺達が並んでいると神崎先輩が女子生徒と共に並んできた。
「やあ」
「随分暗い「やあ」ですね」
「出たくもない競技に「お前が一番平和だから」とかいう意味不明な理由で出場が決定したんだ。落ち込むさ」
それを相方の横で言える胆力は素晴らしい。中々出来るもんじゃない。
相方の方をチラッと見ても無感情で肯定も否定もない。
「あんまりそういうのを相方の傍で言わない方がいいですよ」
「平気だよ。彼女にもそういう気持ちでやると元々伝えてあるし、不満たらたらだとクラス連中も知っている」
カッコ悪いことを平然とした顔で言ってのけるショタ先輩。
「やっぱり愛のある選抜じゃないと辛いだけですよね?」
「俺達だって愛ないだろ」
やる人がいなく仕方なくやるっていうのと、俺からの好感度上げだったっけか? 土屋は。
「どうしてそういうイジワルするんですか?」
「俺からすれば、なんでそういう本気か嘘か分からないような仕草するんですかって感じ」
「楽しいからです」
恋愛耐性ゼロだって言ってんだろうが。マジになるぞ。
遊び慣れていない男のチョロさは空腹の犬並みに食いつき早いぞ。
「鷹山さんは鮫島さんから命令を受けていますよね?」
「まあ、虫近づけて罰として課せられた奴な」
「なら私とも約束してくださいませんか?」
「なにを?」
「この二人三脚で一位を取れたら私の家に来てください」
「なんのために」
「それは家に着いてからお話します」
やはり土屋の顔からは情報が全く取れない。
なんの用があるかは、本当に行ってみないと分からないか。
入場ゲートからトラック内に入った俺達。
ベンチで足首を結んで解けないようにする。ちなみに、解けるとその場での結びなおしが発生しかなりのタイムロスとなる。
「ああ、そうだ後輩。この鮫島高校の二人三脚には暗黙のルールというものが存在する。知っているかい?」
「いや全く」
「そうだろう。今年は僕がやることになってね。真面目にやる気もないから了承した。さっさと一位でゴールして見ておくといい」
「その暗黙のルールとは?」
「なぜこの競技だけ男女混合なのかということを考えればすぐだよ。騎馬戦が男女混合じゃないのは単純に危ないからさ。二人三脚でのみ有り得るシチュエーションさ」
ここまでヒントを貰っても俺には分からなかった。
そしていよいよスタートの時。
ほんの数週間という短い時間ながら俺達は練習してきた。出会って二か月ちょいという期間で息を合わせるのは苦労したがそれでもやれる。
その自信だけはあった。
『位置について……よーいドン!』
結んだ足から前に出し徐々にスピードを上げていく。
足を踏み出すたびに視界の端で白い生地に包まれた大きななにかが揺れる。
集中しろ鷹山来夢。競技中だし大勢の生徒の前だ。耐えろ。童貞には辛いだろうが耐えるんだ。
煩悩を払拭するべく足元に意識を向ける。
今のタイミングからなんの合図もなしにペースは速めたら土屋はついてこれるだろうか。
いや、やるしかねぇ。じゃなきゃ意識が胸に持っていかれる。
少しタイミングを速めると土屋はなんのリアクションもせずについてきた。
そして鮫島に課せられた罰を俺はクリアした。
「よっしゃ! 一位でゴールだ! うぇあ!」
ゴールしたと力を抜いた瞬間、土屋が転んだ。
『おーっと! 鷹山土屋ペア、ゴールした直後に大転倒! 他生徒たちのヘイトを買っていく!』
転んだ土屋に覆いかぶさるように腕をついた俺。運動したからか頬を少し上気させた土屋夏帆はとても色っぽい。
がしかし、これ以上この体勢を維持するわけにもいかず俺はすぐに土屋の上から退いた。
「ごめんなさい。急な運動をしたので足がもつれてしまって」
「こっちこそ。急に止まって悪い」
そう言いながら俺は土屋との拘束を解いた。
これで体育祭後に土屋の家にいくのは決定した。
どんな話をされるのかまったく分からない。




